第2話 境遇
獣人に運ばれて数分、寝起きのような気怠さや引き摺られた痛みが和らいできた。
聞いてみたい事は山ほどあるが下手な発言をすれば更に状況が悪化することも考えられるため、辺りを見渡して情報を収集してみる。
辺りは暗く見渡す限りの草木が広がっており、確信は無いが記憶を失う前の自分が居たであろう場所よりは文明が遅れているように感じる。
そんな事を考えていると開けた場所へと到着する。
暗いためはっきりとは見えないが、目に飛び込んでくるのは施設のような建物…いや牢獄と表現した方が適切であろう建物が存在している。
外壁は簡単には出られないように対策してあり鉄柵に棘のような物が巻かれ、内部にいる何かを閉じ込めるための建物だという事は想像に難くない。
獣人達は私を担ぎつつ明らかにその建物へ向かっているため目的地はここのようだ。
建物へ近寄るにつれて不安が大きくなる。
猛獣と戦わされる見せ物みたいな娯楽として使われるのか。
獣人にとって人類は食料であり、ここで食事として加工されてしまうのか。
何かしらの強制労働をさせられて死ぬまでここで拘束されるのか。
色々考えてみるも明るい未来は想像出来ない、少なからず苦痛を伴う事をさせられるのは間違いないだろう。
そんなことを考えていると入り口らしき場所へと到着し私を担いでいる獣人が言葉を発する。
「人間を1人発見した、ここの施設で管理を行う」
間髪入れずに同行していたもう1人の獣人も発言する、私の髪の毛を掴んできた獣人だ。
「近隣の施設や村に脱走者がいるか確認をしつつ人数報告へ走ってくれ」
物騒な言葉が聞こえてきているが悲観する事ばかりでもなさそうだ、内容を聞く限り他に同じ境遇の人類が存在している上に殺されるような事はないように取れる。
「時間も時間だ大声を出してくれるなよ」
私を担いでいる獣人が声をかけつつ暗い通路を進んでいく。
「今日からここがお前の部屋だ」
そう言われ私は部屋の中に放り込まれ何の説明もないまま外から施錠される。
同じような境遇の人が大量に詰め込まれているような部屋を想像していたが、整備が行き届いており小綺麗な部屋だったため不覚にも少しテンションが上がる。
することも無いため横になりつつ、今後どうなるのかと色々と妄想しようとするが、精神的に疲れていたのかすぐに眠ってしまったようだ。
「ガチャン」
大きな音に気づき睡眠状態から意識が戻るのを感じる。
身体はスッキリとしている、よく眠れたのだろう。
しかし目を開けるのが怖い、なぜなら昨日の出来事は全て夢だったのでは無いかという希望があるからだ。
身体を起こしてみるが目は力一杯閉じたままで現実逃避をする。
「おい、寝ているのか起きているのかハッキリしろ」
現実へと戻される。
忘れもしない昨日聞いた獣人の声である。
「さっさと起きてついてこい」
小綺麗な部屋で休ませて貰えたが安心するのはまだ早い、行動1つでどういう結末を迎えるか分からない状態は続いているため急いで部屋を出ようとする。
気温が高いのか着ている毛糸製の服のせいなのか、暑さを感じるため上着を部屋に置き獣人の後を追う。
歩き続けていると遠くの方から声が聞こえ始める。
内容は分からないが人間の声だと思われる上に賑やかな雰囲気が伝わってくる、結構な人数が居るようだ。
開けた場所に到着し賑やかだった雰囲気が一気に静寂へと変わる。
「あ…あぁ」
声にならない嬉しさが口から漏れる。
到着した部屋には人間が多数居たためだ、本能で分かる、私はこちら側の存在であると。
「日中はこの部屋で暮らせ、分からない事があれば適当に周りの奴に聞け」
同行して来た獣人はそう言い放つと部屋の鍵を閉めて部屋の隅に座り込む。
私は改めて周りを見渡し同胞が居る嬉しさを噛み締める。
しかし先程の賑やかさは無く、重苦しい静寂が部屋に流れており、色々聞きたいが最初の一歩が踏み出せないでいた。
とりあえず奥の方に空いている椅子を見つけたので会釈をしつつ椅子へ向かい腰を下ろす。
その後静寂はしばらく続いたが徐々に声が聞こえ始め賑やかさを取り戻す。
記憶を失い、目覚めてから落ち着いて物事を考える暇が無かった、ここで一度じっくり物事を整理してみようと思う。
均衡世界 @shirasaka-chiki
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