第8話
まったく、現代社会というものはストレスが溜まって仕方がない。
この勢いでストレスを溜めていったら、いつか僕は、歴史に残る様なセンセーショナルな犯罪を犯してしまうかもしれない。
そうならない為にも、せいぜい、自由に生きるに足るだけの力を、死に物狂いで手に入れようと思っている。
正直、力を手に入れるのは、中々ハードで心も体もくたくたに疲れてしまうけれど、せっかくこの世界に生まれて来たというのに、人間になれずに、それでも自分は人間である、と信じて疑う事もしない哀れなマリオネットとして一生を終えるのはぞっとしないから、結局僕は、歯を食いしばって歩き出す。
そんな事を考えながら食事をしていたら、美味しさも栄養もちゃんと受け取る事が出来ないので、健やかな体を作る為に、僕は、いつもの場所で、穏やかな青空を見上げて、1つ大きな深呼吸をした。
まだ言ってなかったと思うけれど、僕の本当の友達は、花鳥風月だけなんだ。
彼らはいいよ。
器がとっても大きいから、喜びも、怒りも、哀しみも、楽しい事も、どんな感情だって受け止めてくれるし、くだらない愚痴も何時間だって聞いてくれるんだ。
一人きりの屋上で、友達と心の交流を図る。そんな僕の心の休息は、いつも一人の女の子によってぶち壊される。
『あっ、また一人でお弁当食べようとしてる!』
ほら、来たよ。
『安藤。一緒にお弁当たべよう!君の為に未来の嫁が、愛情と、あと色々とあの、女の子のやつを詰め込んだ美味しいお弁当作ってきてあげたんだから、感謝しなさいよ!今日女の子の日で体だるいのに』
お弁当を携えたモンスターが、僕の隣にどっかりと腰をおろす。
『いやっ、僕、自分のお弁当あるから』
『大丈夫、それ私が食べるから。お義母さんの料理の味、ちゃんと覚えなくちゃならないからね。お義母さんの料理の味を覚えて君の胃袋を握ったら、私と君の距離がぐっと縮まるかもって、昨日、水を張ったボウルの中でぷくぷく泡を出すシジミを見ていたら思いついたの。どう?素敵でしょう?』
いや、めちゃくちゃ怖いです。さぶいぼが出ました。
でも、はにかむようにお弁当を差し出す麻生はとっても愛くるしくて、危うく抱きしめてしまいそうになった。
危ない、危ない。気を確かに持ち続けなければ。
サイコパスだと分かっていても、麻生の愛くるしさはそれを補って余りある。
『じゃあ、もらうよ。ありがとう』
麻生からお弁当箱を受け取り、早速蓋を開けてみた。
茶色かった。
とっても。
『えっ?あれっ?シジミは?』
『シジミ?』
『だって、昨日の夜シジミの砂抜きしてたんだろ?お弁当用じゃないの?』
『シジミなんてお弁当に入れる訳ないでしょう。シジミは、ただ、ぷくぷく泡を吐き出す所を見ているとゾックゾクしちゃうから砂を吐かせてるだけ。趣味なの。結婚したら毎晩一緒にシジミの砂抜きを眺めましょうね!あっ、安心して。そんなに時間はかからないから。大体3〜4時間眺めたら眠りましょう』
そう言う麻生の目は、相変わらずバッキバキに決まっている。
この子、本当に可愛く生まれて来なかったら人生終わってただろうな。
両親に感謝した方が良いよ。
いやっ、マジで。
そんな僕の心を知ってか知らずか、麻生は何もない中空を眺めながら、シジミ、シジミと呟いている。怖すぎる。
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