第18話「結構楽しかったよ。」
ー翌朝ー
翌日が日曜日でよかった。
俺は盛大に10時頃まで寝てしまっていた。
「はっ、ここはどこ?」
見慣れない部屋だったが、なんとなく状況が思い出せそうだ。
「たしか、昨日夜中にDVDを2人で見ててそのまま……」
俺は寝落ちしたんだ。気づいたら横になっていたらしい。布団もかけられてる。より子か?
そういえば、より子がいな……
「……」
掛け布団がやけに膨らんでいる。
そっとめくると
「スゥー……」
幸せそうに眠るより子がいた。
これは。つまり?
いや、違う違う!
俺は!手は!出して!ない!
未遂だ!
そう信じ込む。
「んー?ああ、おは~ヒロぽん~」
「ああ、おはよう、より子……」
「今何時~?」
「10時くらい」
「んーいつも通りかー」
「なあ、より子。」
「なーにー?」
「俺、お前に手を出してない……よな?」
「……んふふ♪」
でた。小悪魔スマイル。これは俺、完全に白だ。
「なるほど。理解した。さぁ、起きるか」
「もうアタシお嫁に行けな~い」
「嘘おっしゃい!」
「あれー?バレてる?」
「ほら、おきろー」
「やあああああ」
もはや完全にカップルだ。違うんだ相生さん!これは、作戦なんだ!仕方ないことなんだ!
などと自分の中のエアー相生さんに謝罪するが、道の石ころを見るような目で俺を見てくる相生さんが目に浮かんだ。だが、それもいい!
「なにひとりで百面相してるの?ヒロぽん。」
「百面相なんてどこで覚えてきたの……」
「なんだっけ?忘れちゃったー。朝ご飯はパンでいい?」
「あ?ああ。うん。」
いかんまた新婚夫婦みたいなことを!
ペースをつかむんだ広山ヒロ。
今日はもう彼氏じゃない!ここに来た理由を思い出すのだ!
そろそろ本代に戻らないと。
「より子、朝飯食べながら色々聞きたいんだけどいいかな?」
「いいよー。ちょっと待ってねー」
チーン
トーストが焼けた音。
「はーい、どうぞ。」
「ありがとう。」
カリッ
「ヒロぽん何にもつけない派?」
「うん。より子は?」
「イチゴジャム派ー♪」
「ふーん。」
「……んふふ♪」
嬉しそうにジャムを塗るより子。
「……いかん!またより子のペースに持ってかれてた。」
「あはは」
「はい!質問です。」
「はいどーぞ。スリーサイズ?」
「それはだいたい想像ついてるから大丈夫。」
「ひどい!」
「話戻すぞ。君たちのファクターの力は加減ができるのか?」
「あーそっちの質問かー。」
「昨日は彼氏役だったから、聞かなかったんだよ。」
「ふーん。気を遣ってくれたヒロぽんに免じて朝の食卓でする会話でない質問にお答えしまーす。」
「あ、ああ、ごめん。確かに、空気読めなかった。」
「冗談だよー♪真面目だなぁ~。えっとその質問はおそらくイエス。あたしは独自でつけてるけどボリュームというより、スイッチ?段階分けはできるよ。」
「それは感情によって違うって事?」
「アタシの場合は
プチおこ→おこ→激おこ→マジギレ
くらいの分け方。」
「うわぁお、わかりやすーい。」
「この前の不良にはプチおこくらい。だから気絶ぐらいですんだけどね。」
「……ん?まてよ。それはちょっと怒っただけでは人は死なないって事だよな?」
「そういってんじゃん~。」
「……つまり、相生さんがはにかんだくらいじゃ、人は死なないんじゃないか……?」
「んーまぁそうだね。鉄仮面女のファクターの場合、
はにかみ→笑→爆笑
くらいの強弱の違いはあるはずだけど。」
「でも、倒れた不良は多分助からないって……」
「ヒロぽん、ファクターに絡む大人を簡単に信じちゃダメだよ?」
「え?」
「武器を持たないで人を殺せる力なんて、普通の人間からしたら恐怖の対象でしかないのにそこにあえて近づこうという大人がいるならそれは、油断できないよ?」
確かに、より子の言っていることは的を射ている。
「そもそも、ヒロぽんはその不良が死んだって、どうやって知ったの?」
「それは相生さんと博士が……。」
「つまり、ヒロぽんはその目では確かめてないってことだよね?」
「あっ……」
そうだ。その情報は2人から聞いただけだ。相生さんも多分病院には行ってないから博士から聞いたんだ。
「つまり、状況からして、その不良は死んでないかもしれない?」
「多分ね。事実をその博士って奴が隠して2人に伝えたのかもしれないよ?」
「それは、なんで……。」
「んー。そこまではわかんないけど、力の制御について、あの鉄仮面女には知らせたくなかったとか?」
「……」
博士。会ったのは一回だけだが悪い人には見えなかった。気の弱そうな、善良そうな人だった。
これは本人に聞いて確かめるしかない。
「……」
「さてより子、俺はそろそろ帰るよ。着替えたいし。」
「あっ、そうだね。待っててパーカー、乾いてるから持ってくるね。」
そういえば、パーカー洗ったんだった。
「はい!」
「ありがとう。」
俺は使わない柔軟剤の匂いがする。
すごく、好きなタイプの匂いだ。
「忘れ物してもいいよ?」
「しないよ。」
「次はヒロぽんの家にお泊まりするね♪」
「おもてなしできるような部屋じゃないぞー。」
「ふふふ。エッチなDVD探すんだー♪」
「ないよ、そんなの。」
今時はスマホに入ってんだ。そういうのは。
ガチャッ
ドアを開けて廊下にでる。
空は晴れている。
「じゃあ、お邪魔しました。」
「うん!気をつけてね。」
「……より子。」
「?」
「彼氏役、結構楽しかったよ。」
「!!」
「じゃな。」
「ヒロぽん!」
「?」
「……あんまり1人で色々調べないほうがいいよ?」
「……わかった。気をつける。」
俺はより子とLINKを交換していた。
毎回スタンプを連投してくる。
いざという時は連絡しよう。
「じゃ。」
「うん。バイバイ。」
小さく手を振るより子。可愛い。
俺は女の子のその仕草に弱い。
喜連川マンションを出てそのまま家に帰ろうかと思ったが、博士のマンションが途中にあるのを思い出した。
「どうするか」
出ていきなりより子に連絡するのはさすがに気が引けた。
その足で俺はあのマンションに向かう。
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