第17話「まだまだ夜は続くんだよ……ヒロぽんくん。」
俺とより子は手をつないだまま部屋に戻る。
俺は決意を新たにしている。
「改めて聞かせてくれてありがとう。すごく感動したし、勇気をもらった。」
「そんな、大げさだよ。」
「それで、聞かせてほしい。より子がバンドをやめたのは、ファクターのせいなんだね?」
「……バンドの中で喧嘩したことがあって。アタシはまだ中学生だったから感情の制御とかできなくて、つい怒鳴りちらしちゃって。そしたら……」
より子は喜のファクターを持っているため、怒りの感情が無差別兵器となって人を傷つけてしまう。
「……このあとの話にも関係あるから一応聞くけど、その子達はどうなったの?」
「しばらくは入院してたけど、そのあとは知らない。でも死んではいないと思うよ。」
「そうか。」
俺は今日より子の年上の彼氏。
だから辛かったら慰めないと。
俺はより子に近づき、
抱き締めて頭を撫でた。
これくらいしか慰め方がわからなかった。
「ヒロぽん、あっ……」
「辛かったな。よしよし」
「ダメ……。それ、ダメだよ……うぅ」
「今日は俺は彼氏だから。上手くいえないけど俺はより子を、慰める。より子は悪くない。すごくいい子だ。」
「ぅっ、うぅっ、うわぁぁぁぁぁぁん!」
より子は俺の胸で大泣きした。穴の開いた心なら、まずは穴を塞がないと。一生満たされない。俺にそれができるかは謎だが今はこれが一番だと信じる。
・・・・
「落ち着いた?」
「……うん。」
「そう。話してくれてありがとう。」
「うん。ヒロぽんもありがとう。すごく心が楽になったよ♪素敵でした。」
「俺のセリフは幼稚だったけどね。作詞能力はなさそう。」
「あはは♪そういえばヒロぽんの決意ってなんなの?」
「ん?……俺がこの問題の解決に協力しようと思ったのは、相生さんの笑顔がみたいから。これは変わらない。」
「不本意だけど、うん。」
「でも、俺はより子がまた何も気にせず喧嘩も仲直りもしながらバンドをやれるようになってほしいとも思う。」
「!!」
「だから俺は相生さんの笑顔を取り戻して、より子を孤独から守りたい。そう決意を新たにしたんだ。」
「ヒロぽん……。」
「なんか気恥ずかしいな……でも、そのために俺の体質は大いに使ってくれ。怒りたい場面があったらまず俺にいえよ?」
「……うん。」
「これが俺の決意表明。」
「ヒロぽん。」
「ん?」
「さっきの、孤独から守りたいってセリフ、プロポーズってことにしない?♪」
「し・な・い!」
「ちぇー」
「それよりすまんがより子、俺のパーカーを洗濯してくれ。お前の鼻水と涙でめっちゃ汚れた。」
「あー!ごめん!すぐ洗うから脱いで!ついでにお風呂も入っていいから!」
「よろしく。」
他人の家で風呂に入るなんて不思議だ。
いいのだろうか。嫁入り前の女の子の家で風呂に入って……。
自分がやけに汚れた生物に見えてきた。
相変わらず脱衣場には洗濯が干してある。
なるべく見ないように俺は風呂へ向かった。
・・・・
2人ともシャワーを浴び、より子は部屋着。さすがに今から帰るわけにも行かないので結局お泊まりデートに……なってしまった。
「俺はソファーで寝るから」
「待って待ってなにもう寝ようとしてんの?」
「??」
「まだまだ夜は続くんだよ……ヒロぽんくん。」
「より子博士……まさか!?」
昼に買い出ししたおやつの山をまだ見ていない。ということは。
「ジャーン!これよりB級映画祭を開始する!」
「うちで借りてた奴か…!」
走ってくるゾンビを打ちまくるやつ
謎のサメがメカメカしくなるやつ
ちょっと前に劇場でやってたアニメ映画
今日は寝落ちするつもりらしい。
俺とより子はベッドに横並び座り映画を見る。
ゾンビってこんなに早く走るのか?
「あはは♪」
お菓子を食べながらより子は楽しそうだ。
こんな時間にお菓子を食べてる癖に、より子は痩せているし、小さい。
「ゾンビの数やば~♪こんなの無理っしょ!」
より子は電気を消して上から毛布をかぶって映画をみている。
俺は少しぼーっとしていた。
そこへ。
「特等席だー!」
ドーンと俺のアグラの上に座ってきた。
ドーンという割には軽い。
「おい、見えないぞ。より子ー」
「じゃあ、椅子倒しまーす♪」
より子は俺に寄りかかる。
「安全バーをロックしまーす♪」
「こらこら」
より子は俺の腕で自分を抱き締めるような形にさせる。まるで子供の遊びだ。
「最高の椅子だ~♪」
「まったく……」
やれやれ系を装っているが俺は内心めちゃくちゃになってて、お経のように何度も唱えた。
俺は今日は彼氏。俺は今日は彼氏。
俺は今日は彼氏。俺は今日は彼氏。……
俺は煩悩を捨て去ろうとしているがより子の髪からいい匂いがして負けそうになる。
話をして気を紛らわそう。
「そういえば、同盟は結んでくれるのか?」
「んーまたデートしてくれるならいいよ♪」
「あーなるほど、そうきたか。」
まあ、デート自体は楽しかったから。
それで力を貸してくれるなら安い。
より子がいると、俺も楽しいのは事実だ。
「じゃあ、よろしく。」
「え、いいんだ?断ると思った。」
「なんで?」
「うーんだって、ヒロぽんはあの鉄仮面女が好きなんでしょ?」
たしかに俺は相生さんが好きだ。でも、それとこれとは関係あるか?
俺は自分のこの好きの違いについてまだわからないでいた。
「……えっ、それならまだアタシにもチャンスある……かも?」
「なに?」
「なんでもなーい。」
より子は何かチャンスをつかんだ顔をしている。
映画では主人公とヒロインのいい感じのシーン。
俺はだんだん、眠くなっていた。
「……」
「ヒロぽん?」
「……」
なんだ、より子……俺は疲れたからそろそろ……
「眠くなっちゃった?」
「うん……」
「ヒロぽん、かわいい♪」
「……zzz」
座って壁に寄りかかったまま眠ってしまった。より子が抱き枕役なのでかなり寝やすくて困る。
「あらら、寝ちゃった。」
「……今日は本当に楽しかったよ、ヒロぽん。」
「アタシの無茶ぶりに付き合ってくれてありがとう♪」
無防備で眠る俺の顔。
そこに
何かが、ふれた。
唇になにか柔らかい感覚があった。
俺はその正体を知らないまま眠り落ちた。
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