第50話
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今はもう、遠い昔。
神様に愛され過ぎて、普通なら貰えて一個が相場であるはずの、【神様からのギフト】を詰め合わせで貰った少年、
このゲームのどこをどう楽しんだら良いのか解らないし、そもそも、統少年に追いついてタッチ出来るだけの走力を有している友達は誰もいなかった。
統少年にとって、鬼ごっこはまさに退屈の極み、【人に合わせる】という社会に出る為の最低限のマナーを学ぶ為の面白くも無い課外授業の様なものであった。
だから、統少年は、鬼ごっこを盛り上げる為に、周りに気付かれない程度に手を抜いて、タッチさせてやるのであった。
無能力な友人達に気を遣って、彼らを喜ばせてやる。
人生とは、こんな事の繰り返しなのであろうか?
だとしたら、あんまにも酷過ぎるではないか。
統少年は、全身全霊を込めて鬼ごっこに取り組む無邪気な友人達が、心の底から羨ましくて堪らなかった。
(こんな茶番で、心の底から楽しむ事が出来るなんて。僕は彼らが羨ましくて堪らない。こんな思いをするくらいなら、才能なんて、力なんて欲しくなかった)
子供は、足が速くなりたいだとか、格好良くなりたいだとか、スーパーヒーローになりたいとか、そういう類の事を願うものだけれども、あらゆる能力で他の追随を許さない統少年が望む願いはただ一つ、
弱くなりたい。
この世界中の誰よりも、僕は、弱くなりたい。
彼は心の底から【弱さ】を渇望していた。
世界を愛したかったから。
人生を尊いと思いたかったから。
人間を、友達を、家族を、好きになりたかったから。
人は、自分の力の無さを嘆くけれど、本当に嘆くべきは、圧倒的な力を有する強い人間なのだ。
この世界の99%は、力の無い、弱い者達で構成されている。
ラスコーリニコフの言葉を借りるなら、
低級な(凡人)の部類、自分の同類を生殖する事以外なんの役にも立たない、いわば材料にしかすぎない部類。である。
要するに、言葉を選ばずに言うのであれば在っても無くてもこの世界に何ら影響を及ぼす事の無い
1%の超人達には、99%の
それもそのはずである。
超人と
臭くて臭くてたまらない。
地球の為には焼却処分した方が良いのだけれど、法律を作る人間もまた
今日まで虚しく繰り返されて来た、意味の無い
本物の生ゴミだって、バイオマス発電として有効活用出来るのに。
超人は、常に未来を見ている。
より良い未来の為であるなら、自分個人の幸せや、自分自身の命等には目もくれず、自分の命の全部を未来の為に傾ける。
それに比べて
いや、今しか見えていないと言うべきであろうか?
まぁ、脳みそが腐っているのだから、仕方の無い事ではあるけれど。
自分の命が、
だから、在っても無くても変わらない様な無価値な命を繋ぐ為に、醜く世界にしがみつく。
本当に、みっともなくて見ていられない。
その結果、
どうして
今なんて、さほど重要じゃない。
人間の一生なんて一瞬だ。
今だけを見ているのなら、意味の無い一瞬に、その命を置いていく事になる。
【一度きりの人生、楽しまなくちゃ】と、
だけれど、そもそも人生とは、楽しむべきものなのであろうか?
この世界中の全ての生き物達は、命の全部を使って生きている。
楽しんでなどいない。
楽しむ等と、頭の沸いた事を
車を買って、空気を汚染して、それだけでは飽き足らずに、大型連休に海外旅行へ旅立って、またしても環境を破壊する。
楽しむ為に自然を破壊する事が、
自分の体の中の癌細胞を、せっせと放射線で殺すなんて無駄な事はやめにして、その無価値な命ごと、この世界から消し去ってしまえば良いのに。
臭いし、汚いし、とっても不快な存在なのだから。
でも、
彼らの事を理解するなんて不可能だ。
全く違う生き物(生き物というよりも、汚物という方が合っているかもしれない)なのだから。
だから必然的に、この世界の1%の超人は、孤独に苛まれる事になる。
ただ、ひたすらに、その命をこの世界の(
あぁ、早く、どこかの天才が殺人AIを発明して
等と、人知れず願う統少年は、しかし、一方では、ある日突然頭を打って、その後遺症で自分の中から全ての力が流れ出して、自分を取り巻く
神様からギフトの詰め合わせを貰ったとはいえ、統少年はまだ小さな男の子、やっぱり一人ぼっちは辛いのだ。
でも、その事を口にしても、誰も理解してくれないだろう。
君は、あなたは、統君は、一人なんかじゃないでしょう?
だって、いつも
と言われるのがオチだ。
人に囲まれているから、だから、なおさら辛いのだ。
自分の周りを囲んでいる
そんな事を言った所で、【たった一度きりの人生、楽しまなくちゃ】とか本気で言っちゃう様な、頭の沸いた
統少年の目には、
そのつるつるとした表情の無い顔から、血の通わない冷たい言葉が発される。
統少年は、
誰か助けて。
怖いよ。
辛いよ。
苦しいよ。
悲しいよ。
もう、一人ぼっちはいやだよ。
しかし、小さな男の子の心の叫びは、誰にも
気がつけば、あっという間に、10年という歳月が経過していた。
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