第12話 師団予備投入
魔挺作戦において一番危険な瞬間は、転移直後だ。
転移魔法の後遺症として、独特の酩酊感が転移対象者を襲うからだった。
軽い場合はせいぜい乗り物酔い程度ですむが、酷い時には
酩酊感を減衰する工夫は薬から魔道具に至るまで様々に対策が講じられてきたが、決定打は未だ存在していない。
体質や当日の体調によって、今でも酷い症状に見舞われる者は少なくないのだった。
ヒルデも多少の酩酊感を感じてはいたが、事前に飲んでいた対策薬が効果を発揮したためか、戦闘に支障がでるほどではなかった。
ヒルデは
『人形』に魔法士が搭乗する術士席、装甲歩兵で言う搭乗席は胸部装甲の内側に存在している。
昔の機体は頭部に
旧式機体では計器類などはごく少数しか無かった人形の術士席には、帝國の装甲歩兵に似たデジタル式の計器類が加わりつつある。
古くは経験と勘に頼って運用されていた「人形」は、装甲歩兵の影響を受けて兵器としての運用に近くなっている。
「人形」を帝國の武士階級における先祖伝来の甲冑と同じように見なしていた旧来の王国魔法士たちにしてみれば、堕落と見なされるであろう風潮であった。
しかし、ヒルデリアたち大転移前を知らない地球世代が主流となった王国軍に、そのような
もはや大転移を可能とした
「
短縮呪文で発動したヒルデリアの魔法は、「人形」の心臓部に当たる位置にある理力石で構成された魔力増幅機構によって増幅されたうえで人形外部で発現する。発現した魔法によって作り出された擬似眼球が、人形の頭部の眼にあたる場所に出現する。
拡大された視力で周囲の望遠映像を『見る』ことのできる眼球は、映像を魔法的に処理してヒルデリアの脳内に送り返す。
「面倒だな。BUGどもの姿が多すぎる」
実戦経験の少ないヒルデリアはBUGの群れに恐怖を抱かない訳では無かったが、それを教育の成果で心理の奥底へ押し込めた。
赤銅師団主力は今、明らかに兵力見積もり以上の敵と対峙しつつあった。敵軍の後方である空港付近に布陣したのは良かったが、さらに西方から接近しつつある敵の増援に手を焼いている。
包囲されている訳では無かったが、敵の背後を突くはずが逆に増援への応戦で手一杯になっている。
正確な数はとても把握できないが、赤銅師団以上の兵力がありそうなのは確かだった。
そんな状況であるから、師団の予備兵力として残されていた蒼の戦翼隊が早くも投入されることになっている。
これを誰の責任と見るかは難しいところだった。敵軍の脅威度評価を誤った近衛魔法士団情報部か、あるいは師団長か。
しかし、そんなことを気にしている余裕は現場の誰にもない。
「全周警戒しつつ、第一、第二大隊は
無線による命令に従い、二つの大隊の人形がゆるやかな横陣に陣形を整える。
魔法による火力を最大限に発揮することを主眼とする陣形だった。
「現在、師団主力は空港の管制施設を防衛拠点として、抗戦を続けている。我々はその横合いから殴りつける。最大火力でもって敵の側面を突く」
「姫さま、わたし
パルーカ・サハティ掌翼長の質問に、ヒルデリアは思わず苦笑する。
「こちらの遠距離魔法攻撃が終わってからだな。斉射が終わるまで待ちなさい」
「りょーかい。がまんする」
幼い少女のような声で元気よく声をあげるパルーカの声に、ヒルデは思わず苦笑する。
それと同時に、思っている以上に自らが緊張状態にあることを自覚する。
――パルーカの脳天気な声には救われるな。
「第一、第二
「りょうかい」
分かっているのかいないのか、パルーカの返事は威勢だけは良かった。
「攻撃のタイミングはこちらで指示する。各員、突入に備えよ」
命令の復唱が返ってくる中も、ヒルデリアは拡大された視覚で師団主力の様子を確認している。
空港の管制塔らしき建物の高所から、雷爆魔法による魔法攻撃が行われているのが見える。
一瞬にして、数百単位のBUGが活動を停止する。
しかし、後方から進撃してくるBUG群がそれを踏み越えて進撃してくる。
特に黄土色の球形のBUG、アルマジロ型の耐久力は侮れないものがあった。
本物のアルマジロのような四本足ではなく、眼球に相当する器官もない。そのかわり「頭部」には生体砲弾を撃ち出す器官と、発達した下顎と鋭い牙を持つ口腔部がある。
四本足がわりに生えているのはダンゴムシのような形状の無数の足であり、一○トン近くある巨体は質量そのものが脅威だった。
耐久力で言えばそれよりさらに強力なのがゴーレム型だった。四角い箱型に無理矢理くっつけたような手足がついている。
他のBUGが生物を模したような形状であるのに比べ、無機質なロボットのような形状をしているのが異質だった。
人類にとって脅威なのは優れた耐久性を誇り、さらに体表に人類側で言う爆発反応装甲のようなものを備えていることだった。
人類側の砲弾が命中した場合、この生体爆発反応装甲が起爆することで砲弾が貫通しないだけでなく、周囲の兵士にまでその危害が及ぶ可能性があるのだった。
包囲を受けつつある赤銅師団主力が再び雷爆魔法を行使する。
周囲に放電の白い稲妻が走り、ついで何かが焼け焦げる臭いが周囲に満ちる。
本来ならば気密性の高い人形の中に焼け焦げた匂いが侵入するはずがないのだが。
――案外、脳が想像で臭いを作り出すのかもしれない。
ヒルデリアはそんなことを思いながらも、部下に命じた。
「雷爆魔法、
放電の稲妻が走るとともに数十の爆発が生じ、土埃が大地を舞う。
衝撃がヒルデリアの乗る『
「第三大隊、各自近接戦闘魔法励起。残敵を掃討しつつ、主力側面の敵を粉砕する」
ヒルデリアは
見る者に安心感を与える、白い輪郭で描かれた巨大な盾の紋章が姿を現す。
いささか派手すぎて目立ってしまうのが難点だが、BUGの生体砲弾の直撃にも耐えられる破格の防護力を持つ魔法だった。
師団主力を救援する、
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