第5話 目覚めの初日⑤
「ちょっと、お兄! なんで牛乳、全部飲んじゃうのよっ!」
藤林春歌とその友人・早苗を助けた俺は、家に帰るや妹から説教を受けることになってしまった。
どうやら真麻は今晩、クリームシチューを作る予定だったらしい。
材料の牛乳を飲み干してしまった俺に、肩を怒らせて説教をしてきた。
「それで? いったいどこに行ってたのよ!? 牛乳を買いに行ってたわけじゃないんだよね!?」
「ええっと、それがな……」
俺は交差点でのやり取りについて真麻に説明した。
家のすぐ傍で事故が起こったこと。それに気がついて外に出たこと。
事故の当事者がクラスメイトとその友人で、助けに入ったこと。
幸いなことに事故に遭った女の子が大したケガもなく無事だったこと。
緊急クエストやポーションのくだりは隠して、人命救助を行ったことをさりげなく主張した。
「ふうん、そういうことなら今回は特別に許すけど…………今日はクリームシチューじゃなくてカレーだからね!」
「俺的にはそっちのほうが嬉しいんだけどな」
真麻はプリプリと怒りながら台所へと入って行った。
俺は安堵に溜息をついて、足早に自分の部屋へと戻った。
「さて……それじゃあ報酬の確認だ!」
緊急クエストの報酬についてはまだ確認していない。
せっかく手に入れたポーションを消費してまで攻略したクエストの報酬は、どんなものなのだろうか?
―――――――――――――――――――――
緊急クエスト
・事故に遭った少女を助けろ CLEAR!
車に轢かれた少女は、奇跡の薬によって一命をとりとめた。
その新しい出会いは月城真砂の生活に何をもたらすのか?
報酬:スキル【治癒魔法Lv1】
―――――――――――――――――――――
「おお! 魔法だ!」
クエストボードという能力を得てからもしかしたらと思っていたが、やはり魔法スキルもあるようである。
さらにインフォメーションに見慣れた『!』が表示されていたため押してみると、さらなる情報が表示された。
『緊急クエストを達成したことで新しい機能が解放されました。『ステータス』の機能を追加いたします』
「ステータス来たああああああっ!」
俺はガッツポーズを天井へと突き上げた。
スキルに魔法にステータス。中二心を忘れない少年の夢が一気に叶ってしまった。
俺は少しだけ緊張しながら、新たにクエストボードに追加された『ステータス』のアイコンを押した。
―――――――――――――――――――――
月城真砂
STR:12
VIT:12
DEX:10
INT:12
AGI:12
LUK:10
スキル
・身体強化Lv1
・精神強化Lv1
・治癒魔法Lv1
装備
・汗臭いタンクトップ
・古びたパンツ
・ジュニアハイスクールジャージ(下)
―――――――――――――――――――――
「む……?」
装備の名称もツッコミどころ満載だったが、ステータスも妙におかしな数値である。均一なようで変に偏りがあった。
「器用さ(DEX)と幸運(LUK)だけが10で、あとは全部12……? 何か理由があるのか?」
自慢ではないが俺は100冊以上のファンタジー小説を読破している。
RPGもいくつもプレイしてきている。まあ、飽きっぽいから全クリしたことはあんまりないのだが……
そのせいもあってか、ステータスやスキルの表示はどうにも気になってしまうタチである。
俺はしばし考え込んで、自分なりの仮説を頭の中に構築する。
「仮に全てのステータスのデフォルトを10として、手に入れたスキルの効果で2割増してるんじゃないか? 【身体強化】がSTR(筋力)とVIT(生命力)とAGI(敏捷)、【精神強化】がINT(賢さ)って感じで」
その推測が正しいのであれば、【身体強化】や【精神強化】はレベル1ごとに20%能力が向上する計算になる。
つまり、Lv5まで上昇することができれば身体能力が2倍になるということだ。
「明日以降、どんなデイリークエストが配信されるかだな……それにワールドクエストのできそうなやつはチャレンジしてみようか」
――――――――――――――――――――
ワールドクエスト
・薬草を100本入手せよ。
報酬:スキル【薬草採取Lv1】修得
・鉱石を100個入手せよ。
報酬:スキル【鉱石採掘Lv1】修得
・敵に近接攻撃を10回あてろ。
報酬:スキル【筋力強化Lv1】修得
・敵に遠距離攻撃を10回あてろ。
報酬:スキル【命中強化Lv1】修得
・敵の攻撃を10回ふせげ。
報酬:スキル【生命強化Lv1】修得
・敵の攻撃を10回よけろ。
報酬:スキル【敏捷強化Lv1】修得
・
・
・
・
・
・
――――――――――――――――――――
「薬草と鉱石はどっかの山で探せそうだな……いや、条件は『入手』だからホームセンターとかで買ってもいいのかな? 問題は戦闘系だよな……」
俺はぶつぶつと独り言を口にしながら、ワールドクエストを達成する手段について考えた。
そんなことをしているうちに時計が0時を回っていたためデイリークエストを確認するが、残念ながらまだクエストは更新されていなかった。
どうやら日付が変わればデイリークエストが切り変わるというわけでもないようだ。
「ふあ……とりあえず今日のところはもう寝ようかな?なんだかんだで色々あって疲れたし、治癒魔法の検証は明日でもいいか……」
俺はアクビをかみ殺してベッドにゴロリと横になり、今日一日の出来事を振り返った。
突然、神様からのメッセージとともにクエストボードを授かって、スキルを入手して。
おまけにクラスメイトの女子とその友人が事故に巻き込まれたのを助けたりして。
「……濃い一日だったな。ひょっとしたら、人生で一番濃厚だったかもしれない」
そして、これからも退屈しない日々が続くのだろう。
部活に入っていおらず、将来の夢もなく、退屈な高校生活だったはずが突然根底からくつがえされてしまった。
「面白くなってきたな……ああ、明日が待ち遠しいなんて小学校以来かな?」
俺はニマニマと口に笑みを浮かべながら目を閉じた。
興奮して眠れないかと思ったのだがやはり疲れていたのだろう。意外なほどあっさりと睡魔がやってきて、俺は深い眠りの中へと落ちていった。
――――――――――
お知らせ
「悪逆覇道のブレイブソウル」という作品を投稿しています。
勇者も魔王もぶちのめす。悪役キャラのハーレム冒険記になります。
こちらの作品もどうぞよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます