第78話 突然の訪問

 ……一体なにが起きているんだろうか。

 呆然とする意識の中、私は目の前にたつ人物を何度も確認する。


「いい朝だな、サーシャリア」


 ──執事服を身にまとった彼アルフォードを。


 現在の時刻は早朝。

 マリアさえ、まだ来ていない。

 そんな状況でこんな事態に陥った私は、呆然とベッドに座りながら、今までの経緯を思い出す。


 突然のアルフォードの訪問があったのは、先ほど。

 私が目覚めたその時だった。

 想像もしないことに驚きつつ、最低限の身だしなみを整えて扉を開けると……そこにはすでに執事服を身につけたアルフォードがたっていたのだ。


 駄目だ。思い返しても、なんでこういう状況になったのか、意味が分からない。

 とりあえず、一旦整理する時間が欲しい。

 そう考えた私は、困惑を笑顔に押し込めて口を開く。


「えっと、何のようか聞きたいのは山々何だけど、その前に何か食べてきていい?」


 もちろんそれは口実だ。

 お腹がすいていない訳ではないが、まだ朝食まで時間がある。

 ……とりあえず私は、頭を整理するために、一人になりたかったのだ。

 しかし、その私の思惑が上手く行くことはなかった。


「ああ、大丈夫。作ってきた」


「……え?」


 そういうと、アルフォードは一度扉の外に出て行く。

 次にアルフォードが姿を見せたとき、その手にはお盆がもたれていた。

 上にかぶされた覆いを取ると、そのしたからは美味しそうなクロワッサンが現れる。

 その香ばしいにおいをかぎながら、私は思い出す。


 ……そういえば、アルフォードはこういうのが得意なタイプだった、と。


 時々アルフォードはお菓子を作ってくれたりしていた。

 そんなアルフォードなら、こんなクロワッサンを作れても不思議じゃない。


「いや違う、そうじゃない」


 今考えるべきは、何故アルフォードがかなんな時間にやってきたかだ。

 と、私は一瞬飛びかけた思考を元に戻す。


 ……しかし、その思考に対し、身体は正直だった。


 ぐぅ、と空気を読まずになった音。

 静かな部屋では、やけにその音は大きく響いた。

 そしてその発生源が、自身の腹部だと認識した瞬間、私の顔に一瞬で熱が集まってくる。


「……っ!」


 一瞬、沈黙が部屋を支配する。

 しかし、その沈黙を取っ払うように、アルフォードが口を開いた。


「ああ、すまない。俺もまだ何も食ってないせいで、空腹だったんだ。少し多めに作ってきたから、ご相伴させてもらっていいか?」


 お盆の上に置かれたバターを持ち上げながら、そう問いかけてくるアルフォードに、私は頷く。


「……はい」


 とりあえず、話はお腹を満たしてからだ。

 羞恥に悶えながら、私はそう硬く決意した……。



 ◇◇◇



 ソシリアについて、紛らわしく書いてしまい申し訳ありません。

 近々、偽装婚約について時系列を書いたものを、更新させて頂きます。

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