第15話「明日までは」

遊園地をでて、2人で電車に乗り地元まで戻る。少し疲れて2人とも寄り添って寝てしまったみたいだ。終点についたらしい。

「より子、乗り換えるぞ。」

「ん~~……」

寝ぼけている。仕方ないので手を引いて次の電車に乗り換えた。

「~~……zzz」

より子はまた、寝ている。

そういえば朝は弱いと言っていたな。

朝早くから楽しみにしていてくれたんだろうか。もしかして、この子は結構健気なのかもしれない。


プシュー

ガラガラ

地元駅についてドアが開く。

「ついたぞーより子」

「うーーーーん!」

伸びをする。遊園地からは電車で一時間くらいだった。

「じゃあ、買い出しして、家行こっか♪」

家、というのはつまり、より子の家だろうか?

「より子の家、行っても大丈夫なのか?」

「?平気だよ?アタシしかいないしー」

やっぱりそういう感じか。なんとなくそんな気はしていた。

「まぁより子がいいなら、いいけどさ。」

「女の子の部屋とか初めていくんじゃない?ヒロぽん。」

「まぁな。」

「期待しないでね~散らかってるから~」

「ああ。期待しない。」

「なんかそう言われると複雑だにゃ~」

なんなんだその猫キャラは。狙ってるのか?ならば成功だよ、君。

「どこで買い出しするんだ?」

「途中でスーパーあるから、夕飯とおやつ買おうよ!」

「了解~」

途中にあるスーパー『大黒丸』は総菜と弁当が充実していて結構うまい。

おやつも豊富でこの辺のスーパーでは1人勝ちしている。

「どれにしよっかな~♪」

「俺はこれ~。メキシカンタコス味のポテチ」

「あーいいね♪アタシはやっぱりー!」

プッキー、バラエティパックのチョコ、堅あげのポテトチップスなどをポンポンかごに入れる。

「夕飯どうするんだ?弁当?」

「?アタシが作るよ。鍋にしようかな~」

「より子、自炊できるのか……」

「馬鹿にしないでよ~!いつでもお嫁に行けるからね?♪」

なぜ俺を見るのだ。しかし、意外だ。弁当で毎日過ごしてそうな気がしたが案外家庭的なのか?


「むー?なんか今超絶バカにされた気がするなー?」

「してないよ。」

「そう?むー。」

馬鹿にはしてない。見直しただけ。


会計をすませ、より子の家に向かう。

「んふふ~♪」

「?なに?」

「荷物ありがとね♪何もいわず持ってくれるあたりポイント高いよ!」

「まぁ、重いからな。」

白菜やネギ、鶏肉など色々買ったのもあって女の子に持たせるにはこれは重い。

今日は白湯風味の鳥鍋にするらしい。そういう味の素も買った。


他愛のないはなしをする

「なぁより子」

「うーん?」

「お前のその服って何系っていうんだ?」

「うーん、V系?」

「ふーん。なるほどね。」

 知らんな。

「変だった?」

「いや、似合ってると思うよ。」

「そう?ありがとう♪」

おそらく人を選ぶ服だがかなり似合ってると思う。


「ここだよー」

「ここかーって立派なマンションやないかい!!」

「うん。二重のオートロック、モニターつきのインターホンは基本だよね~。」

「あ、ああ。そうだな。」

俺の家はチャイムすら壊れてるんたが。


エレベーターにのり、四階へ。

【410 喜連川】

角部屋だ。

「ここだよー」

ガチャ

「ただいまー」

「お邪魔しまーす。」

入り口は片付いている。

玄関にはブーツやスニーカーなどが置いてある。

パチッ

広い。1人で住むには。広すぎるぞより子。

「どこでも好きなとこ座ってて~」

「洗面台借りるぞー」

「あーそっちは!」

ガラガラ

あけた先には洗濯物が干してあった。

そう。ブラとショーツが。目の前に。

「……」

俺は思考が止まった。

「あー……」

さすがにより子も顔が赤い。

「ごめん。昨日、夜雨だったから部屋干ししてたの忘れてた。」

「いや、俺も不用意に開けた。ごめん」

「……こういうのはいてるんだよー♪今日のも、みたい?」

「や・め・な・さ・い!」

「キャー!ヒロぽんおこなの?」

「よーりー子ー?」

「あははは!」

怒っておきながらあれだが、今日の……は遊園地で何度か見えたことは黙っておく。


手を洗い早速調理に取りかかる。

「え?ヒロぽんも手伝ってくれるの?」

「ああ。米研ぐからより子は野菜切ってよ?」

「了解しました!隊長!」

ビシッと敬礼をするより子。陸軍式だ。



「より子隊員。そろそろ米が炊けるぞ。」

「隊長、こちらもかなりいい感じであります。」

「うむ。」

鍋はぐつぐつと煮えてきている。


寒くなってきた時期はやはり鍋だ。


「隊長は辛いのは平気でありますか?」

「多少はな。」

「では少量辛味を加えるであります!」

より子は唐辛子系の何かを入れた。

大丈夫だろうか。

俺はテーブルの上でカセットコンロをつける。こちらでも温める作戦だ。


カチチチチチチチ

ボッ

よし。無事点火できるな。


「より子隊員。鍋を移動させるから君は米をよそってくれ。」

「アイアイサー!」


ふっくらした白米が見える。

炊飯は上手くいったようだ。


「隊員は何かお飲みになりますか?酒など?」

「いやいや!俺達未成年だぞ?」

「そんなの誰も見てないんだから平気だよ~」

「酒は二十歳ってきめてるんだ」

「真面目だにゃ~」

その調子だとお前は飲んでるのか?より子さん?


「よし。食べよう。」

「うん!」

「「いただきまーす!」」


うん。上手い。辛さも程よい感じで温まる。

「ふふ♪」

「機嫌がいいな、より子。」

「うん!いつも1人だから。こんなのいつぶりだろう……?」

「そうなのか?俺も1人だけど友達しょっちゅう呼んでるからなぁ」

「え?ヒロぽんもひとりなの?」

「ああ。ずっと1人だよ。両親はいなくてずっと孤児の基金で何とかやってきた。」

「うーむ、ヒロぽんの見た目ではわからないけど、ハードな人生だったんだね。」

「まあな。だから1人飯の寂しさは、わかるよ。」

「そう……なんだ……。アタシたち、似てるかもね♪」

「そうかもな。」

「アタシ、久しぶりに誰かと料理して、一緒に食べて、楽しいよ♪」

「そうか。それはよかったよ。」

「ふふ。やっぱり連れてきて正解だったな~♪」

「まあ強引だったけど、結果的にはたのしんでるよ。」

「本当?よかった」

ちらほらとより子の本性が出ている気がする。俺は将来的に心理カウンセラーを目指しているので心理学も多少は学んでいる。


より子は見た目は尖っているが、基本健気でいい子だ。いたずらっぽいのは甘えたい裏返しなのだろう。貞操観念が少し緩いのは彼女の悪い癖だろうが、そこにつけこむ大人が一方的にわるい。一歳しか変わらないがそこは年上として、きちんと注意しないと。

 ん?これだと俺、より子の彼氏みたいじゃないか??

「お皿はアタシが洗うからゆっくりしてて~」

「ありがとう。」


ジャー

カチャカチャカチャカチャ


部屋を見回す。

大きい動物の人形や、テレビ、オーディオなど色々な家具がでかい。

1人で暮らすには大きすぎるかな。


そこで異彩を放っているのが


黒と青のエレキギター。


「なぁより子?」

「うーん?」

「ギター、弾くのか?」

「……昔ね。」

明らかに間があった。地雷を踏んでしまったかもしれない。

「かっこいいな。」

「そう?」

「ゲーセンの楽器ゲーなら俺も多少はできるけど。」

「あれはちょっと違うからね~。」

「ふーん。」


ジャーッ

洗い物が終わったようだ。

「ねぇ?」

「うん?」

「聞きたい?ギター。」

「あ、いや。嫌ならいいぞ無理しなくて。」

「ううん。ヒロぽんなら聞かせてあげてもいいよ?」

「本当に?」

「ただし、アタシのお願い聞いてくれる?」

「うん?」


「明日までは」



「アタシの彼氏でいてくれないかな?」



「え?」

「お願い。」

「……」

彼氏。今日といっても今日はもうあと少しで終わるのに。このお願いに何か意味があるのか。そう思いながら、俺は。


「いいよ。」


気づけば首を縦に振っていた。

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