第20話「私らしいって何?」

俺とより子はジョイポに来た。

「いらっしゃいませ~お客様二名様ですか?」

「いや、あとから1人きます。」

「ではこちらの席へどうぞ~」


窓側の席へ案内される。


「ヒロぽんの隣もーらい♪」

「嬉しそうだな。」

「嬉しいよ♪」

「やれやれ、なんか、まだ眠いな……」

「まぁ、麻酔弾だったからね。にしてもヒロぽんは起きるの早かったよ?」

「そうなんだ。昔からあんまり薬とか効かないんだよ俺。」

「ふーん。あ」

「あ、相生さん!」

入り口には黒髪ロングの相生さんが見えた。マフラーをしている。素敵だ。


「ごめんなさい、2人とも。遅れてしまって。」

「いや、今来たところだから大丈夫。」

「喜連川さんも、ご無沙汰してます。」

「アタシの方が年下なんだから、敬語いらないって、相生さん。」

「!」

「より子……」

より子が初めて相生さんと呼んだ。

いいぞ。いい成長だ。

相生さんも、少し嬉しそうだ。


「な、何?一応同盟なんだから、普通でしょ?」

「そうだな。」

「そうね。よろしく、より子ちゃん。」

「!?そこまで許してなーい!」

「ははは。」

相生さんは笑うのを手で隠した。

素直に笑える日が早く来るといいのに。


「相生さん、お昼は?」

「まだよ。」

「じゃあお昼ここで食べていいからね?」

「うん。」

「より子は?」

「んーまだおなかすいてないかなー」

「俺もだ。ポテトでも頼むか。」

「一緒に食べよ?♪」

「そうだな。」

「……2人ともずいぶん仲良くなったんだ。」

「あ、ああ。同盟だからね。」

「昨日、あんなことやこんなことあったからねぇ~♪」

「あんなことやこんなこと?」

「ないないないない!ないから!」


いや、ぶっちゃけ友達の境界線は越えちゃってる感はあるけど!でも未遂だから!


「ふーん。」

俺が想像したとおりの蔑んだ目をしてくれる相生さん。ありがとうございます!!


「まあ、同盟なら必要よね。そういうのも。」

相生さんはマイペースにタッチパネルで注文をした。もちろん俺のポテトも。


「ふぁ……あ、ごめん。」

まだ麻酔弾の効果が抜けていない。

「大丈夫?ヒロぽん?」

「ヒロ……ぽん?」

最初の俺と同じリアクションをする相生さん。


「ああ。大丈夫。」

「なんか体調悪かったら言ってね?」

「……?広山くん。何かあったの?」

「ああ、実はー」

お待たせしましたー。

ちょうどポテトと相生さんのパスタが来た。


「食べてからにしましょうか。」

「ああ、うん。そうだね。」

「あ、アタシ、トイレ行ってくるね~。」

「あ、ああ。」


より子はトイレに1人向かう。


「……デートは上手くいったのね。」

「う、うん。色々振り回されたけど。」

「予想できるわ。でも、広山くんはそういうの嫌いじゃないんじゃない?」

「ああ、まあ。」

「お似合いよ?2人とも。」

「えっ、いやぁ~……」

頼む勘違いしないでくれ!相生さん!


「いただきます。」

「あ、俺も。」

モグモグ

軽食を食べると逆に腹が減る。

そういうものだ。


パスタを、食べるために髪を耳にかける相生さん。その仕草だけでドキドキする。


「……」

「……」

俺はお冷を飲み干す。

「み、水取ってくる!」

「うん。」

俺はドリンクバーコーナーへ向かう。

今日は日曜日なのに、人が少ないな。


ゴトッ

「……より子遅いな。」

「何か新しい情報あった?」

「あ、ああ。話しても大丈夫?」

「ええ。」

「……結構ショックな情報だけど、希望もあるから。」

「うん。」

「まず、ゲーセンでのあの事故。あの不良は多分、死んでない。」

「……えっ!?」

「より子によると、力の強弱はどの感情にもあって、はにかんだ位じゃ人は恐らくしなないんだって。」

「そう、なんだ……。」

「少しホッとした?」

「ええ……。」

相生さんは少し目が潤んでいた。

きっと、ずっと気にしていたんだ。

心のトゲが一つ抜けたかな?

「でも、なんで……博士は助からないって……」

「その博士なんだけど。」

「……うん。」

コトッ

「?これは?」

「より子曰わく、麻酔弾らしい。」

「……?」

「俺は今日、その事を博士に報告にいったんだ。そしたら」



「撃たれた。」



「えっ?」



「さっきまで俺は眠らされてさ、一時間くらい。より子が気にして助けてくれなかったら俺はどうなってたか……」

「ち、ちょっと待って!?何かの間違いじゃないの?」

「いや、本当だよ。」

「博士もその力の強弱については知らなかったんでしょ?なら、博士も誰かにその不良の安否を偽られて教えられてたのかも。」

相生さんが博士をかばいたくなる気持ちはわかるし察せる。確かにその可能性はなくはないけど。

「じゃあ、これは。どう説明できるの?相生さん。」

「これは……きっと、たまたま広山くんが持ってた……」

「相生さん。これが実弾だったら俺は死んでるんだよ?俺は殺されかけたんだ。」

「あの博士がそんな事するはずない!麻酔弾が事実だとしてもきっと脅されてるとか、あなたの身の安全を確保するために……」

「相生さん。らしくないよ。どんなときも冷静な相生さんなら。」

「私らしいって何?あなたに私の何がわかるの?あなたよりも、私は博士についてよく知ってる。勝手なこと言わないでよ!」

「俺が殺されかけたことを信じてくれないのかよ!?相生さん!?」


つい喧嘩腰になって、ここがファミレスだってことを忘れそうになる。


少し自分を落ち着けるが、気づいたらファミレスには俺たち以外に客がいない。


「……?」

「広山くん、まだ話が。」

「何か変だ。」

「え?」

「店員さんも、客もいない。」

「……」

「より子も戻ってない。」

「……ちょっとトイレ見てくるわ。」

「その必要はない」


どこからともなく声が聞こえた。

店内のスピーカーからだ。


瞬間入り口から物々しい装備をした男数名が突入してきた。


「!?」

「残りの目標二名を補足。これより拘束し、帰投します。」

奥の男は誰かを担いでいる。

それはー

「より子!!!」

目隠しをされ、口をガムテープで塞がれ、手足もガムテープで巻かれているより子をその男は担いでいた。より子は動かない。

「より子になにをした!?」

「なんなの……?」

「抵抗するな。大人しく連行されればこの娘に危害は加えない。」


まるで映画だ。

絶体絶命。袋のネズミ。


俺たちは監視されていたのだ。

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