5.プリナイ(1)
ああ、思い出した。
なぜこうなったのかと頭を抱えたいけれど、傍には私を心配しているマリアがいるからこらえる。
ここは、乙女ゲーとSRPGをかけあわせた【Prince Dark Knight】略してプリナイというゲームの世界とそっくりだ。
・・・SRPGとは、戦略シュミレーションゲーム、みたいなものだったはず。
キャラを動かしてそれぞれのターン数で行動して敵と戦うゲームだ。
作り込まれているものだったりすると結構頭を使うため、何ターン目にはこの攻撃、回復etc・・・と色々プレイしこんで先を見て戦闘しないといけない。
プリナイは、そんな鬼畜代表作だ。
乙女ゲーなのにね。
前世の記憶と今世の記憶を照らし合わせたら、沢山の情報が一致していた。
プリンスダークナイトって・・・王子なのか黒騎士なのかどっちかにしろやというゴチャゴチャした名前だ。
・・・というのは置いといて、そのゲームの舞台となる国が、エルヴェレル王国。そこで出てくるボスキャラが魔王の血が混じったと言われる【ウェイド・カニンガム】だったのだ。(←ココ二つ一致)
ウェイドの外見は、褐色で白髪。魔族しか持たないであろう血塗れた真っ赤な瞳を持ち、幼い頃から心ない言葉を周りから言われ続けていた。(←ハイここで一致)
実際、彼は生まれる直前に魔王の血を垂らされ、人間と魔族の混血として生まれたようなものだった。
彼の母親はそのときに体が拒絶反応を起こし、耐えきれずに死に至ったという設定だったはずだ。
それも相まって、呪われた子供だと言われ、自身もそうだと信じてしまっていた。
・・・つまりは酷く捻くれた性格になってしまったのだ。(←ココも一致ぃ)
昨日のときみたいに。
前世の記憶を思い出した今では、ウェイドは人の優しさに触れたことがないのだろうと分かる。
ずっと理不尽に、ボロボロに傷つけられて、自分を納得させるため、守るためにウェイドも周りを傷つけた。
・・・そうすれば嫌われている理由だって自分のせいだと思えるから。
そんな時に私が、そういった噂を抜きにしてただのウェイドと話をしようとしたから、どう反応すればいいのか分からなくなったのだ。
そうして、酷い態度で跳ね除けようとしたのだろう。
実際、その直後の私は酷く冷めた気持ちで彼を見てしまった。
火のないところに煙は立たない、のだと。
彼の傲慢な性格も噂通りなのだと思い、婚約に後ろ向きになってしまっていた。
だけど、少数派だったが、私は前世でウェイド・カニンガムが結構好きなファンだった。
読み込んでいれば、彼の葛藤や苦しみが分かったからだ。
ウェイドが関わる本編の内容はこう。
ヒロインは聖女だった。
貴族が集まる学園に、近々復活する魔王と手下の魔族が紛れ込んでいるかもしれないという可能性を見つけた。
そのため、浄化の力を持つヒロインは、黒騎士と呼ばれる攻略対象たちと生徒として学園に潜入することになる。
その際に、聖女であるヒロインにウェイドは恋をする。
だが彼には婚約者がいるし、攻略対象とヒロインの付け入る隙がなく、それは叶わぬものだと知る。
評判が悪く、呪われた人間だと言われたウェイドは、ヒロインにも拒絶され人知れず涙を流したのだろう。
それでも気丈に・・・自分を守るために傲慢な態度を崩さなかった。既に心はボロボロなくせに。
そんなある日、トールネソル祭と呼ばれる年に一度の夏祭りの日に幸せそうにしているヒロインと攻略対象をウェイドは見つける。
年に一度、その祭りの日には想い合う男女が(もちろん同性でもオッケー)手作りの貝殻をつけたブレスレットを交換しあうイベントがあった。
それを一年間・・・つまり来年の夏祭りまでにずっと肌身離さずつけていれば二人は永遠に結ばれるとかいう都市伝説がエルヴェレル王国にはあるのだ。
二人は既にその好意を伝え合い、ブレスレットを交換する所だった。
それを見たウェイドは思う。
なぜ、彼らはあんなにも幸せそうなんだ?
今も自分は誰からも嫌われ、唯一愛した人にも愛されず、ずっと、ずっと独りだというのに。
憎しみの感情が湧き上がり、血が熱くなった。
────なぜ?
そうして負の感情から生まれたのが魔族の・・・いや、魔王の力だった。
ヒロインと攻略対象を殺そうとするが、彼自身は人間。魔王の血が混じり、それが覚醒した彼の体は矛盾だらけだった。
それに苦しんで異形へと変わり、街の人々を無差別に襲い始める。
──確かその時に、婚約者である一人の少女が飛び出して止めようとした描写があった。
けれどその瞬間にはウェイド自身に殺されてしまっていたが。
それがツィーナ・デフレット。つまりは私なのだろう。殺されたモブだけど。
・・・モブだけど?
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