第19話「これは。君のためなんだ。」

帰り道の足で博士のマンションに向かう。確か、部屋は五階のー…505号室。


「ここだ。」

ピンホーン


「はーい。」

案の定、早乙女博士はここにいた。ここに住んでるんだろうか。

「あ、この前お邪魔した相生さんの友人の広山です。」

「あ、はいはい今あけるよー。」


ガチャ


「やぁ、広山くん。どうしたの?」

「こんにちは博士。実は聞きたいことがあって……」

「そうなのかい?とりあえず入りなさい。」

「お邪魔します!」


バタン


相変わらず空のペットボトルが散乱している。

この人は片づけるのが苦手なのだろう。

「今日は相生くんはいないのかい?」

「はい、今日は別で。」

「ふーん。あ、コーヒー温めるよ。」

ピッ

ブーン

博士は電子レンジでコーヒーを温めている。

さて、どこから話したものか。





「はい、コーヒー。私が入れたやつだからあんまりうまくないけど。」

「ありがとうございます。」

ズズズ……


「さて、なにか話があったんだろ?」


「えっと、まず報告ですが、『喜』のファクターもちの喜連川さんと同盟を、結ぶことに成功しました。」

「おお!よくやったね!」

「かなり友好的に色々してくれてます。」

「なにか新しい情報が?」


「……」

ここは、聞かねばならない。 

博士なら大丈夫。大丈夫。


「実は、ファクターの力は強弱がつけられることがわかりました。」

「力の強弱……か。」

「それに、ファクターもちの少女には俺と同様に互いに感情攻撃が効かないそうです。」

「……そうなのか。」

「博士、教えてください。」

「なんだい?」

「相生さんにのはなぜですか?」

「嘘?」

「事件に巻き込まれた不良、?」

「……」

そして、つい気になっていることを聞いてしまった。

「博士、相生さんに渡してる薬は何なんですか?」

「薬?」

「相生さんが飲んでるのをみました。博士にもらってるってききました。」

「……そうか。」


ズズズ。


博士は流し台にカップを置きに行く。

俺は博士の方へ向き直る


「博士!」

ピュン!



え?


何かが

刺さった。

首もとに。


「……え?」

「すまない。これは。君のためなんだ。」

博士は銃を構えていた。

俺に向けて。

弾はすでに発射された。

血は出ていない。

これは。


「ぅっ……」

急激な眠気がおそう。

これは、麻酔弾……? 


麻酔弾の弾と思われる物を手につかむ。


「まずい……」



『1人で色々調べないほうがいいよ?』



より子の言葉が今になって蘇る。

油断した。

博士はだったのか。


バタン

廊下に倒れる俺はほぼ身動きができない。

「くっ……」

「すまないね。広山くん。」


これはまさに、『おまえは知りすぎた』パターンか!?このまま消されるのか俺は……。

せめて相生さんに伝えないと……

抗うことはできない。

意識がー……








「うーん、やっぱり1人で行っちゃったかー。」







それはさっきまでさんざん聞いてた声。


「!?君は!?」

「おい。ヒロぽんに手を出すな。」

「くっ!」

カチャッ

博士は銃を構えるが



『うごくんじゃねぇ!クソ野郎!』



「くっ!ぁっ……」

バターン


喜のファクターが発動。


一歩早く

博士はより子の感情攻撃によって気絶した。




・・・・



「……ん…」

「あ、ヒロぽん。起きた?」

柔らかくてすごく心地のよい枕だった。

それもそのはず。より子はベンチで膝枕をしてくれていた。

「あれ……ここ」

「ここは公園だよ。ヒロぽん覚えてる?」

「たしか……」

俺は思い出した。

まるで現実感のないドラマのような裏切り方だった。


「博士に撃たれて……」

俺は麻酔弾の弾を持っていた。

「そこに心配してついてきたアタシが登場ってわけね♪」

「ああ。早速より子に助けられたのか……」

「反省してよねー。注意したじゃん。1人で調べるなってー」

「ごめん。俺が軽率だった。反省する。」

「ふふ。ヒロぽんのそういう素直な所はいいところだよね。」

頭を撫でてくる。少し照れくさい。

「一つ借り、だな。」

「デート1回ね?♪」

「わかったよ。」

「やったー♪」

「俺どのくらい寝てた?」

「うーん1時間くらい?」

「結構寝てたんだな。っていうかここまでどうやって連れてきたんだ?」

「あー……それはちょっと言えなーい。」

珍しく歯切れの悪い感じだ。

「??まぁ、いいけど。」

「それよりさ、さっきのこと鉄仮面女に伝えた方がよくない?」

「あ、そう……だな。」

幸い、証拠(麻酔弾)もある。説得力はあるはずだ。

「相生さんはーっと」

「待ってヒロぽん。会う場所はいつもは行かないところにしよう。」

「え?」

「駅向こう側の遠いファミレスにしよ。あと、ヒロぽんは警戒されてるかもしれないからアタシが連絡するね。」

「ああ……わかったよ。」

同盟を結んでから、より子は頼もしい。

俺は相生さんの番号を教え、LINKに登録させた。


『ヒロぽんから伝言。

 12:35に駅南のジョイポに集合。

               

              喜連川』

「あっさりしてんなー……業務連絡?」

「むしろ、自動送信メールくらいの感情だよ。」

「こわっ……」

「これでよし。さ、ジョイポいこ♪」

「うん。」


伝えなければ。

この麻酔弾の意味を。

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