対応レストランQ&A

恵比寿

第1話

 「いらっしゃいませ」

 「当店は初めてですか?」

 「そうですか、それでは当店の仕組みについてご説明をさせていただきます。」

 「突然ですがお客様、完璧なレストランとはどのようなレストランでしょうか?」

 「料理がおいしい?幸せですね、でもお店が汚いかも。店員が親切?気持ちいいですね、ただお値段が高いかもしれません。行きやすい場所にある?大事ですね、しかし味付けがいまいちだとせっかくの立地の良さも台無しです。」

 「ある評価点についてこちらを立てればあちらが立たず、あちらを立てればこちらが立たない」

 「たとえ三つ星をとるようなレストランですら、気軽に行けるところではない、という点を犠牲にしてしまっています。」

 「ではどのようなレストランが完璧足りえるのか?当店が出した結論は『質問と回答の完璧な対応』です。」

 「といっても何も難しくはございません。お客様の振る舞いという『質問』に対して、当店は完璧な『回答』を返すというそれだけの事でございます。」

 「お客様が普段よく通う定食屋での振る舞いをすれば当店は定食屋になります。しっかりとスーツを着込んでよく磨かれた靴をお召しになれば、当店は三つ星の如きおもてなしをさせていただきます。よく晴れた日の午後、散歩がてらに立ち寄りなされば、すっとした香りの紅茶と幸せいっぱいのケーキをご提供いたします。」

 「もちろんこの不思議な仕組みは絶対の企業秘密、たとえお客様が秘密を明かそうと一年中毎日三食当店で召し上がられても、私共はおよそ千通りの体験をご提供するにとどまります。」

 「以上がご説明です。どうされますか?」

 「はい。承りました。ではこちらにどうぞ。」


 「ご注文は何になさいますか?はい、ミートソースパスタをおひとつですね?お待ちください」


 スリムな印象のいかにもなイタリアンの店員が厨房に消えていく。個人経営のイタリアンの店に見える。窓に向かうカウンター席に座る。窓は広くて外の様子がよく見える。強すぎない照明もいい。小さな照明が間隔をあけて天井にくっついている。きっとあれらの照明は明るさが調節できるタイプの奴で、夜になればもっと明るくするのだろう。壁や柱には目のきれいな木材が使われていて落ち着いた雰囲気だ。一人でもゆっくり食べることができるし、恋人や家族を連れてきてもハズレではないだろう。友達と騒ぐのにはむいていないか。

 私は足をくむ。スーツの胸ポケットからスマホを取り出す。少し体重を右に寄せて右ひじをカウンターに載せて斜め気味にスマホをいじる。時々店内を見渡してみる。初老の夫婦はお座敷で懐石料理を着物を着た店員さんから渡してもらっている。高校生グループはハンバーガーを食べながら部活の先輩のうわさで盛り上がっている。


 「お待たせしました。どうぞ。」


 何とおいしそうなパスタなのだろうか!思わずついつい普段は絶対言わないような変なことを、そう、普通の会話でいってしまうようなタイプの変なこと、意味は通るけど文脈には当てはまっていなくてなぜそれをそのとき言ってしまったのかと後で少し後悔するタイプの変なことを言ってしまった。


 「これ」

 「なんで他の人は食べないんですかね?こんなにおいしそうなのに!」








 「おきゃくさまままっまままっま」

 「「大丈夫ですか?!パスタがこぼれて、ふふっぅぅぅぅぅう・鼻からも耳か!らもああゼン部の穴からこぼんいん」」

 「「「パスタは止らまない。毛穴か!ら産毛や髪の毛を押しのケてまでこれぼてきている」」」

 「「「あなたたちたちたちは注もんまでは完璧だたっ」」」

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