11 趣味の展示室

「ここでお見せするのは植物園と水族館だ。一般的にはとんでもないものかもしれない。でも私は人類のために命を懸けている、生涯を捧げているのだ。もう一度秘密を守ると誓ってくれたまえ。さすれば扉は開かれるだろう」

 男爵がまじめな顔をしてそう言った。二人はもちろん秘密を守ると誓った。

 だがサムもテリーも、後で別の意味で、この部屋に入らなければよかったと思うのであった。

「まずは趣味の植物園だ。ここは花が大好きな私の妻が中心になって世話をしているんだ」

 そこは世界中の美しい花の鉢やプランターが並ぶ、大きなガラス窓の明るい部屋だった。男爵の趣味で世界のフルーツのなる木が、ルナサテリアさんの趣味で特に大輪の花や珍しいランが集められているということだった。

「さあ、どうぞ中に入って自由にご覧になってください」

 さっそく奥へと入っていく二人、奥ではオレンジなどの柑橘類や桃、ブドウなどの食べごろのフルーツもたくさん実っている。だがテリーは入ってすぐにおかしなことに気付いた。花のことも一通りは知っていると思っていたのだが、半分以上種類がわからないのだ。しかも1番大きく立派な珍しい種類の花の名前を聞くと、ルナサテリアは、レイチェルと言う、まるで人間の女性につけるような名前を言うのだ。

「いえ、ですから花の種類の名前を…」

 テリーがルナサテリアと花の名前の話ばかりしているので、サムはすっかり飽きて、別のことを見ていた。さっそくおかしなものを発見。美しいバラの大きな鉢のすぐそばに、鳩くらいの鳥の骨格標本が2体飾ってある。いや、よく見ると作り物か、ちょっと骨のつながりがでたらめだ。意味が分からない。でも不気味だけれど、置物としてはかかわいらしい。さらにふと気が付くと、あの家政婦バーゼルさんがそっとやって来て、なぜか人間が食べるような食器を片付けていくのだった。しかも聞いていると、小さな声で…。

「あら、今日はレイチェルよく食べたわね。ステーキのお皿が空っぽ」

 などとつぶやいているではないか。バーゼルさんの声は、小鳥のさえずりのようなかわいらしい声だった。だれか部屋にいるのか、とも思ったが、もちろん誰もいない。そしてバーゼルさんはおもむろに冷蔵庫を開ける。中には何も入っていない。唯一空っぽのカゴが一つだけ入っていた。するとバーゼルさんはそのかごをテーブルの上に出してそっと言ったのだ。

「レイチェル、今日はお客様なの、たくさんお願いね」

 もちろん答える者など誰もいない。バーゼルさんは片付けた食器を持ってそっと出て行った。一通り見終わるとテリーが感激して言った。

「いや、お世辞じゃなくて素晴らしい。見たこともない華麗なランや超大型の豪華なランの花がいくつもあって見事と言う他ありません」

 すると待ちかねていた男爵が今度は二人を水族館へと案内する。水族館の入り口には、希少生物養殖実験中の札がかかっている。中に入ると、水質浄化装置や水温調節装置、微生物培養装置、塩分濃度ミネラル調節装置、さらに自動餌やり装置まで完備されている。小型だが、先進の機能を持った機器だという。そして、12台ほどの水槽がすべてコンピューターで一括管理されているという。理論的には数か月間放っておいても水質はきれいなままで保たれるそうだ。 

 そして部屋の奥はミニ図書館と研究室になっている。種々の生物図鑑や標本、男爵のスケッチやイラスト、写真などが重厚な書棚にきれいに整理してある。

「いやあ、私は趣味が半分、研究が半分みたいなことをやっているんだが、実は一週間ほど前に、あるエビの仲間の卵の孵化に成功してね、いま小エビちゃんの飼育にてんやわんやさ」

 一つの水槽の中にひれのようなたくさんの脚を波打たせるようにして泳ぐ、エビのような不思議な生き物が何匹も泳いでいた。

「へえ、かわいいな、でもこの形はまさかアノマロカリス?いやそんなはずはない、5億年以上も前の生物だ」

 テリーが何かぶつぶつ言いながら水槽を眺めている。そのとき、ノックの音がしてあの長身のパーカーとルナサテリア夫人が入ってきた。

「すいません男爵、サンジェルマン伯爵から急に連絡が入りまして…」

男爵がちょっと困った顔をした。

「いやいやすまん、サム君とテリー君、すぐに来るから自由に中を見ていてくれたまえ」

伯爵とルナサテリア夫人、そしてパーカーは慌てて出て行った。男爵を慌てさせるサンジェルマン伯爵とは何者?

「おや、これはハイギョの仲間かな、男爵は古代魚マニアなのかな…」

奇怪な鱗や変わった形のひれをもつ魚が静かに泳いでいる。男爵は生物多様性財団を作っただけあって、ひとつ一つの水槽に岩や砂利、砂、水草など、その生物の生息環境を再現しているようだ。どの水槽も美しく手が行き渡っている。

するとサムが魚ではない面白い生き物を見つけてテリーに聞いた。

「テリー、こっちの水槽のこの生き物は何かな。大きなダンゴムシみたいな…でも角があってかっこいいよ」

そう言われてその水槽を見たテリーは度肝を抜かれる。

「これは…三葉虫…三葉虫にはいろいろな形があるが、これはその中でも珍しい、捕食者から身を守るためのとげのようなものがいくつもついているタイプに見える…3億年ぐらい前のものか…?!でも、確かに生きている、生きて動いている…」

それだけではなかった。別の水槽では、1億年程前のものと思われるアンモナイトも何種類かいるではないか。小さい宝石のように美しいもの、中型で遊泳能力の高いもの、そて少し大きめでギザギザのついた複雑な形の貝殻をもっているもの…もちろんすべて生きて動いている。テリーは鳥肌が立つのを感じた。数億年の歴史がいくつも目の前にあるなんて、しかも次の生き物はそれを超えていた。

「あ、テリー、これは何?、かっわいい」

サムが一つの水槽を指さした。だが今度はテリーでもなんだかわからなかった。それは15センチほどのリスザルに似た水中生物だった。毛はなくミズガキやひれが着いていて、大きな目がクリクリしてとても愛らしかった。しかもかなり知能も高そうだ。水中のサル?こんな生き物、化石でだって発見されてはいない。こうなるともうテリーの知識ではついていけない…、さらに奥の水槽には金色に発光する黒いエビまでいる。あえて説明するなら未知の惑星から来た生物…?

「まったくわからない…あとで男爵に聞いてみよう」

テリーは思った。自分はもしかするととんでもないものを見ている。希少動物というレベルのものではない。いったいここで何が起ころうとしているのだ。するとそこにルナサテリア夫人が帰ってきた。今度はあの鼻の長いバーゼルさんも一緒だ。

「すみませんでした。男爵の部屋に行ったら、もうサンジェルマン伯爵がお見えになっていて。急な用事で、いま男爵とチャールズと伯爵で会議を始めたところよ」

チャールズと言えば、さっきプールで泳いでいたあの毛むくじゃらの生物…。

「それでね、予定を繰り上げて、息子に来てもらうことにしたの、ちょっと引きこもり気味で人見知りな子だけど、サムさんとなら気が合いそうよ。だってあの子、ゼリーボーンズや遊園地が大好きですもの」

「え、あの天才科学者のグリフィスさんですか?」

「そうよ。じゃあよろしくね。グリフィス、お入りなさい」

するとまったく予想していなかった、恥ずかしがり屋でもじもじしている。サムと同じ年代の若者が水族館に入ってきた。お世辞にも天才科学者には見えない。引きこもりのシャイな気の良さそうな人だ。

「はーい、き、君が有名なサム・ピート君、よろしくグリフィスです」

ところがグリフィスの胸につけているバッチを見たとたん、サムの目の色が変わった。

「え、グリフィスさん?、もしかしてそのバッチ?!」

サムに気付いてもらえたので、グリフィスはちょっと誇らしげになって、バッチをよく見せてくれた。

「そのバッチって、ゼリーボーンズメンバーズクラブの、一般会員の上の、支部長の上の、本部長の上の、会長の上の、永久会長の上の、殿堂入り会長のバッチだよね」

するとグリフィスはバッチを見せながらニコッと笑った。

「その通り。私が初代殿堂入り会長グリフィス・テンペストです。都市伝説バスターズの主催、サム・ピートさん、お会いできて光栄です。それに最近は、僕の作ったゲーム「男爵邸の秘宝」を大ヒットさせてくれて、君のおかげだよ、本当にありがとう。

「こちらこそ。お会いできて生涯の誇りです」

二人は微笑みあって固く握手をかわした。

「ええっとこちらが、観光でこの街に来た、生物好きのテリー・ボールドウィンです。僕の相棒なんだ」

サムがテリーを紹介してくれた。いつの間にか相棒になっていた。

「実はママの植物園、パパの水族館のほかに僕も展示室を持っているんだ。まあ、妹は持っていないんだけどね」

そうかこの一家にはお嬢さんもいるのか。

「ほら隣だよ、こっちこっち」

テリーは男爵やグリフィスと会えると知って、事前にデータバンクで二人のことをよく調べたのだが、男爵はほとんどデータがなく、グリフィスはその輝かしい経歴だけがわかった。はじめは小学校も休みがちだったが、小学校で大学の研究室に関わったとたん天才ぶりを発揮、中学生の時には飛び級で大学の工学部に進級、ロボットや視覚効果機材の研究に打ち込み、高校生の時、ミステリーランドの最高技術責任者に就任、父親のアイデアをもとに、次々と画期的なアミューズメントを世に送り出し、世界に注目される。さらにロボット工学で博士号を取得し、現在はからくり人形博物館のリニューアルに力を注いでいるという。

でも、テリーはサムとグリフィスのやり取りを見ていて思った。素朴で純粋で、子供時代の友達のようだ。グリフィスは1分野にだけ才能を発揮するサヴァン症候群とかそういうタイプの人なのかも知れなかった。

「へえ、グリフィスも展示室を持っているなんて聞いていなかったよ」

するっとグリフィスは得意げに言った。

「ふふ、まだ立ち上げたばかりだから、中身はパパに言ってないんだけどね。実はこれを始めたんだよ」

サムとテリーは名刺を渡された。読んでみて驚いた。

「ゼリーボーンズテレビショッピング開発部長グリフィス・テンペスト」

テレビショッピング?、なんと展示室にはテレビショッピングのこれから売り出す商品が並べてあったのだ。

「ええっとね、開発コンセプトとしては、1、今までのゼリーボーンズ製品や墓場公園などのファンをターゲットにする。2、ミステリーランドの出演者やキャラクターを使って売り出せるもの。3、最新のテクノロジーを使った高機能エコ製品。4、低価格品から家電製品まで幅広い価格帯。の4つを考えているんだ」

そして、安いものから順に製品を見せてくれた。

「まずは、マイケルボーンズ握力発電キットだ」

ちょっと見るとドクロ型の握力計だ。ドクロの口の部分に指をいれて握るようになっていて、ぐっと握ると、飛びぬけたひょうきんな笑い顔になり、笑い声や電子音を出すこともできる。それだけでも遊べるのだが、実は中に高性能発電装置と充電池が入っていて、握力を鍛えながら発電、充電ができるセットだ。

「標準では携帯の充電が直接できるようになっている。しかも、これから紹介するいくつかのグッズでも直接充電が行える」

1、スカルマリアの卓上掃除機。

2、アンデッドモンスターアンディの殿堂鉛筆削り。

3、マイケルボーンズの多機能目覚まし時計。

これでテレビを見ながらでも握力を鍛え、携帯などの充電もできる、何かと便利な商品だ。その人の握力に応じ、弱から強まで5段階で強さを調節できる。筋肉系のテリーはちょっと興味を持ったようだった。値段は基本の握力発電機だけだとわりにお手ごろだ。

「そして次はマイケルのボーンズハンガーと墓石型イオン冷風機だ」

冷風機は、裏に専用の保冷パックを凍らせて入れると、墓石の表面には特殊な小さな穴が開いていて、墓石全体から冷えた空気とプラズマイオンが流れてくる、見るからひんやりした冷風機だ。

「こっちのハンガーはね、ホネがポキポキ折れるので、小さいサイズから大きなサイズまでいろいろな洗濯物が、上手に干せるし、すごいのはここからだ」

するとグリフィスは一本のパイプを12本に分配するアタッチメントメデューサを取り出し、いくつかのハンガーと冷風機をつなぎ、さらに冷風切り替えダイアルを回した。

「こうするとホネのあちこちから風邪とイオンが噴き出し、洗濯物が早く、生乾き臭なしで乾くんだ。メデューサを使えば、最大12個までのハンガーに対応できる」

グリフィスの言葉にサムはこう答えた。

「ひんやりした冷気とイオンを噴き出すマイケルボーンズのハンガーか、部屋にぶら下がるのはマニアの理想だね」

なるほど、部屋にガイコツをぶら下げたい人?には、とても便利なグッズかもしれない。ちなみにハンガーとアタッチメントは意外と安いし、墓石型イオン扇風機も普通の扇風機とさほど値段は変わらない。

次はさっきも名前がでたマイケルボーンズの多機能目覚まし時計だ。

これは高級感もあるおしゃれな棺桶型で、時間をセットしておくと、その時間に棺桶のふたが開き、手のひらほどのマイケルボーンズのホネホネ人形が起き上がって、ボイスやアクションで起こしてくれる目覚まし時計だ。

面白いのはボイスの種類が多く、悲鳴や呪いのセリフから自虐ネタ、不気味な効果音、コミカルなBGMなどいろいろな音が流せることと、ガイコツ姿のゼリーボーンズが震えたり伸び上がったり、脅かしたり、ダンスをしたりと、いろいろなアクションができるということだ。好きなボイスとアクションを組み合わせて、自分だけの朝を演出できるのだ。

「いいねえ、時間になると棺桶がかぱっと開いてガイコツが立ち上がり、音楽やボイスとともに踊ったりする。あれこの商品、そこそこ安いから俺、買っちゃおうかな」

なぜかサムがノリノリだった。しかし次の製品は、まさかのテリーにアピールした。

「テリーさん、体を鍛えているようで筋肉質ですよね。試しにこれを着てみてください」

それはマイケルのホネホネトレーニングウェアだった。テリーが着てみると、ウェア全体に全身のガイコツの絵が立体的にプリントしてあるウェアだ。だが、骨のシリコンゴムの部分が最初はクルクル丸まるように縮んでいて、ウェアを着ると、力を入れないと手足を伸ばしたり、まっすぐ立つことができないようになっていた。

これで手を振り上げたり、足を伸ばすスクワット運動などに大きな負荷がかかるようになる。さらに付属のDVD「マイケルのラップでホネホネ体操」に合わせて3分間踊るだけで、基礎的体力がつくというのだ。

「でも、テリーさんにはこれじゃ物足りないよね」

そしてグリフィスは、専用の電動空気ポンプのスイッチを入れた。するとわずか7秒で今度は骨部分に空気が入り、全身の骨がピーンと伸びて硬くなる。

「うおおお、これはすごい」

 今度は手足もボディもピーンと伸びて曲げづらくなる。これで手足や腹筋、背筋を曲げる筋力運動や、さらに「マイケルのラップでムキムキ体操」を5分間やれば筋力が鍛えられるわけだ。

「基礎運動から、かなりの負荷の筋力運動までできるなんて最高だね。ガイコツ踊りみたいな体操も面白いしね」

 テリーが感心しているとグリフィスが言った。

「ガイコツ踊りがさらに盛り上がる、暗闇で光る夜光塗料バージョンもありますよ」

「いやあ、DVDの体操や音楽もいいし、取り扱いが簡単ならば買うかな」

 そこでグリフィスに聞くと自信をもってこう答えた。

「もちろん3000回の丸洗いテストにも合格、シリコンゴムにも問題なし、また汗臭くならない抗菌処理もしてありますよ」

 テリーは、心が大きく動いたようだった。

「さらに生物好きのテリーさんにおすすめがありますよ」

 それは人魂リリスのクラゲ水槽セットだった。リリスというのはマイケルの仲間の人魂だ。いろいろな色のある小型のカラークラゲの幼生、水質浄化装置や墓場水槽キット(墓石や柵、月夜シールなど)をまとめたセットだ。その日から簡単にクラゲが育てられ、ピンポン玉ほどに成長すると、赤や黄色、青などの透き通ったクラゲが墓場の風景の中を漂うというセットなのだ。

「これは、パパの水族館の関係で、発売記念フェアなら、激安で手に入ります」

「ぜひ買うよ。あ、これまだ発売してないのか」

 ほかにも、骨盤矯正骨盤型マットや、涼しく眠れるマイケルボーンのホネホネ抱き枕、安らかに眠れる棺桶ベッドと、背骨曲線敷マットなどいろいろな製品があった。

「これはゼリーボーンズファンなら絶対買うよ、大ヒット間違いなしだ」

 サムは大いに盛り上がり、グリフィスとずっと楽しそうに笑っていた。やがてあの長身の執事パーカーがふらっとやってきた。

「失礼しました。やっと会議が終わったと連絡が入りました。あと5分ほどしたら、リビングへとご案内いたします。男爵も二階の執務室からすぐに参ります」

 ところがここで計算外のことが起こる。

「いいよ、パーカー。僕がみんなをリビングに案内するからさあ」

 そう言ってグリフィスが二人を連れて歩き出したのだ。

「お坊ちゃま、ちょっとお待ちください。お坊ちゃま」

 なぜか慌てるパーカー。でもサムとテリーはグリフィスに引っ張られるようにそのままリビングへ…。

「えっ」

 サムが立ち尽くした。何かと思ってテリーもそちらを見た。

「た、卵?!ハンプティ・ダンプティ…?」

 なんとリビングの大きな階段を、いまちょうど何かが下りてきたところだった。それはどう見ても1メートルほどの大きな白い卵だった。その卵にはかわいい手があり、小さな足でリビングを歩き始めた。その卵はサムとテリーの気配に気づいて、ちょこちょこ歩き、サムが疑問に思った高さ1メートル20センチのドアに飛び込んでいった。

「ガチャン」

 ノブが回り、鍵がかけられたようだった。

「グリフィス、い、今のは何?」

 するとグリフィスは当然のように答えた。

「え、今のかい、チャールズだよ。とても賢くて、我が家の相談役もやっているんだ」

 チャールズ?それは確か、さっきプールで泳いでいた毛むくじゃらの生物では…?毛むくじゃらで、相談役で、しかも卵とは…。

 そのとき、さらにもう一人階段を下りてきた。男爵だった。

「やあ、悪かったねえ、急にいなくなってしまって。どうだい、グリフィス、お客様のおもてなしはちゃんとできたのかな?」

 するとグリフィスは目を輝かせて叫んだ。

「うん、パパ、とっても楽しかったよ。商品もぜひ買いたいってさ」

 すると男爵はそばに来て二人に言った。

「水族館はいかがだったかな」

「いやあ、見たことの無い生き物ばかりで驚きました」

 くったくのないサム、続けてテリーが答えた。

「古代魚にアノマロカリス、三葉虫にアンモナイト。あなたは人類のために命を懸けていると言っていた。あなたがどんな使命を持って取り組んでいるか深く考えさせられました。例えばあの、アノマロカリスですが…」

 テリーが、今見ていた古代生物についてくわしくその様子を語ると、男爵は深く感銘を受け、テリーの見識の深さに感心していた。古代生物や謎の生物の入手先はそのうちきっと教えると約束してくれた。

 そして男爵は、テリーとサムの目をじっと見て言った。

「ありがとう。時が来ればすべての真実は明かされる。君たちになら、話してもいいと思ったが、間違いではなかったようだな」

 男爵の純真な瞳がサムとテリーを見つめていた。

「君たちには見てほしいものがまだいくつもある。どうだい、日を替えてもう一度来ていただけないだろうか」

「もちろんです」

 そこに、ルナサテリア夫人とあの家政婦のバーゼルさんがやってきた。

「さあ、お帰りの前に、冷えたおいしいフルーツなどどうかしら」

 みんなリビングのソファでフルーツ大会だ。フルーツはよく冷えておいしかった。サムは、植物園の透明人間かなんかが収穫して冷蔵庫に入れておいたんだろうと推理していた。

 そしてそれから3日後サムとテリーは再びこの屋敷に訪れることになったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る