均衡世界
@shirasaka-chiki
第1話 目覚め
ふと目が覚めると眼の前には青い空が広がっていた。
色々と考えるべき事があるはずだが頭が朦朧としている上に身体が重く、直感的に感じているのは睡眠から覚めたばかりの状態だろうという事である。
身体の感覚から感じ取れる情報から草原の上で仰向けで倒れ込んでいる状態だと考えられる。
天候も良く心地が良い環境のため再度意識が薄れていきそうになる。
何もわからないまま、また眠るのか…と考えていた矢先である。
「指定時刻が経過しました」
「充電状態に移行します」
機械的な声が近くで聞こえたため驚きのあまり一気に意識が戻る感覚に陥る、身体のあらゆる神経が覚醒し全ての物事が鮮明になる。
しかし冷静に物事を考えられるようになるも何1つ思い出す事ができない。
本能で感じる事は出来るが説明が出来ない不思議な感覚から抜け出せない。
先程も機械的な声と直感で感じたが機械とは何かという結果に至らない。
心の奥深くに刻まれている感覚…記憶喪失と言われる現象だろうか。
そのような事を考えている内に身体が多少動くようになってきたため身体を起こし辺りを見渡す。
とても自然豊かな場所で心地が良い場所だ、折角なので私は思いっきり深呼吸することにした。
「はぁー空気が美味しい」
ありきたりな台詞が本能的に口から漏れてしまう。
思い出す事は出来ないが美味しいと感じるのは逆の環境に置かれていたのかもしれない。
辺りを見渡しながら美味しい空気を堪能していると遠くで誰かが歩いているのが目に入る。
短い時間ながら孤独を感じていたからなのか、意識する間もなく大声で叫んでいた。
「すみません、助けてくださーい」
なぜ助けを求めたかは分からないが記憶がないため誰かに縋りたい気持ちが強くあったのだろう。
起きたばかりなのに大声が出せた上に静かで声が通りやすいのも幸いし気づいて貰えたようだ。
どうも2人組だったようで、こちらへ向かって来ているようで安堵する。
しかし2人組が近づいて来るにつれて安堵は不安となっていき身体中から嫌な汗が吹き出る、原因は一目瞭然だ、記憶を失っていても分かる違和感である。
違和感の原因は現在こちらに向かって来る2人の容貌だ、大きな体格に毛深い顔、口から覗かせている鋭い牙に両手足の鋭い爪。
自分の姿を見た訳ではないが自分とは違う人種であると断言出来る、本能で感じる危機感が抑えられず、言葉も出せず身体も強張ってしまい動けない。
こちらの気持ちはお構い無しにお互いの距離は凄い勢いで縮まり、頭の中が真っ白のまま2人組は私の目の前に到着する事となる。
「お前どういう経緯でここに居るのだ」
2人組から声をかけられて現実逃避しかけていた意識が現実へと引き戻される。
「わかりません、何も思い出せず起きたらここで寝ていました」
私はありのままの状態を答えるしかなかった。
理に適った答えを出すための材料が無いため現状で嘘を付く事は出来ないと判断したからだ。
しかし返事をしたにも関わらず2人組は何も答える事なくこちらを見つめ続けている。
いつ殺されてもおかしくない状況だが心の奥底ではなぜか微かながらの安心感が存在している。
「嘘はついていないようだな」
内容の真偽はともかく返事が返って来る。
言葉の選び方次第ではどうなるか分からない危険な状況は依然続いているが、
言葉が通じる上に会話も成立している、外見で判断してしまったが良い人達という可能性もある。
しかし緊張がほぐれはじめた頃に、あっさりと希望は打ち砕かれてしまう。
とても強い力で髪の毛を掴まれ地面を引き摺られはじめたからだ。
引き摺られる身体の痛みに耐えて数分が経過した頃。
「おい、そろそろ代わってくれ」
その言葉と同時に掴む行為から解放されて地面に顔を叩きつけてしまう、
顔の痛みに手を当てて我慢している間もなく身体が凄い勢いで持ち上げられる。
「おいおい、わざわざ担ぐのか」
痛みで目を開ける事は出来ないが台詞から察するに今度は担がれて運ばれるようだ。
引き摺られる苦痛から解放され少し胸を撫で下ろす気持ちだが、出会ってからの扱いを顧みるに同等の立場でないのは火を見るよりも明らかである。
何処に連れて行かれても地獄を見る事になるだろうと予感させる。
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