第4話 不遇な弟妹
恋というものは実に難しい。気になる子が他の人と良い感じを醸し出しているのが分かると、何とも言えないもどかしさに包まれる。ましてやその相手が自分の兄弟なら尚の事。
それを象徴するかの様に、いつも通りに通学路でも自然と出来上がった位置関係。息ピッタリな雰囲気。それは今までの学校生活においても例外じゃなかった。
そしてどうやら、
「あっ、見て? 見て? クラス分け張られてるよっ」
「おっ? マジだ! 4人で同じクラスだったら良いな……っと」
「ふふっ、2人共焦り過ぎだってぇ」
その例外が今年覆る可能性は、
「あっ! あった! 俺7組」
「私もっ! えっと湯真と恋桜は……」
「私達は……1組だね」
もはや早々に消え去る。
学校へ到着するなり、目の前に現れたのはこの時期恒例のクラス分けだった。そして無常にも一筋の希望はあっさりと断ち切られる。
はははっ……今までの経験上、なんとなくそんな予感はしていたよ。
「またバラけたなぁ。まぁ仕方ないかっ!」
「だね? じゃあ7組はこっちからの方が早いから、また後でねっ? 2人共」
そう言いながら仲良く同じ階段へ向かうお似合いの2人。
もはやこんな光景が毎年の恒例行事になるとは思いもしなかった。そして……
「……はぁぁぁぁぁ」
大きな溜息と共に、一瞬で死んだ魚の様な姿に変わるこいつを見るのもね。
「おーい、目が光を失ってるぞ?」
「むしろ失わない方がおかしいでしょ? あぁもう嫌だ。また憂鬱な1年が始まるぅ!」
「んな事言っても仕方ないだろ」
「湯真は嫌じゃないの? またあの2人一緒のクラスなんだよ?」
「それは……」
正直言うと……嫌な訳がない。去年のクラス分けでも同じクラスだったあいつ等を、俺と恋桜は遠く離れたクラスで羨ましそうに眺めていたんだ。
これがたまたまならまだ分かる。でもさすがに、小等部から今まで1度も同じクラスにならないのはおかしいと思う。
記憶にある限りあいつ等が離れ離れになったのは小等部3年の時のみ。あとは……あぁ思い出すだけでイライラしてきた。そうだ、同じクラスで必ずと言って良い程学級委員長と副委員長に任命されている。
それに比べて、俺と恋桜はあてつけのように毎年同じクラス。約10年間お互いに好きな人と同じクラスになった事はない。そして今日この日をもって11年目を迎えたのだ。
恐らく先生たちの間で不正な取引が行われているに違いない。でなければ、もはや運命的に結ばれることがないという示唆。
まぁどっちにしろ、そんな流れにもはや慣れ切っている自分が居た。恐らく来年も無理だろう。切り替えないと、気持ちを切り替えて作戦を練らないと……ってまずは……
「とにかく恋桜。いつまでそんな顔してんだよ。教室行くぞ? ったく、人が居ないから良いものの……こんな姿誰かに見られたらどうすんだよ」
「うぅーそんな心配が余計に傷を広げるー! 嫌だぁ! 行きたくないぃー!」
毎年の風物詩を終えないとな。
「はいはい。行くぞー」
「いーやーだー」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ガラガラガラ
「あっ、おはよう恋桜」
「
「また一緒のクラスだね? 月城さん」
「本当ね? 私も嬉しいよ。
…………って! いつ見てもその切り替えは怖ぇよっ!
「雨宮ー、おはよう」
「おっ、おう。おはよう」
「恋っちゃんおはよー」
「おはよう、マコちゃん」
しかし、こうして見ると学校での恋桜は、あいつらに負けず劣らずな部分が……ある気がする。
凜桜と海真は持ち前の明るさで皆を引っ張るタイプだから、同級生の間はもちろん、中等部全体でも有名だった。恐らく高等部でもその道を辿る事だろう。
対して恋桜。素モードとは違い、学校では落ち着いた雰囲気を醸し出す。それがどうも同級生なのにお姉さんっぽくて……あいつ等とは違う意味で頼りになる存在の様だ。
それに顔も凜桜と瓜二つなんだから悪くはない。それにスタイルも……ただ残念な事に、おれはその本性を知っている。
ガラガラガラ
「あっ、先生だ!」
「座れ座れ!」
っと、先生来たか。そう言えばあいつらとクラス分かれるのは目に見えてたから、ちゃんと見てなかったな? 担任の先生の名前。出来れば、面倒見の良い先生が……
「はい。皆さんおはようございます。ホームルーム始めるので、席について下さーい」
ビンゴ!
「あっ、
「やったね?」
「おはようー葵花ちゃん」
「こぉら! 先生をちゃん付けで呼ばないで下さいっ」
なんかクラス分け運は悪いけど、担任の先生運は強いんだよなぁ。
この人の名前は
まぁ生徒達の話もちゃんと聞いてくれるし、話題にも軽々付いて行く辺りも流石としか言えない。ちなみに去年も俺と恋桜の担任だった。
「あっ、そうそう。今日のホームルームで、早速だけど新しい学級委員長と副委員長を決めないといけないんだけど……まずは誰か立候補する人居るかな?」
「……おい、お前やれよー」
「なぁに言ってんだよ! 俺なんて絶対無理無理」
「俺だって嫌だぞ?」
まぁ……当然こうなるわな? 毎年恒例の光景。
思い出すなぁ。結局去年、俺と恋桜がやったんだよな? てか、殆ど小等部・中等部から一緒の奴らばっかで、あいつら知ってんだよ! 渋ってれば結局俺達がやるってなっ!
あぁそうだよ。ここ10年間、毎年皆勤……
「はい、葵先生?」
「うん? あっ、月城さん! 今年もよろしくね?」
……おい、恋桜? 気のせいか?
「いえ。こちらこそ宜しくお願いします」
「御丁寧にありがとう? それで? どうしたのかしら? もしかして推薦とか?」
お前何か企んでないか? おい……おいっ!!
「そうですね。ずばりその事なんですけど……雨宮君はどうでしょう?」
言ってるそばから、色々な事に巻き込んで欲しくないんですけどねっ!
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