第5話「私が笑ってしまったから」

 ー翌日の放課後ー


 俺は約束通りゲーセンの前に向かった。

 俺は教室のゴミ捨て当番があったので、相生あいおいさんが先に来ていた。

 俺に気づいた相生さんが小さく手を振る。かわいい。かわいいぞ鉄仮面。


「ごめん!ゴミ捨て当番があって遅れた!」

「大丈夫。行きましょう。」

「うん!うん?」

 彼女はスタスタとゲーセンには入らず歩き出した。俺はついて行くしかない。


「どこいくの?」

「ついて来ればわかるわ。」

「??」

「……ごめん。流石に乱暴だった。不審に思うのは当然だわ。」

「いや、別に。」

 別に、相生さんとどこかに行けるなら何でもいい。

「……昨日のこと、覚えてる?」

「え?ああーあのマイルドヤンキーの?」

「マイルド……ヤンキー……?」

「ああごめん。続けて?」

「あとで教えてねそれ。昨日、男の1人が倒れたじゃない。」

「うん。」

「あれ、私のせいなの。」

「……はい?」

「その事を説明するため、説明できる人に会ってほしいの。」

「はぁ。」

「その感想は最もだと思うけど、あなたを巻き込んだ事で、事態が思わぬ方向に進むかもしれないから。」

「???」

「……」


 とにかく信じて進むしかない。大丈夫。相生さんはいい人だ。それはわかる。


 大きなマンションに着く。

 その5階。505号室。


 ピンポーン

 ガチャ


「失礼します。」

「おじゃましまーす……?」

 そこは、薄暗い感じの企業の一室のようだった。廊下にはダンボールがいくつも立てかけてある。引っ越したばかりなのか?

「これ、使って?」

 相生さんはスリッパを出してくれた。

 スリッパというより怪獣の足……?

「あったかいから。かわいいし。」

「あ、ありがとう!(かわいいのは君だー!好きだー!)」

「散らかっててごめんなさい。」

「いやー、ここは、俺の部屋とあんまり変わんないかも?」

「奥はもっとレベルが違うよ。博士ー?早乙女さおとめ博士、いますか?」

「博士?」


「んん?あーきたのかい相生君。」


 そこには本当に博士っぽい白衣の痩せた男が椅子に座っていた。

 机は散らかり、空のペットボトルが散乱している。


「(あのダンボールはペットボトルまとめ買いのやつか!!)」


「博士。カーテン今日あけてませんね?」

「ん?ああ。まあ、平気だよ。」

「はぁーこんなに散らかして。ちゃんと片付けてください。」

「はーい。」

 てきぱきと片付け始める相生さん。俺も甘やかされたい!正直この博士が羨ましい!


「そこの椅子座ってて?」

「ああ、うん。ありがとう。」


「えーっと君は……」

「あ、すいません。広山といいます。相生さんのクラスメートで」

「ああ!昨日電話で行ってた子か!よろしく。私は早乙女。よろしくねぇ」

「あ、はい。よろしくお願いします。」


「さて、コーヒー飲む?」

「あ、はい。」

「ちょっと待ってて。」

 博士は台所へ向かう。

「相生君?コーヒーってどこだっけ?」

「右上の戸棚です。あと私がやるので博士は片付けてください。」

「アッハイ」

 博士はだらだらと袋に空のペットボトルを入れていく。

「彼女、鉄仮面だよねぇー」

「はい。あ、いいえ。」

「いいんだよ、本当なんだから!」


 キッと相生さんが博士を睨んだ。


「おお、怖い。でもお母さんみたいだろ?こうやって散らかしても掃除してくれて」

「いや、そこは掃除しましょうよ……あ」

「ん?」

「そういうつもりなら、もう片付けてあげませんから。」

「ああ!ごめん!許してぇー!」

「まったく。」

 相生さんの新たな面をみた。この人はダメンズを甘やかす属性がある。イカン!!

「相生さん、あんまり甘やかさないほうが……」

「広山くんもそう思う?」

「うん。いや、相生さんがダメンズ好き属性になっちゃうから。」

 この人は私がいないとダメなんだから……なんてこの博士に思いを抱かれては困るのだ。

「!?……盲点だったわ。ありがとう広山くん。」

「あはは。何か手伝う?」

「いや。大丈夫。ありがとう。座ってて?」

「はーい。」


 博士は片付けながらパソコンの画面を見たりしている。


「はい、コーヒー。」

「ありがとう相生さん。」

「お、入ったかい?」

「博士の分はありません。」

「えぇー!?」

「また残ってるので自分で入れてきてください。」

「なんか急に冷たいね?どうしたの?」

「いや、博士を甘やかすことに危機感を覚えたので。」

「えぇ……」

「広山くん、砂糖とミルクは?」

「え?あ、いらない!」

「あ、ブラック飲めるんだ。やっぱりブラックよね。」

「そうだね。もし入れるとしても、牛乳かな。」

「確かにそうね。」

「うーん……」

「博士?」

?」

「あっ……」

「気をつけてね。僕は普通の人間だからさ。」

「すみません。気をつけます。」

「何の話ですか?」


「ああーそうか、その話をしに来たんだったね。」

「博士、お願いします。」

「うん。広山君。君は昨日の騒ぎを覚えてるね?」

「え、あ、はい。」

「男の人は多分助からなかったけど。」

「……え!?そうなんですか!?原因は?」

「心臓発作かな。」

「何で突然……」

「私が、。」

「……え?」

「私が不用意に笑ってしまったから。でも本当なら、

 意味がわからない。

 理解が追いつかない。


「彼女の笑顔は、人を殺すことができるんだよ。」

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