決戦!

「弓隊!魔法使い!あの歌人を攻撃しろ!」

ギルマスの指示ですでに村へ戻ってきた弓隊と魔法使いの遠距離攻撃を始めた。


しかし─


フィールへの攻撃は全て黒い光に阻まれ、フィールに届かなかった。


「おいおい!歌人には戦う力は無かったんじゃないのか!?」

「マジかよ!」

「どうすれば良いんだ!?」


このままじゃみんな死んじゃう!?

シオンは憎しみで染まったフィールの渾身の一撃の強さを肌で感じた。そして遂に覚悟を決める。


「みんな!このままじゃみんなを護れない!だから新しい歌を唄わせて!」


冒険者達はざわめくが、向こうの歌人を何とか出来るのはシオンだけなのだ。周りのみんなも覚悟を決める。いや、自分の身を盾にしてシオンの前に立った時点ですでに覚悟は出来ていたのだ。


これは普段のシオンが、悪戯好きではあるがみんなに愛されていた証拠でもあるのだ。村の為に、孤児の為に、家族の為に今まで頑張ってきた事を、村で暮らす全ての人々は知っているのだから………


「よっしゃー!シオンちゃん!ぶちかませー!!!」

「ヤバかったら担いで逃げてやるよ!」

「負けんなよ!」

「死ぬ時は一緒だぜ!」


うん!みんなの為に私は絶対に負けない!シオンは胸に手を当てて、腹の底から想いを込めて唄い出した。


『全ての人々の想いを込めて____希望のメロディを奏でる


最後の救いを求めて____全てを受け止める力


1人では弱き力でも_____想い集まれば大いなる力へと導かれる』


シオンを中心に、薄い青色の光が集束されていく。それと同時に、フィールのどす黒い赤色の聖歌唱力の光がシオン達に襲い掛かる!


シオンの新しい聖歌は複雑な【魔方陣】を描き、フィールの赤き聖歌唱力の力場を受け止めた。


『憎い!憎い!憎い!死ね!死ね!死ね!』


全ての憎しみを力に変えて、聖歌唱力を全開で放つ!新しい聖歌を唄っているシオンも先ほどと違い劣勢になりつつあった。


『ダメ!フィールの悲しみと憎しみは想像以上だわ!このままじゃ………!』


シオンは葛藤していた。自分が負ければみんなが死ぬ。初めての負けられない戦いに焦りが出てくる。ベテランの冒険者でも数多くの死線を潜らなければ冷静ではいられない。


そんなシオンに声を掛ける者がいた。

「シオン!ガラにもないことは考えるな!」


シオンを側で支えるクロウだった。


「くっ………でも!私が頑張らないと!みんなが!?」

「バーカ!誰もお前を責めないよ!もっと楽しく唄え。そんな怖い顔で唄うな!」


!?


周りの冒険者もそれに同意した。


「シオンちゃん!いつも酒場で唄っている歌をお願いするぜ!」

「バーカ!魔詞じゃ無かった死ぬだろうが!」

「いつものように楽しく唄って下さい!」


緊張感が薄れ、周りのみんなが逆にシオンを励ます!


「ふふふっ!何よ!失敗したらみんな死んじゃうんだからね!?」


口では軽口を叩くが、シオンの表情には笑みが戻ってきた。


さぁ!やるよ!!!!


シオンが気合いを入れて再度、唄い出した。すると、先ほどと違い複雑な魔方陣が青色の光と共に【4重に展開】された。


『うぐっ!何よ!今まで押していたのにびくともしない!?いえ………押されてる!?』


フィールも先ほどより大きく展開されたシオンの聖歌唱力の力場に圧倒される。


『何が起こったの!?』


その疑問にシオンが答える。


「フィール!もう止めて!盗賊は全て死んだわ!もう自由なのよ!」

「黙れ!!!!貴様に何がわかる!私の記憶を読んだのだろう!私はただの人殺しだ!もう戻れないのよ!!!!」


「フィール!!!!」


全てを否定し、絶叫しなら唄い続けるフィールにシオンも全力で応える!


「私は負けない!大切な人々を護る為に!」


シオンの聖歌はフィールの聖歌唱力の力場を打ち砕き、眩しい光と共にフィールへと貫いた!


「あ゛あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


シオンの聖歌をまともに受けて眩しい光に包まれるフィール!


「すごい………さっきと威力が全然違う。どうして?」


イオンが呆れて尋ねた。


「シオン、貴女は気付いて無かったの!?貴女の新しい【固有聖歌】は『聖女の祈り』という数多くある聖歌の中でも最上位の魔詞よ!」


えっ?そうだったの!?


「この聖歌は1人では力が弱い。唄う歌人に感謝などの想いを数多くの方が、祈ることで無限の力を発揮する聖歌よ」


おおっ!!!!


イオンの説明に周りの冒険者や守衛達が照れながら、驚きの声を上げる。


『でも【聖女の祈り】の本当の効果は、歌い手の想いでなんでも出来ることなのよね。今回は相手の聖歌を撃ち破ることだったけど、何百人の者達を癒したり、魔物の軍勢を消滅させたり出来るのだけれど………まぁ、今は秘密にしておきましょう』


眩しい光が収まる頃、シオンの聖歌の力をまともに受けたフィールの姿が現れた。


「フィール………」


シオンは呟くとフィールの姿は【真っ白】になっていた。シオンの聖歌のせいでは無く、【生命力の全て】を聖歌に込めたことでフィールの命は風前の灯火だった。


シオンはフィールの口元が僅かに動いたのを見落とさなかった 。


『ありがとう』


そう言って微笑んだ後、身体が灰となって風に消えていった。その微笑みは、実に清々しい笑顔で、憎しみから解放されたようであった。シオンは心の底から良かったと涙を流した。


こうしてシルフィード辺境村の攻防戦は幕を閉じたのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【後書き】

愚者の声

「これにてエピローグに入り、完結となります」

シオン

「幻の左ーーー!!!!」


ホゲラッ!


愚者の声

「ぐふっ!なにしやがる!」

シオン

「言葉が足りないですわ!第1章が完結ですよ!」


愚者の声

「あっ!?」

シオン

「このお馬鹿!」


ショボン……

(´・ω・`)



まだまだ続きます!





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