苛立ち!

『な、何!?メロディーが頭に流れる!』


初めての感覚にシオンは戸惑ったが、ギリギリの状態で唄っているのだ。気にしている場合ではない!しかし、どんな効果があるのかわからないのに唄う訳にもいかなかった。


シオンはイオンに視線をやった。イオンもピアノを弾きながらシオンの視線に気付いた。


「シオン?」


どうするか迷っている時、相手の唄も弱まった。その隙にイオンに相談した。


「頭に中にメロディーが聴こえるの!でも、どんな効果があるかわからないの!どうしたら良い!」


急に唄を止めたシオンに驚き、演奏を止める。イオンにもどんな魔詞なのかわからない。それでもシオンに託した。


「貴女の信じるままに唄いなさい!誰も貴女を責めないわ!それにきっとこの瞬間に閃いたメロディーには意味があると思うわ!」


一方、押されつつあったフィールにも変化があった。


『憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!』


「その耳障りな唄を止めろーーーーーーーーー!!!!!!!!」


普段、心を閉ざして無表情で反応の鈍いフィールだったが、シオンの暖かい唄いにイラつき、フィールの琴線に触れ、感情をあらわにした!フィールの唄が止んだ瞬間だった。


その瞬間、赤色の光で包んでいたフィールの聖歌唱力が黒く染まった。フィールの憎しみの色を表すかのように………


「ふ、ふふふ…………聴こえる。聴こえるわ!新しいメロディーが!!!?」


なんと!?フィールも感情の高まりによって新たな力に目覚めたのだ。いや、シオンとの拮抗した聖歌唱力のやり取りが経験値を産み、力を付けたのかも知れない。


『全てを破壊する唄を!!!!破滅の唄を!』


「黒に染まりし世界___灰色の世界を広める唄よ


涙は渇れ果て渇きが支配する___全てを憎み全てを破壊する


黒き光に包まれて____今、楽園へといざなう!」


フィールから黒い光が生まれ、黒い稲妻の様にバチバチッ!と先ほどとは違う禍々しい光が発する。それを見た隣にいた盗賊団の頭であるゲースが歓喜した。


「ふはははははは!!!!流石だぜ!フィール!ここに来て新しい聖歌かよ!」


手下が殺られて、数を減らされて焦っていたゲースが喜ぶのも無理はない。フィールの黒き光はすぐ隣にいたゲースを真っ先に包んだ。ゲースはどんな効果があるのかワクワクしたが、すぐに絶望へと変わった。


「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!」


黒き光は、そのまま稲妻としての効果があったのだ。そう、【攻撃の聖歌】である。フィールの放った黒き光は、ある意味拷問に近い聖歌であった。黒き光はすぐには相手を殺さず、暫く痛みを持続させる。そして相手は余りの苦しみに自ら願うのだ。


『殺してくれ!!!』


そしてゲースはフィールの聖歌の最初の犠牲者となった。


それからは一方的だった。背後から迫る黒き光は次々と盗賊団を襲い、逃げても追い掛けて捕まえ、盗賊団は苦しみの中で全滅した。


戦っていた冒険者や守衛にも襲って来たが、味方を守るシオンの聖歌唱力の力場で防がれていた。


「盗賊団が全滅したぞ!」

「ってか、俺達もヤバくね!?」

「シオンちゃんの聖歌が防いでくれているのか!」


ギルマスは盗賊が全滅したのを確認すると即座に撤退の指示をだした。

「撤退!!!シオン嬢の後ろまで撤退しろ!」


シオンが負けるとは思っていないが、無駄に命の危険をさらす訳にもいかないからだ。ギルマスの指示従い、後退する冒険者と守衛達だったが、誰1人【シオンの後ろ】には下がらなかった。


「………俺はシオン嬢の後ろまで下がれと言ったんだがな?」


ギルマスの呟きに、周りの冒険者達が笑い掛ける。


「そういうギルマスだって【シオン嬢の前】にいるでしょうが!」


前線で戦っていた者達は全て、シオンを護る様にシオンの前で剣を持ち、待ち構えていた。


『なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!なんで!』


フィールは唄いながらその光景を認められなかった。


『自分には誰も居ない。向こうの歌人はどうして守られている?どうしてあんなにも味方がいる?どうして私には誰も居ない?この差はなんだ?なんで自分だけ?どうして!?』


「お前達!全員死んでしまえ!!!!!!」


フィールは叫びながら聖歌を最大限に魔詞に乗せて唄った。


今まで以上の聖歌唱力が乗った黒き光が襲ってきた!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

【後書き】

愚者の声

「ファンタジー小説になって来ましたね!」

シオン

「そうね!」

愚者の声

「ようやく認めてくれた!」

感無量………

シオン

「いや、それが普通だし!」


愚者の声

「ファンタジーって難しいね」

シオン

「いや、それは愚者だけだし!」


愚者の声

( ;∀;)ソンナ!

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