第104話 凍えきった表情 (ソシリア視点)

「……やけに遅かったな」


 ようやく会議室に行くと、そこではあきれ顔のアルフォードが待っていた。

 なかなかこない私達に暇を持て余していたのか、その手には半分ほど開かれた書類が握られている。

 しかし、そうしてアルフォードが気の抜けた姿をさらしていたのは、わずかな時間だった。


「まあいい。とにかく、伯爵家についてだ」


 次の瞬間、そう立ち上がったアルフォードは、ピリピリとした緊張感をまとっていた。

 その緊張感に影響されるように、私達も無言で用意されたいすに座る。

 それを確認して、アルフォードは口を開く。


「まず、はじめに言っておくが、明日明後日には伯爵家に攻撃を仕掛ける」


「……なっ!」


 その言葉には、マルクとリーリアだけではなく、私も衝撃を隠すことができなかった。


「待て、準備は……」


「言っただろう、待っていたと。マーク達以外の準備はもうすでに終わっている」


「そ、ソシリア?」


「……ええ、アルフォードの言っていることは本当よ」


 私は、困惑したリーリアにそう断言する。

 昨日、ほとんど会議せずに解散したのも、やることがほとんどなかったからにすぎない。


 ……だが、そう事情を知っている私も、アルフォードの言葉には、衝撃を隠すことができなかった。


 そう、確かに不可能ではないのだ。

 やろうと思えば、問題なく伯爵家をつぶせる準備を私達は整えてきた。

 それでも、余りに急な決定ではないかと、私でさえ思わずにはいられない。

 そんな私達の内心を見抜いたように、アルフォードは口を開く。


「今伯爵家をつぶしておかないといけない。……あいつらが、またサーシャリアに関わろうとする前に」


「……っ!」


 私の目が覚めたのは、その瞬間だった。

 そうだ、あの伯爵家はいつかサーシャリアにまた関わろうとする。

 その前に、つぶさなければならない。

 私と同じように、リーリアもその表情に決意をみなぎらせている。

 マルクが遠慮がちに口を開いたのは、そのときだった。


「待ってくれ、サーシャリアには伝えないままいくのか?」


 ……私が、あることを共有し忘れていたことに気づいたのは、そのときだった。

 そう、偽装婚約ともう一つアルフォードが認めないことがあったことを。

 私はとっさになにか言おうとするが、その前にアルフォードが口を開いた。


「だめだ、サーシャリアには絶対に伝えない」


 ──表情が消え去った凍えるような目で。

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