4.-side.W.- ずっと独りの少年(2)

 小さい頃に、俺は父親に首を絞め、殺されかけた。


その時期のことはよく覚えていないが、その瞬間だけはよく覚えていた。


「お前のせいだ・・・××が死んだのはお前のせいだ・・・!」




──呪われたお前が生まれたから!!!!




「ッッッ──!」


・・・また、あの夢だ。


 俺の父は、俺を恨んでいる。父が愛した人を殺したから。


そうして生まれた愛しい人の子は、誰にも似ても似つかない容姿をしていたから。


 そう、俺は忌み子だ。


ずっとそう言われ続けて、そう生きてきた。


首をさする。父にへし折らんばかりに絞められた首を。


「ウェイド様。朝食の時間です。」


「・・・入れ。」


 許可を貰った使用人は、無表情で扉を開き、朝食を机に置いた。


次期当主であるからか、俺の扱いはそこまで酷いものでは無い。


 けれど視線は冷たいものだ。


幼い頃から誰にも愛情をもらったこともなかった。


腹違いの妹にすら、見下されている。


 それなのに、当主になれと、努力しろと周りは今以上の力と知恵をどんどん求めてくる。


・・・俺をバカにしている癖に。陰では出来損ないと噂をしている癖に。


 もそもそと温いパンとスープを食べながら、一週間の予定を見る。


婚約の件は結局なかったことにはならなかった。


安堵していると同時に、また酷い態度を取ってしまう気がして憂鬱になる。


(そもそもアイツが成り上がり子爵で、そばに護衛も使用人も置かない不用心なやつだからああなったんだよ。)


違うと自分の心が否定する。


(優しい態度とは、どう取るんだ。謝罪とは、どうすれば伝わるんだ?)


 ゆるゆると頭を振り、深いため息をついてしまった。


 自分の中では、ハッキリと答えが見つかっているはずなのに、それを言葉にすることができない。


(婚約者にすら、嫌われて、このまま一人も味方がいない。それで良いのか・・・?)


違う。


 他の誰に嫌われても、あの少女にだけは嫌われたくないと思ったのだ。


一週間の予定の中には、ツィーナが我が家へやってくる日がしっかりとあった。


・・・来週も、再来週も彼女と顔を合わすことになるだろう。


 俺は彼女に謝れるだろうか。受け入れてくれるのだろうか。

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