第3話 目覚めの初日③
「ゴクリ……」
俺は緊張にツバを飲み込みながら、まずは『ワールドクエスト』と書かれているアイコンを押してみた。
すると、それまで表示されていたデイリークエストが消えて、代わりに無数のクエストの羅列が表示される。
「うおっ!? なんだこりゃっ!?」
そこには1、2、3、4、5……いや、もう数えるのもバカバカしくなるほど大量のクエストが表示されている。
そのクエストの数ときたら、クエストボードに収まりきらずはるか下までスクロールすることができるくらいだった。
しかし、気になるのは数だけではない。
そのクエストの内容のほうも問題だった。
「ゴブリン10匹の討伐、マンドラゴラ10本の納品、ダンジョンを3つ攻略する……いやいやいや! ゴブリンとかマンドラゴラとかどこにいるんだよ!? この世界にダンジョンってあるのか!?」
そこには所々にファンタジーな単語が混じっている。
この画面の内容は、そのままどこかのRPGゲームに表示されていてもおかしくないようなものだった。
「いや、さすがにこれは無理ゲーだろ……ゴブリンを倒すとか以前に、見つけることがもう大冒険だもの」
この現代日本でもできそうなクエストを挙げるとすれば、『剣で10体の敵を倒せ』とかだろうか。
「それでも難しいよなあ。俺の敵って誰だよ」
男には七人の敵がいるというが、7人倒したってまだ3人足りない。
生まれてからケンカもしたことないし、イジメをしたこともされたこともない俺に敵など思い浮かばない。
「うーん……繁華街のほうに行って不良とかを探してやっつけるとか? いや、でも俺じゃ勝てないよな、戦闘に使えそうなスキルなんて効果微妙な身体強化くらいだもんな」
ひとまず、ワールドクエストについては放置するしかなさそうである。
ゴブリンとかモンスターの存在は気になるものの、とりあえずは忘れたほうがよさそうだ。
俺はコホンと咳払いをして気を取り直して、ワールドクエストの隣にある緊急クエストのアイコンを押した。
――――――――――――――――――――
緊急クエスト(NEW!)
・事故に遭った少女を助けろ。
制限時間(10:00)
報酬:?????
――――――――――――――――――――
ワールドクエストが山ほどあるのに対して、緊急クエストに表示されていたのは一つだけである。
おまけに制限時間付きで報酬に何がもらえるのかも謎だった。
「事故に遭った少女って…………どこの少女? どちらさん?」
俺がぼんやりとつぶやいた瞬間、家の外からけたたましいクラクションの音が鳴り響いた。
一拍おいて、ドンッと何かが衝突するような重々しい音が響く。
「きゃああああああああああっ!」
「は……?」
絹を裂くような女性の悲鳴。
しばし固まっていた俺だったが、目の前のクエストボードに表示されている緊急クエストの制限時間がいつの間にか動き出しており、数字の時間が『09:25』になっていた。
「そうか……! これが緊急クエストなのか!」
事前に説明くらいしてくれよ!
そんな悪態をつきながら、俺はドアを勢いよく開け放って部屋から飛び出した。
先ほど牛乳を取ってくるために降りた階段を、今度はズダダダダッと転がるようにして駆け降りる。
玄関の扉を開けて外に出る。
キョロキョロと左右を見回すと、俺の家の近くにある交差点で事故が起こっていた。
道路に黒いブレーキ痕が刻まれていた。
そこから少し離れた場所に白い車体が停まっている。
「ダメッ! 起きて、早苗! 早苗!」
そして、横断歩道の上に横たわっている高校生くらいの少女。
そのすぐ傍には別の女の子が寄り添って叫んでいる。
「あれは……藤林さん、だよな?」
倒れている少女に悲鳴のような声で呼びかけているのは、俺が通っている高校のクラスメイトの女子だった。
彼女の名前は藤林春歌。
おさげ髪に眼鏡というやや地味な容姿をしているものの、実は可愛らしい顔立ちをしていて男子から隠れた人気のある女子である。
今日はゴールデンウィークということもあっていつもの真面目一辺倒の格好ではなく、おさげ髪を解いて眼鏡もコンタクトにしているようである。
服装も見慣れたブレザーではなくオシャレな私服で、パッと見て藤林春歌であるとはわかりづらかった。
「早苗! 早苗ッ! お願いだからしっかりして!」
倒れている少女は藤林さんの友人だろうか? 見覚えのない女子である。
彼女を撥ねたであろう白いセダンの横では、運転手らしき男性が呆然と立ちすくんでいた。
自分が人を轢いてしまったことが信じられないのだろう。救急車を呼ぶことも忘れて、感情を無くした瞳で呆然と立ちすくんでいる。
「藤林さん!」
「え、あ……つ、月城君!?」
俺が駆け寄って声をかけると、振り返った春歌が俺の名前を呼んでくる。
「頭を打っているかもしれないから動かさないほうがいいよ。それよりも、救急車を呼んで」
「え……ええと……」
「スマホは持ってるよね? 落ち着いて、番号は119番だからね?」
「あ……うん、わかったわ!」
春歌は少し離れた場所に落ちていたバッグから自分のスマホを取り出した。
あわあわと焦った手つきでスマホを操作して、俺の指示通りに救急車を呼ぼうとする。
「さて……」
救急センターに事情を説明している春歌を横目に、俺は交差点に倒れている少女の横へと座り込んだ。
早苗と呼ばれていた少女は俺達と同世代のようで、やはり顔に見覚えはない。
ぐったりとアスファルトの上に倒れる彼女は頭から血を流していて、瞼はきつく閉ざされている。
事故に遭った少女を助けろ。たんに救急車を呼べということではないだろう。
俺に医学的な知識はないが、意識のない少女が危険な状態になっていることは予想できた。
場合によっては、救急車が来るまでもたない可能性もあるかもしれない。
やれることはなんだってやるべきだ。ちょうど、俺はその手段を有している。
「クエストボード……アイテム……ポーション」
俺はクエストボードを呼び出して、アイテムのアイコンから牛乳一気飲みによって手に入れたポーションを取り出した。
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