第77話 頑なの理由 (ソシリア視点)
アルフォードとの偽造婚約を知るものは多数居るのに対し、私とセインが恋人であることを知る人間はほとんどいない。
知っているのは、サーシャリアを除いた生徒会メンバーだけだ。
そして、そうして秘密が守られている理由こそが、私とセインの間で取り決められた合図だった。
特定のワードを言わない限り、敵対的。
決めた場所に来たら、合いたいという合図。
事細かに決めた合図を守ることで、私とセインの関係は徹底的に隠されてきた。
腹心の部下でさえ、私達の関係など知らない。
そして、その合図について決め、頑なに譲らなかったのがセインだった。
今まで私は、そのことについて疑問を覚えていた。
「……いいだろ。そんなこと」
けれど、乱雑に吐き捨てつつも……その赤くなった顔を隠し切れていないセインを見て、私は悟る。
常に頑なにセインが譲らなかった理由。
それは全て、私を思ってが故だったと。
そのことに気づいた瞬間、私の胸にはセインに対する愛しさがあふれていた。
少し悩み、けれど私は衝動にあらがうことを止めて、セインに抱きついた。
「お、おい?」
セインが困惑したような声を上げるが、私は無視して抱きしめる腕に力を込める。
普段、二人とも忙しくて、ほとんどふれ合えていない。
だから今日くらいは、これくらい許されて良いはずだ。
胸に、愛おしさと幸福感を感じながら、私はセインに囁く。
「馬鹿ね、セイン。この私がどうでもいい男のために、自分の名誉を傷つける訳ないでしょ」
「……ソシリア」
「貴方はただ、私に振り向いてもらえたことを喜んでいればいいの。だから余計なことなんて考えず、今よりももっと身分ーー胸を張って婚約できる立場まで上ってきなさいよ」
そう言うと、セインは無言で私を抱きしめる。
幸福感に浸るよう、その逞しい胸板に額を押しつけながら、私は思う。
……この幸福をくれたサーシャリアには絶対に報いねばならないと。
そして、顔を上げた私は、セインに頼もうとしていたことを告げる。
それを聞き、セインは顔に驚きを浮かべる。
「……それは、本当にいいのか?」
「ええ。アルフォードとサーシャリア。どちらを優先するかなんて、分かり切っているじゃない。……特に、今のアルフォードじゃ話し合いもできないしね」
「……ああ、そうだな。それに、それを告げるなら、確かに俺が適任だ」
私の言葉に頷き、そしてセインは宣言する。
「俺がアルフォードとサーシャリアを恋人にしてやるよ」
◇◇◇
次回から、サーシャリア視点に戻ります!
よろしくお願いいたします!
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