11.明日は槍が降るようです(1)

 学園に入学するのは来年の春。


私が13歳になってからだ。


その頃ウェイドは、15歳で学年は違うけど一年間は同じ中等部だ。


その次の年からは高等部になるが、まあ同じ学園内ではあるし部が変わっても会う機会、ヒロインちゃんとウェイドの様子を確認する機会ぐらいはあるはずだ。


 今は日本で言うところの五月。だいぶポカポカしてくる・・・めっちゃ眠くなる時期だ。


入学式も五月なので、ほぼぴったし、あと一年後になるだろう。


(それまでに体をもっと強くしないと──!)


 グッとこぶしを握って決意する。


後ろでよくわかっていないマリアが、のほほんと私を見つめているけれど気にしません!



「お嬢様、ウェイド様がお見舞いに来たようですよ?」


 マリアがお花飛び散るほのぼのしたお顔から、急に般若のように恐ろしい顔に変化してびくりとする。


今回の事件のことはウェイドは悪くないから、前回私が落とされて傷ができたことをまだ根に持っているのかな?


「唐突の来訪ばかり・・・ツィーナお嬢様が可憐なお嬢様だと分かっているのでしょうか・・・!」


ぷんぷんしながら言っていた。


あ、そっちで怒っていたんだね。


「大丈夫よ。もっと成長してお互いのことを理解できればウェイド様だって私を尊重してくれるはず!それにマリアの腕なら私の身だしなみを整えるのなんてすぐにできるでしょ?」


「もちろんですよ!お嬢様はメイクも必要ないほどお肌が綺麗ですし、肌や髪、瞳に似合うドレスは全てピックアップしております!お嬢様のことは全て知り尽くしていると言っても過言ではないですからね!」


 ものすごい勢いで褒め殺しと肯定をされて少し体が引き気味になってしまった。


「そ、そうかな・・・?ま、まあマリアのことはそれほど信頼しているから、うん。お願いします・・・」


「お任せ下さい!」



- - - - - - - - - - - - - - -



「わあ・・・!」


「今日はドレスは、やめにしました。お嬢様の体もあまり良くないですし、負担になるでしょうから。」


 今私が来ているのは真っ白な長袖のワンピース。


スカートの裾の方は鮮やかな赤でグラデーションされていて華やかだ。


上に行くにつれて桃色のような可愛らしい色に変わっていっているから春を連想させる。


襟は同じように同系色の白色で上品に仕上げられている。


膝下より少し長いくらいのスカート丈は下品過ぎず大人っぽ過ぎず丁度いい長さだった。


 そして不思議だけれど、この世界にタイツが存在するらしい。しかも結構上質な。


ワインレッドのタイツを履いて黒い靴を履く。


思ったよりも可愛く仕上がったけれど、ちゃんと着こなせていて安心する。


「ドレスみたい!けどとても楽だから気に入ったわ!」


思わずくるりと回って、スカートの裾をふわりと広げて遊んでしまう。


「お嬢様にはなんでも似合いますね・・・」


 マリアに言われ、そうかなと思う。


鮮やかに反射する赤い髪があるだけで結構着る服を選ぶと思う。


黄緑色などの優しい緑色系の服は、似合わないだろう。モスグリーンなどの黒みがかった色など、落ち着いた緑ならともかく。


「さあ、ではウェイド様が待っていますので参りましょう。」


「はーい!」


 ニコニコと笑顔になる。


 あの事件以来、あらためてウェイドにお礼をいえていなかった。


助けてくれたのも嬉しかったし、それが拒絶されたと思っていた相手だったからなお嬉しかった。


 なんて考えていると、何故か向こうからバタバタと走ってくる音が聞こえてきて固まる。


「・・・デジャヴ。」


「はい、そうですね。」


思わず二人揃って無表情になる。


今日は扉を殴るように開け放たなかったけれども、少し乱暴に開けて私の部屋に入ってきた。


つまり女の子の部屋に断りもなく入ってきたのだ。

わかると思うけれどウェイドが。


ウェイドに悪気はないのだろうけれど、いかがなものかと思う。


「遅い!俺を待たせやがっ・・・・・・」


「こんにちは、ウェイド様。遅くなり申し訳ありません。しかし準備もできていない状態で、ウェイド様とお顔をあわせるには見苦しかったのでこのように時間がかかってしまいました。」


 マリアの手際はよかったし、突然お見舞いに来たからそこまで遅くないと思うけどね!


「・・・・・・」


 上手いこと言いくるめると思ったのだけれど、ウェイドが無言になっているのに気がつく。


「ウェイド様?」


 私を凝視していたのか、近づかれただけでもビクッと驚いて思い切り後ずさった。


その勢いで既に閉じていた扉にものすごい音を立てて背中を打ち付けている。


そんな距離をとらんでも・・・


「ふ、フン。そうだな、い、いい心がけだ。前の茶会でもそうだったが、うん。」


「?」


「成金の割には・・・趣味のいい服だな。」


 パアッと顔が明るくなってしまった。


ウェイドは褒めてくれたのだろう。服だけだけど。


「お、俺の横に立つに恥ずかしくない格好をするよう心がけていて感心したぞ!喜べ!」


「あっ・・・そっち。」


 死んだ表情になってしまった。


ふーん。なるほど?

確かに私は成り上がりだからねぇ・・・


どんな格好をしてお茶会とかに来るかは分からずに、ウェイドはハラハラしてたかもね・・・?


うん。


伯爵家の婚約者として恥ずかしい格好はダメだもんね。うん。

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