13.-side.W- この壁を壊すのはまだ怖い(1)
今日は、初めて婚約者である子爵家のあの女とティータイムを過ごすことになった。
二日前に見た、幼さを感じられる桃色のドレスとはまた違う雰囲気のドレスだった。
全体的に紺色で落ち着いていて、赤色と金色の糸が混じり合うように美しく刺繍されている。
(・・・いや、ないない。)
こんな貧相なガキのことなんかどうでもいい。
むしろ視界に入れたいわけが無い。コイツのせいで俺は全身打ち付けて痣だらけになったのだから。
ジロジロとみて、勝手に納得をする。
目の前のガキは、どうにか会話を続かせようとしているのが見え見えで、なんとなくムカムカした。
「いっ、一日中ここにいても退屈しなさそうですね!」
輝くような笑顔でそう言った彼女にハッとする。
赤い髪と、太陽のように輝く蜂蜜色の瞳以外はなんとなくパッとしない小柄な少女だ。
そうとしか、思っていないはずなのに。
(・・・・・・うるさい。)
心臓の音が騒がしい。今すぐ黙れと言ってやりたい。
俺がずっと黙っていると、これ以上どうすればいいのか分からなくなったガキはオロオロし始めた。
「・・・一日中、ここに居ても退屈しないほどに?」
「え?」
言いづらかったけれども、聞きたくてたまらなくなって質問をした。
それが聞こえなかったらしく、もう一度言わなければいけないのだと思った俺はなぜか恥ずかしくなった。
「・・・だからっ!一日中ここに居ても退屈しない程にか!?」
「え、え?あ、ハイそうです!」
「・・・・・・」
なぜか嬉しくなって言葉が出てこなくなった。
口元が緩みそうになっているのに気がついて、そっと手で覆う。
(なんでこんな事で怒鳴ってしまうんだよ俺・・・)
沈黙ばかりのお茶会だったが、俺にとっては生まれて初めてゆっくりできて、心安らぐ時間に感じれた。
(・・・・・・)
ずっと言われ続けた言葉が呪いのように俺にまとわりついて離れない。
けれどこの女といると、少しの間だけかもしれないが、その言葉を忘れることができた。
「あの、今日はワインレッドのスーツなんですね。」
カップを手に持って、下を向いていた女が、ふと俺の方を見て笑いかけた。
「・・・!」
できるだけ、このガキの髪色に合わせようとスーツを選んだのがバレたのかと一瞬思って、心臓が止まりかける。
そして、この茶会を楽しみにして準備をしたのだと察しては欲しくなかったから沈黙を貫いてしまった。
「胸元につけている金色の装飾、とっても綺麗です!」
・・・これもコイツの瞳の色と合わせたなんて言えるわけが無い。
まるで太陽のようだと、そう思って選んでしまっていた。
こんな派手な装飾、俺の好みじゃないのに。
・・・どちらかというと俺は、銀色の方が好きだ。
金属質な色合いをしていて、温かみが感じられないシンプルなあの色が落ち着く。
そんなことを考えていたら、コイツはとんでもない言葉を放ってきた。
「ウェイド様の真珠みたいに綺麗な髪ととっても似合っていて素敵です。」
(──────────!)
今、コイツは、なんて言った?
コイツの表情が、信じられなかった。
柔らかく微笑んで、まるで本心からの言葉のように・・・
──違う。
俺はそんなことを言って貰える人間ではないんだ。
ずっと、そうだった。
『あんな子供が、生まれた時から白髪だなんて・・・』
『あの年齢で?抜けきった気持ちの悪い色ね』
『死んだ表情をして、死んだ髪色が黒い肌に浮き出ているようで不気味だ』
『やっぱりあの子供は呪われたからあんな風になったのではないか──?』
俺は、ずっと蔑まれ、気味悪がられ、距離を置かれていた。
その壁を崩すように、コイツは・・・
『真珠みたいに綺麗な髪と、とっても似合っていて素敵です。』
ずっとずっと、築いてきた俺の壁を壊してきた。
受け入れられなかった。
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