第10話 二日目は剣を振って⑤
こうして、俺は道場の門下生に交じって練習試合に参加することになった。
男性用の道着と防具を借りた俺は、竹刀を握りしめて門下生の男子と向かい合った。
「ヤアアアアアアアアッ!」
「メエエエエエエエンッ!」
「っ…………!?」
俺に防具の上から頭を打ち抜かれて、同年代の門下生が硬直する。
彼の目には、はじめて道場に来る初心者に敗北をしてしまったことへの驚愕が浮かんでいる。
「ふう、勝った……」
練習試合の結果だったが、意外なほど俺は勝利を収めることができていた。
最初は今年から剣道をはじめたばかりの中学生と戦わされたのだが、俺は彼らに対して1本もとられることなく快勝した。
中学生全員を倒した後には、今度は彼らよりも経験年数の長い高校生らが俺に試合を挑んできた。
剣道を何年もやっている高校生らの動きはさすがに俺よりも洗練されていて、技という点において俺よりもずっと勝っている。
しかし――
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ワールドクエストを達成。スキル【筋力強化Lv1】を修得!
ワールドクエストを達成。スキル【生命強化Lv1】を修得!
ワールドクエストを達成。スキル【敏捷強化Lv1】を修得!
ワールドクエストを達成。スキル【剣術Lv2】を修得!
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中学生らと打ち合っているうちに俺はいくつかのワールドクエストを達成しており、新しいスキルを修得していた。
【剣術】スキルのレベルが上がったおかげで、さらに剣をうまく扱えるようになった。
ステータスを向上させるスキルも修得しており、もともと修得していた【身体強化Lv2】の効果と合わせて、俺の身体能力はこの道場でも群を抜いて高くなっている。
(俺って帰宅部だけど運動神経はそれほど悪くなかったからなあ。もともとの身体能力を高校生の平均値として、今はスキルの効果で6割増しくらいだから……)
100m走のタイムが14秒くらいとして、時速に換算すると25㎞ほど。
それが1.6倍ということは時速40㎞になる。短距離の世界記録が時速45㎞であることを考えてもかなり速いほうだろう。
(つまり、今の俺の身体能力は高校生としてはトップクラスってことになる。まだまだ技量では劣っているかもしれないけど、パワーとスピードじゃあ俺が上みたいだ)
「すごいじゃないか、想像以上に動けるじゃないか!」
無敗とまではいかなかったものの、中学から剣道をやっている門下生にまで勝利した俺を沙耶香が笑顔で誉めてきた。
「あ、はい。ありがとうございます」
「本当に初めて道場に通うのか? とてもそんな動きには見えなかったけど」
「は、あははは……」
沙耶香の称賛に俺は居心地が悪くなってしまい、微妙な作り笑いを返した。
俺の勝利はスキルによるドービングのおかげ。
なんだかズルをしている気分になってきて、沙耶香の笑顔に胸が痛くなる。
「タダの我流ですよ。時々、真麻の竹刀を見よう見まねで振っていただけで」
「ふうん、それはもったいないな。良かったら真砂君もこの道場に通ってみないかい? 君だったらすぐに段位も取れるかもしれないよ?」
「いやあ……それはちょっと遠慮させてください」
さすがにその提案は断った。
これまで地道に練習を積んできた選手に、自分みたいな近道をしてきた者が混じるわけにはいかない。
道場に通うのはこれきりにするべきだろう。
「あくまでも体験入学ということにしておいてください。月謝のこともありますし……ほら、来年には高校三年生で受験ですから」
「そうか……受験のことを言われると強くは誘えないな。まあ、大学に入ってからでも構わないから、時間に余裕ができたら本格的に剣道をはじめてもらいたいな。君の才能を埋もれさせておくのは剣道界の損失だからね」
「前向きに検討させてもらいますよ。今日はいい運動になりました」
「あれ? お兄、もう帰っちゃうの?」
沙耶香に向かって頭を下げる俺に、真麻が訝しげに詰め寄ってきた。
「さすがに体力の限界だよ。帰宅部を舐めんな」
「もうっ、威張ることじゃないでしょ! お兄はもっと運動をした方がいいよ!」
「そうするよ。それじゃあ沙耶香さん、今日はありがとうございました」
「ああ、またいつでも遊びに来てくれ」
にっこりと透き通った笑みで見送ってくれる沙耶香。
俺は美貌の女剣士に、もう一度深々と頭を下げて剣術道場から退出した。
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