第11話 その男の本性
「……え?」
何時もと豹変したようなカインの口から出た言葉。
それが、私には信じられなかった。
だが、そんな私に気づくよしもないカイン達の会話はなおも続く。
「……くそ、あのアバズレだと分かっていれば、手など出していなかったものを! 紛れ込んできやがって!」
「落ち着いてください、カイン様。今は過去の後悔をしても、どうしようもないです。とにかく、第二夫人の話を決めないと」
「そうだな。……何としてでも、第二夫人にサーシャリアを認めてもらわないと。このままサーシャリアを手放す訳にはいかない」
その瞬間、私は微かに胸に希望を覚える。
まさか、カインがアメリアと不貞を働いていたなど信じられなかった。
けれど、第二夫人に私をしたいということは、まだ愛情が残っているのではないかと思って。
「何せ、サーシャリアを家に迎えることが、俺が侯爵家当主になる条件なのだからな」
……その思いを、全てカインは粉々に打ち砕いた。
「それにしても、本当に面倒だ。あの様子だと、伯爵家にサーシャリアを外に出す気はないぞ。アバズレに関しては、敵視しているようだしな」
「だからといって、諦める訳には行かないでしょう。カイン様の立場では、サーシャリア嬢を娶る以外に、勝ち上がる手段はありますまい」
「……くそ! 何とかして、サーシャリアを手にしないと。あの様子では、俺に心酔しているはずだ。最悪、伯爵家から強引に連れ出すか」
私に気づかず、相談を重ねるその姿を前にして、もう私に飛び出していく気力などありはしなかった。
ただ、その場に崩れ落ちていかないよう、踏ん張ることが私の限界だった。
そしてとうとう、私に気づかないままカインは屋敷の扉へと歩き出す。
「それにしても、サーシャリア嬢には能力以外、なんの取り柄もないように話しますね、カイン様」
「はは、当たり前だろう。あの女の価値は、商会や人脈などの付与価値にしかない」
今まで私にみせていた優しげな笑みが嘘のような嘲りの浮かんだ表情で、カインは告げる。
「本当なら、俺だってもっと他の可愛い女を選びたかったさ。──可愛げのないあんな女、誰が好き好んで選ぶものか」
ぴしり、と音を立てて何かが亀裂が入っていく音がする。
その音を、私は呆然と聞いていることしかできなかった。
そして、私の信じていた何かが、全て音を立てて崩れていく。
その日私は、全てを失った。
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