第3話「結構楽しかった、かな。」

 ジュースをおごってくれるという相生さんの嬉しい提案を期待して俺は階段を登る。屋上は休憩コーナーと自販機、喫煙所がある。


 ギィーーーー


 重い扉を開けて相生さんを探した。

 外はもう夜だった。2人で遊び回っていたら夜になっていた。


 相生さんは自販機のところにはいない。

 探し回って彼女はいかにもガラの悪そうな2、3人の男たちに絡まれていた。


「お姉ちゃん女子高生?清楚っぽいけどゲーセンとかくるんだね~。」

「……」

「一人できてんの?これから俺らと遊びに行かない?」

「……」

 相変わらずの鉄仮面っぷりに少し安心した。お兄さん達。相生さんが魅力的なのはわかるが今日は先約があるんだ。俺だ。

「おい、無視すんなよ。」

「……」

「無視されてやんの」

「うるせぇ!おい!」

 男のひとりが彼女に手を出そうとしている!いかん!

「お、おぉーい!……」

 我ながらアホみたいな声と声のかけ方だった。

「ああ?誰?彼氏?」

「広山くん。」

「す、すいません。彼女は僕の友達で」

「なんだよ。俺たちと遊ぶ約束だよなお姉ちゃん?」


「……はい。」


「え?」


 完全に予想してない展開だった。


「お?マジ!?」

「ちょっと相生さん!?」

「残念だったなお友達~この子は俺たちみたいなちょっと危ない奴の方が好きなんだってさ」

「……はやく、行きましょう。」

「おお~乗り気だねぇ!行こうぜー」

「じゃあ、そういうわけだから!お友達!」

 バンバンと肩を叩かれた。

 恥ずかしいような悔しいようなよくわからない気持ちになった。


 相生さんは男たちにつれられていく時に小さく

「ー逃げて。」

 といった。


 なんとなくわかった。


 真面目をそのまま女の子にしたような相生さんは俺をトラブルに巻き込まないために男たちについて行ったのだ。


 なにからなにまでカッコいいぞ鉄仮面。

 でも、俺のために、君にそんな事させられない!

 自販機でコーラ缶を買い

 全力でふり

 走る!

「おーい!お兄さんこれ!」

「ああ?」

 コーラ缶を投げる

 男がキャッチし損ねて床に落とし

 中身が噴射した!

「うぉあっ!?」


 彼女の手をとる

 逃げる!

「!?」

「走って!」

「おい!待て!うおっ!」

 ビダーン

 コーラで濡れた踊場で転ぶ男。


 彼女の手をとって逃げた俺。

 とりあえず下へ。下へ。


「はぁ。はぁ。」

「……」

「広山くん。」

「な、なにー?」

「こっち行き止まりだけど。」

「ぬぇーー!?」

 非常階段を降りて走った先は地下駐車場。そして前には壁。

「くそっ!どっかに隠れて……」


「見つけたぞ!!」

 ドタバタドタバタ

 3人の男が追いついた。

 俺は相生さんの前に立った。

「コノヤロウッ!」

 ガッ

 胸ぐらを掴まれた。喧嘩なんて初めてなんですがー!?

「調子乗りやが、って!!」


 ガン!


 とっさにガードしたが防ぎきれずそのまま殴られた。

「ぐっ!」

 殴られたことで相生さんの後ろに転がってしまう。

 まずい、彼女の前に行かないと。


 バッ


 相生さんは腕を横に伸ばして俺を静止した。


「相生さん?」

「ここなら、平気かな。」


 カッカッカッ


 彼女は男の前に行き

「おお、やっぱりこっちがよっ!!??」


 パシーン!


 と平手打ちをした。


「私の友達を傷つけないで。」

「この、女ぁ!」

 大ぶりのパンチが彼女を襲う!やばい!

 が。

 相生さんは目も逸らさずパンチをよけて伸びた腕をつかんでそのまま背負い投げた!


 バターン!!

「が、あ……」


「このアマっ!」

 別の男が両手で相生さんに掴みかかろうとしたが華麗にしゃがんでよけて足払い。

「ぐおっ」

「ぐぇっ!」

 背負い投げられた男の上にさらに男が転びんだ。


「く、クソガァ!!」

 最後の男はバタフライナイフを持って彼女に向かってきた。これはマジでやばい!


 だが、意にも介さず

 彼女は


「……っ!」

 バシーン!!


 走ってくる男の顔に

 きれいな脚で回し蹴りを食らわした。


 スカートなのも気にせず三人の男をのした。


 多分俺はこのときに相生さんに、惚れた。

 最後には意識のある2人にむかって

 キッ!っと睨みつけた。


「ひっ……うわぁぁあ!」

「ま、まてよぉ!」


 2人は逃げていった。

 1人は倒れたままだ。


 その大立ち回りを口を半開きで俺はみていた。

「広山くん。」

「……はっ!相生さん!大丈夫!?」

「広山くん。血が出てる。」

 殴られた口のところが切れて血が出ていた。

「あ、こんなの、なめてればなおるよ。」

「いいから。動かないで。」

 相生さんはハンカチで血を拭いてくれている。

「なんか、俺が手を出さない方が上手くいったんじゃ……。」

「うん。そうだね。」

「あ、やっぱりね……。相生さんめっちゃ強かったし……」

「でも、嬉しかった。怪我させたことは、ごめんなさい。」

「どうするつもりだったの?」

「結果的には今と変わらない。駐車場まで誘い出して叩き伏せるつもりでいたから。」

「な、なんだよーそれ。俺やられ損じゃーん。すげー情けねぇー」

「そんなことない。皆、ああいう勇気は急には出せないものだから。」


 口を拭いてくれる彼女が近い。

 シャンプーのいい匂いがして少し顔が熱くなる。


「それに、今日はなんだかんだ色々遊んじゃったし。」


 その時、彼女の後ろの倒れていた男がむくっと立ち上がりだし


「総じていうなら。」


 男は落ちていたバタフライナイフをもって


「結構楽しかった、かな。」


 相生さんは少しはにかんだ。


 俺がみた彼女の最初の笑顔だった。


 きれいなのに可愛らしい、どうしようもなく素敵な笑顔だった。


 鉄仮面の彼女は


 楽の表情を

 うかべた。


 うかべて


 しまった。



「はっ!?」

 彼女ははにかんだあとに急に口を手で塞いだ。


 同時に

 男が

「この女ぁっ……!!??」


 襲いかかるのかと思いきや


「ぐぅっ?!うっっつ!?んぐっ………!?」


 急にくるしみだして


「……えっ?」

「あっ……えっ?」


 彼女の動揺と俺の動揺はこのとき似ているようで少し違ったのは後でわかった。


 しばらくして目を開けたまま男は動かなくなった。


「えっ……どうしたのこの人……」

「ああ……あああ……」

 男の首のをさわる。脈が、ない。


「いったい、なにがどうなってんだよ……」


 目の前の彼女は

 今まで見たことのないような動揺した顔で、どんどん顔色が悪くなり呼吸が荒くなって


「ウッ!?」

「相生さん……?」

 彼女は口を抑えたまま駆け出し

 駐車場の端のほうまで走り




 見えないように彼女は嘔吐した。

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