3 ミステリーノートでもう一周

 テリーは昨夜、あのキノコをカップスープに入れて食べたのだが、あのキノコが効いたのか、今日は本当に体調がよい。うまいしすっきり起きられるし、言うことなしだ。

 約束のドライブインに行く。さっそく、昨日商店街を見てきた、おいしい店がたくさんあったことや、エリカが市長だと知ったことなどを、マスターに手短に話した。テリーは若くて抜群にきれいなエリカが市長だなんて、まだ信じられないと感想をもらした。

 すると、店の奥からまさかのエリカが顔を出してにっこり笑う。

「おはようございます。そういうわけでね、私、この街の市長なの。それで市長になったので、このドライブインを地元のおいしいもののアンテナ店として認定したの。そしてマスターのお目にかなった地元のおいしいものを使ってメニューをつくってもらったの。思った通りPR効果は絶大ね。向こうの商店街にも観光客が押しかけているわ。だからあなたたちが見てきたこの街のいろいろなメニューが揃っているのよ」

 なるほどそういうわけだったのか。そして今日も、エリカはいろいろな店の食材を使ったモーニングをすすめてくれた。

 アリエスのはちみつをかけて食べるハックのベーグル、目玉焼きをのせたマクガイヤーのハムステーキ、マリナおばさんのカニ足のサラダ、そしてフルーツパーラーアンジェラ特製のグレープフルーツジュースだ。

「アリエスのはちみつはとてもいい香りだ、うう、このハムステーキ、すごい本格的!」

 分厚いハムステーキの脂肪が甘い、テリーはハムステーキをまさかのお代わりだ。サムはカニ足サラダに舌鼓を打った後、グレープフルーツジュースをちょびちょび飲みながらぶつぶつ言っている。

「レストランやホテルでいろんなグレープフルーツジュースを飲んだが、甘さといい酸味のバランスといい、アンジェラのジュースに並ぶものはない…」

 テリーはマスター自慢のコーヒーをゆっくりと味わう。サムが言う。

「そう言えばね、マスター、テリーさんて、足も速いし、いざという時の機転も効くし、いろいろ世話になっちゃって…」

「そうだよな、スマートだけど、脱ぐとすごそうだよ、いい体してそうだよな。エリカもそう思うだろ」

 エリカは笑っていた。

 二人の食べっぷりに、マスターもエリカもご満悦だ。

「マスター、そういえばあのキノコ、すごい効果ありましたよ、疲れが吹っ飛びました。ありがとうございます」

「見た目も元気そうだもんな。よかったよ」

 マスターにお礼を言っていると、エリカはまた電話が入り、リムジンでそそくさと出かけていく、この街の市長さんは、かなり忙しい。

「じゃあ、俺たちもそろそろ出かけるか。ええっと…」

 サムがミステリーノートを確認する。

「まずは東部の渓谷のキャンプ場の管理事務所だ」

 ミステリーノートを手に、二人は車に乗り込んだのだった。

 車は川沿いの坂道を下流側にと下り、たくさんのテントやバンガローが立ち並ぶキャンプ場へと飛ばして行った。

「すいませええん、都市伝説バスターズのサムピートと申します」

 サムが例のマイクとカメラを持って飛び込む。すると管理事務所の中に知ってる人がいて熱烈に迎えてくれた。若いビルというキャンプインストラクターだった。

「あの有名なサムさんですね。よく見てますよ都市伝説バスターズ、昨日の新月の夜、ウェルズ通りに怪物出現の記事、さっそく読みました。おもしろかったです」

「ありがとう。それで今日は、記念写真を見せてほしいんですけど」

「ああ、例のビッグフットの件ですね、いつか取材が来ると思ってましたよ」

 この管理事務所ではキャンパーの団体が来ると、最後に記念写真を撮るサービスをしているのだが、年に何回かのイベントの時の記念写真は大きく引き伸ばして管理事務所の中に飾ってあった。ビルが興奮してしゃべる。

「大きく引き伸ばしてやっと気づいたんですが、ほら、この写真のこの辺り。ね、ほら!」

「ほ、本当だ!」

 たくさんのキャンパーが並んでいる向こう岸の崖の上、確かに全身真っ黒の人影のようなものが立ってこっちを見ている。ビルが続ける。

「それでね、もとのデジカメのその部分を引き延ばしたんですよ。それがこれです」

 ビルが自分の引き出しからそっと一枚のプリントを取り出す。

「お、こ、これは?!」

 それは全身を黒い毛におおわれた巨人だった。

「それで、この辺りの自然保護官、ミステリーパークのオーナーでもあるテンペスト男爵にこの写真を見せたんです。そうしたらとても興味深いと言ってくれて、何人かの自然保護官を連れてわざわざ来てくれたんです」

 そしてビッグフットも貴重な生物だろうということになり、さらなる環境整備を約束してくれたというのだ。

「その時に、向こう岸の同じ場所に立って、そいつの大きさを推測したんですけど、これがその時の写真なんです、ほら、こっちの写真と比べても、すごくでかいのがわかるでしょう。250センチ以上はありそうですね」

 自然保護官たちが同じ場所に立っている写真と比べても、ビッグフットはとびぬけて大きい。

「いやあ、とにかくテンペスト男爵っていう人が理解があって、面白い人で…」

 興奮してしゃべるビル、しかしサムも負けずにぐいぐい前に出ながら話を聞きまくる。この辺は自然保護区域で山が深く、昔から毛むくじゃらの巨人、ビッグフットの噂がたえなかったという。

「じゃあ、近いうちにまた取材に来ますから、その時はよろしく」

 幸先のいいスタートだった。このネタでしばらくはひっぱれそうだ。それにしても、こんな大自然や健康的な施設の中でミステリーがあるとは!。

 そして外周道路を走って北部の商業地域にやってくる。ここは例のウェルズ通りの怪物のいるところだが、ミステリーノートによると、怪しい噂満載の地域だった。

「ほら、ここがサマーセット交差点、ここではよく幽霊バスが目撃されると書いてある」

 いくつか目撃談があったが、共通しているのは青いバスで、中は薄暗く、ほのかに青色の明かりが灯っているのだという。この辺りは午後11時ごろにバスが終わるのだが、目撃されるのは決まって夜中の12時ごろ、暗くて顔がよく見えないが、何人か女の人や男の人が何もしゃべらずに乗っているという。ある書き込みでは、その幽霊バスを追いかけて行き先を探ろうと、出会う度に三回ほど追いかけたが、いつも途中で追いつくことができず逃げられてしまうとのことだった。

 もちろん今は昼間で、信号機の下、たくさんの乗用車や路線バスが走っていた。

 するとサムが言った。

「この街で噂に聞いたんだけど、どんな裏道も頭に入っていて、目をつむってでもすいすい走れる腕利きのタクシーの運ちゃんがいるらしい。その人を見つけて、いつか追跡して正体を探ってやるさ」

 そしてその角を曲がって少し行くと、

「あったぞ、あれがタンゴダンスビルだ」

 5階建ての中古ビルで、現在も一階や二階に洋服や紅茶の茶葉の店が入っているが、上の階はエレベーターもなく今は空きの状態である。5階は昔ながらのダンスホールだったが、現在は新しいビルに移り、使われていない。

 でも夜中に5階のホールにぼうっと青い明りが灯り、夜風にタンゴのメロディが聞こえてくるというのである。しかも楽しそうな笑い声を聞いたという人もいる。不思議なのは、もちろんどこにも侵入の形跡はないし、夕方にはすべての出入り口が施錠され、誰も忍び込むことは不可能ということだった。

 このタンゴダンスビルの明かりや音楽は何度も目撃されて、不気味がられていた。サムは、近いうちに夜中にここに来る計画を立てているらしい。

 さらに二人は次へと車を進めていく

「へえ、街の裏に、突然静かな森とお花畑、緑の麦畑も見える。なんともいい所だなあ」

 次にミステリーノートに従って訪れたのはアリエス修道院の農園だった。大きな修道院の建物から少し外れれると、広い敷地の中に農作業小屋や緑が広がっている二人で車を降りて歩いていくと向こうから農作業を終えたシスターが三人歩いてきた、気さくなサムが声をかけると、向こうからも挨拶をしてくれる。

「失礼します、あの鐘つき堂というのはどちらでしょうか」

 丁寧に教えてもらい、お礼を言って歩き出す。静かな森に入るとすぐ、素朴な三角屋根の建物がそびえている。この静かなたたずまいがアリエスの鐘つき堂だ。観光客もたまに訪れる観光の穴場なのだが、二人が鐘つき堂に近づくと中からは若いシスターがやはり二人ちょうど出てきた。サムはミステリーノートをもう一度ちらっと確認するとすぐにシスターに話しかける。

「つかぬことをお聞きしますが…、鐘つき堂で時々神の声が聞こえるというのですが…ご存知でしょうか?」

 シスターの一人は首をかしげていたが、もう一人が大きくうなずいた。

「はい、私共は農作業の帰りに、よくここで大地の恵みをお祈りするのですが、二度ほど聞きました。最初は誰かがいたずらしているのかなと思ったんですけど。遥か上の方から聞こえてくるんです。だからきっと神の声だと…」

 サムとテリーも見上げたが、天井は高く隠れる場所もなく、大きな鐘が目に付くばかりであった。

「それで、神はなんと言われたのですか?」

 サムはとても優しく、かつテンポよく聞きにくいことを質問する。

「はい、一度目は観光客がごみを散らかした日に、森を汚すなと。二度目は小さな地震があった日に、地震に備えよ、命を守るのだ、とお言葉がありました」

 テリーも、ついでに気になっていたことを聞いてみた。

「新市長のエリカ・ロッテンハイムさんは、よくこの修道院に来られるのですか?」

 するともう一人のシスターが能弁に語りだした。

「はい、よく来られます。実はエリカさんは中学生の時からこの修道院のボランティアに毎週来られていて、貧しい人々の世話なんかを実によくやっていらしたんです。今度市長に当選されたのも、長年の活動が浸透していたからだと思います。教会の関係者や信者の方はみんなエリカさんが大好きですし、前の市長の時にこじれてしまった工場跡地の立ち退き問題も、きっと解決してくれると思っています」

 サムとテリーはシスターたちにお礼を言って鐘つき堂へと歩き出した。

鐘つき堂の入り口で二人はノートを再確認した。そこには同じことをまったく正反対に書いている書き込みがいくつか乗っていた。

ある観光客のことば。

「鐘つき堂で男とも女ともわからない声が聞こえた。天井の方からした。気味悪かった」

 別の観光客はこう書いている。

「鐘つき堂の天井の辺りから、森をけがすな!という神のような声がした。とても威厳がある重々しいものだった」

 二人は鐘つき堂に入った。サムはさっそく撮影を開始だ。中はよく清掃が行き届いていて、とても神聖な空気が流れていた。高い天井を見上げても今は特に何もなかった。

「何もなかったな」

外へ出て、テリーが言うと、サムが答えた。

「でも、番組は十分作れるよ。あとはこの最後の書き込みをすぐに出すか、もう少し隠しておくかだ」

テリーはその書き込みを見て驚いた。

「え、この書き込みの主は、誰の声なのか目撃したのか?!」

そう、その書き込みの主が天井を見上げた時、ある者がさっと鐘の陰に姿を隠すのを見てしまったのだ。

「私は見てしまった…高い天井から鐘の裏へと何かが動いて姿をかくした。それは大きな虫だった。蜂に似ていたが、全く見たことのない、人間にどこか似た、美しく知的な虫だった。大きさも30センチ以上あり、私と一瞬目が合ったとき、人間のように確かに笑ったのだ…。あれはいったい…?」

雪男とかネッシーとか、いろいろ不可思議な噂は聞いたことがあったが、まさかしゃべる虫、それも30センチ超とは?!

しかもこの美しいアリエス修道院でのミステリーであった。テリーは、唖然としてしばらく声も出なかった。農園の出口に差し掛かった時、サムが何かを思いついた。

「そうだ、あのクーパーの爺さんが言っていたウェルズ通りはこのすぐそばなんだ。ちょっと歩いて行ってみないか?記事の反応がよかったから、また次も頼みたいしね」

「ああ、いいよ」

 歩き出すと、サムを見つけては若者たちが声をかけてくる。ここは話題になったばかりのミステリーポイント、サムを知っている人も多い。

 するとクーパー爺さんの仲間らしいホームレスも声をかけてきた。彼のところにも商店街の商品券のおすそわけがあったらしく、とても上機嫌だ。

「そういえば、クーパー爺さんは、今日はどこにいるんだい」

 サムが声をかけると、そのホームレスの男は首をかしげた。

「そういえば、今朝から見かけねえなあ。昨夜、もう一度怪物を探しに行くって意気込んでいたんだけどなあ…」

 サムもテリーも、何か嫌な予感がして、ウェルズ通りの怪物が出るというビルの近くに急ぎ足で向かった。このウェルズ通りの古いビルは、静まり返って、今はなにもない…。

「あれ、ちょっとまて、サム、ありゃなんだ?、もしかして…!」

サムも派手な色合いのそれを拾い上げ、思わず大きな声を出した。

「地元の野球チームのキャップだ…そんな…ばかな…」

 まさかあの爺さんの言っていた通り、壁や地面に穴が開き、怪物に襲われたのだろうか。

「だいたい、壁や地面に穴が開くわきゃないよな。今だって、普通の通りだしな」

 とにかくクーパー爺さんはどこにもいなかった。気が付けばもう、街は昨日の町ではなかった。二人の車は、外周道路に戻り、北から西へとハンドルを切ったのだった。

 なんだろう、昨日この外周道路を周っていたときは、いい土地だなあと思っていたのだが、見える風景は同じでもすべてが怪しく見えてくる。サムが採掘場へつづくあの大きな道路で車を止めてノートを確認する。

「場所ははっきりしない。この先の石灰岩の採掘場の辺りには山の中にいくつもの洞窟や鍾乳洞がある。夜になるとそのどこかの洞窟から、不気味な唸り声のようなものや透き通った歌声が聞こえてくるという」

テリーは緑と岩山の点在する北西の山を見上げて耳を澄ましてみた。今は不気味な唸り声は聞こえない。数種類の野鳥の声と遠いせせらぎがかすかに響いてくる。さらに西部の浄水場につながるハイキングコースでもサムが言った。

「ここも夜だけの現象だ。水の湧き出す大きな洞窟が浄水場の横にあるのだが、夜になると、洞窟の奥にたくさんの白い人影のようなものが闇の中に動いているのが、何回か目撃されている」

あの辺りは昔先住民の聖地だと言われていたので、古代の精霊だろうと噂されているそうだ。ハイキングコースは今日もしっとりとした緑に囲まれて実に美しかった。

「まあ、こっちは自分一人で、また夜に来てみますよ」

サムはそういって、ハンドルを切った。

そしてまた市街地が近づいてきて、外周道路のすぐ横に、あの無人の市民病院の跡が見えてくる。車を再び止めた。ここでお化けの噂とかがあるといいと言っていたサムだったが、ミステリーノートには、ちゃんと書き込みがあった。しかも今までにない奇想天外なものだった…。

病院を通りかかったとき、ぼんやり明りがついていたので、近所の人がなんだろうと覗き込むと、三つの人影が中を歩いていたという。書き込みをした人はその目撃した人の話をちょっと脚色して書いたらしい。

「病院の中に青い明りがついていて、その中を三人の人影が歩いていたのです。その人はそれを見て、震え上がったそうです。一人目は毛むくじゃらの顔に鋭い牙、そう狼男です。そして二人目は青白い顔に二本の牙、そうドラキュラです、そして三人目は、身長2メートルの巨人、そうフランケンですよ。その人は次の日に友人たちにそれを話したけど、誰も信じてくれないので、次の夜、友人たちを病院の前に連れて行って待ち伏せをした。しばらく待っていても明かりがつくどころか何も起きなかったそうです。すると最後には警備の人かなんかが来て、窓をトントン叩いたそうです。すいませんすぐに帰りますと言って、その警備員をよく見てみたら、口を開けた時に長い二本の牙が見えて、慌てて車を出したそうです…」

いくらなんでもこれは作り話だろうとテリーは馬鹿にしていたが、サムはノリノリであちこちを撮影して回っていた。

「あれ、テリー、ここを見てくれよ」

急にサムが入り口を指さした。そこには、再開工事が終わるまでしばらく閉鎖しますの表示がかかっていた。

「ここを見てよ、まさかのあの人だよ」

なんと現在のこの無人の病院の管理責任者はあのテンペスト男爵だった…。

そして、ついにぐるっとまわって、南部のゼリーボーンズミステリーパークだ。まあここは放っておいてもミステリーな場所なのだが、ここにもきちんと都市伝説の書き込みがあった。サムはミステリーパーク全体が見渡せる見通しのいい場所に車をつけて、ノートを読み始めた。

「ミステリーウォークの日に家族と墓場公園を歩いていたら、あのひときわ大きなお墓、青い城から、女の人の歌うような声が聞こえてきました。あれは、中に絶対誰か住んでます」

 墓場の歌声だ。テーマパークであるミステリーランドのほうは夜までやっているのだが、墓場公園は、いつも夕方には閉まることになっている。だが、月に一度程度ナイトウォークというイベントがある日だけは夜9時までやっているそうだ。

 ナイトウォークというのは、夏の夜、静かで涼しい広大な墓場を歩いて健康促進という趣旨で始まったイベントだった。最近は夜のマラソン大会のように規模が大きくなり、自由に歩くフリーウォークだけでなく、ミニマラソン大会や夜のオリエンテーリング大会などのスポーツイベントも組まれるようになっていた。

 またこんな書き込みもあった。

「ナイトウォークの時、誰も行かない博物館の方に間違って行ってしまった。隣の建物に明かりがついていたので何気なく覗くと、ゴリラのような毛むくじゃらの人影が歩いていた。怖くなってすぐにメインコースに逃げ帰った」

 隣の建物って、いったい何だろう、確かに博物館の隣に、イギリス風の大邸宅がそびえている。サムは車を止めて、通行人のおばあさんにちょっと聞いてみた。

「すいません、あそこの博物館の隣の建物って何ですか?」

 するとそのおばあさんは親切に教えてくれた。

「ええ、あの立派なお屋敷ね。あそこはこのミステリーパークのオーナー、テンペスト男爵のお屋敷よ」

 テンペスト男爵邸のゴリラだったか?テンペスト男爵の名前を今日はよく耳にする。青い城もまあ、どちらもナイトウォークの時のことだから、今度ナイトウォークの日に二人で確かめに来ようということになった。

 そして外周道路からそれらを眺めてまた一周してエッグベースへと帰ってきたのだった。サムとテリーは、エッグベースでマクガイヤーのベーコンエッグサンドを強烈炭酸ドリンクで流し込みながら、また世間話をしていた。

「うわあ、卵も味が濃いし、肉厚のベーコンがめっちゃうまい!、そういえば、ふと思ったんだが、ゼリーボーンズミステリーパークの、ゼリーボーンズって何だ?」

 テリーがそんなことをつぶやくと、サムがあきれ返ってまくし立てた。

「えっ、ゼリーボーンズを知らない?!食べたことないの?驚いた、本当に知らないみたいだね。育ちのいいおぼっちゃまだなこりゃ。俺なんか近所のドラッグストアで死ぬほど買いまくって食いまくっていたよ」

 どうやら子供向けのお菓子のようである。するとサムが突然語気を強めた。

「よし、わかった。ゼリーボーンズはお菓子にして、お菓子にあらず。このエッグシティで生まれて、アメリカ各地にブームを巻き起こした文化の大きな波なのだ。これからサム・ピートが、ゼリーボーンズの1から10まですべて伝授して差し上げよう。明日都合がつけば、また付き合ってくれよ。ゼリーボーンズのことが知りたいだろう?」

 その夜テリーはまた暗号通信で諜報部に連絡を取った。崩落事故に軍がかかわる必要はない、だいたい、本部が調べたところ、どこからも出動要請は出ていないという。ただ軍が独自に危険だと判断してあんな厳重に警備をしているのだ。まだ軍の狙いが分からないので、エッグシティにとどまり情報を集めてくれとのことだった。

テリーはあちこちに連絡して、しばらく考えてからサムに連絡した。

「また明日の朝、エッグベースで会おう。ゼリーボーンズのことを教えてくれ」

 この判断が、テリーのこれからを大きく左右することになるとは誰も知る由がなかった。

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