第17話
公園から見下ろす街は、普段僕達が暮らしている街であるはずなのに、なぜだか、初めて見る景色の様に新鮮で、とても美しかった。
麻生の語った昔話。
その物語に登場した間抜け面の男の子は、いつかきっと、【現実】という名の圧倒的な力を
バカがずっとバカのままで在るという事は、複雑になり過ぎたこの現代社会では、夢のまた夢だ。
【現実】という名の怪物は、バカがこの世界に立っている事を決して許してなどくれない。
もし、幸運にも圧倒的な力とその力に
富や名声や権力を手に入れる代償に自分を失ってしまうのなら、多くの人々が思い描き
この世界でバカで在り続ける為には、一体どうすれば良いと言うのであろうか?
その答えを導き出すには、人間に与えられた100年という時間はあまりにも短過ぎる。
だけれど、自分が自分である事で誰かを笑顔に出来るのならば、この命の全部を懸ける価値は充分にある。
僕は、僕の事を愛してくれる人を裏切りたくはない。
僕は、僕の愛する人にはいつも笑っていて欲しい。
平和を求めて命の全部を懸けて戦い抜いた、
今の時代は、僕にはとても生きづらい。
せっかく平和な時代に生まれたのだから、自分の居場所を確保する為に他人を蹴落とすなんて事はしたくない。
僕は、僕のままで在りたい。
とびっきり
そして、
だから、やっぱり、不可能な事なのかもしれないけれども、僕がいつまでも僕である為に、命の全部を込めた精一杯の力で
それがどんなに困難な
ありのままの僕を愛してくれる女の子を裏切りたくないから。
『ねぇ、プレゼント開けてみてよ』
『開けていいの?』
『うん。むしろ君の喜ぶ顔がみたいから、早く開けてよ。今日の夜ご飯は、君の笑顔の記憶をおかずに白飯3杯平らげるつもりなんだから。やばいっ、想像しただけでよだれが』
『僕の笑顔だけだと栄養が
『喜べよ。絶対。女の子からプレゼントをもらったら、それがもし微妙な物だったとしても自分に暗示をかけて心から喜ぶのが
またしても、昭和のガキ大将の様なエゴイズムを振りかざす麻生にビビリながらも、綺麗にラッピングされた小箱を開けると、中からはネックレスが出てきた。
『かしてっ!』
僕の手からネックレスを奪い取ると、麻生は慣れた手つきで僕の首に手を回して、それをつけてくれた。
『このネックレスには、とびっきりの想いを込めてあるの。君が理想の君になれます様に。君がこの世界に押し潰されてしまいません様に。君がいつまでも君のままでいられます様に。って』
『僕は僕のままでいるよ。いつまでも君に笑っていて欲しいから』
『あら、嬉しい。どうしたの?今日はずいぶんとストレートに想いを伝えてくれるじゃない』
『今の自分の想いをちゃんと言葉に乗せて伝えたいって思ったんだ。なんでか分からないけれど、今、僕の中にあるこの想いを君に伝えたい。過去でも未来でもなくてさ、ちゃんと今、この瞬間の気持ちを大事に出来なかったら、きっと、あっという間に
『キモくなんかないよ。とっても嬉しい。ついでに私を愛してるってカミングアウトしてくれたなら、もう言う事無しなんだけどなぁ』
『愛というものがなんなのか、恋愛だとか青春だとかいうものがなんなのか、僕には良く分からないんだ。でも、たぶん僕は君の事を愛しているのだと思う。もう少し待っていてくれないかな?自分勝手で悪いけれど、僕のこの想いは、ちゃんと愛してるの意味を知ってから、君に届けたいから』
『もちろん待ってるよ。いつまでだって待ってる。私には君なんだから。君の目からどう見えているのかは分からないけれど、私は君に夢中なんだよ。この想いは何回生まれ変わったって変わらない。もし、今回の人生で愛してるの意味を見つけられなかったとしても、私は、君がその答えを見つけ出す日を君の隣で、いつまでだって待ってるよ。だから、君は、せいぜい私が何回か先の人生で、ゴリマッチョな黒人男性に生まれ変わらない様にって、それだけを願っていれば良いの。こんな可愛い女の子に愛してもらえて、君はとっても幸せだね。でも、私は君よりも、もっと、もぉ〜っと、幸せなんだけどね』
あぁ〜、早く【愛してる】の意味が知りたい。
だけれど、いつまでも麻生の隣で愛してるを探す旅に明け暮れる日々を送っていたい。
そんなジレンマを抱えながら見下ろした街は、やっぱり、とても綺麗だ。
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