第7話

 『ねぇ、今日、学校終わったら付き合ってくれない?』

 『えっ?無理だよ!部活あるし』

 『休みなよ!部活なんて』

 『嫌だよ。休まない』

 『ふーん。今日だけで良いって言ってるのに、ダメなんだ。そっかそっかぁ、ふーん』

 『何だよ、どうしても今日じゃなきゃダメなの?』

 『うん。今日じゃなきゃダメだよ。部活の練習は明日も、明後日も、明々後日もあるんでしょう?今日は休んで、明日からまたバカみたいに練習して、脳味噌まで筋肉でいっぱいにして、本物のバカになって、それでも練習を続けて、筋肉オバケになって、そして、私を甲子園に連れていって』

 『筋肉オバケって何?』

 『とにかく、今日は練習を休む。そして、いつの日か、私を甲子園に連れて行く。そして、私をめとる。あなたのすべき事なんて、たったそれだけなんだから、とっても簡単でしょう?』

 バッキバキに決まった目で僕を見ながら、マジなトーンでそう言う麻生が、怖くて怖くて堪らなくって、不覚にも、おしっこをちびりそうになってしまった僕は、他の要求はともかく、今日は部活を休む事にした。

 まぁ〜、部活を1回休んだって、命を取られる訳じゃないしね。

 麻生の提案を断ったら、何をされるか分かったもんじゃない。

 あのバッキバキに決まっちゃってる目は、間違いなく、マジで、ヤバいやつの目だったんだから。

 放課後、麻生に連れ回される事を考えると憂鬱で、憂鬱で堪らないけれども、日々の学業を真面目にこなしていると、心模様とは関係なしに、お腹が減ってしまうものである。

 午前中の授業を終えると、僕は、カバンからお弁当箱を取り出して、いつもの場所へと向かう。

 高校生に限らず、学生全般に言える事だけれど、学生にとって1番大事な事だと皆が思い込んでいる事は、勉強でも、部活でも、そしてもちろん恋愛だとか、青春だとか、そんな甘酸っぱいものなんかでもないのだなと思う。

 そりゃあ、周りの大人達は、勉強で優秀な成績を収めて、良い大学を出て、国の未来を担う様な偉人になってもらいたいだとか、部活動を頑張って、それこそ甲子園なんかに出ちゃったりなんかして、プロ野球選手になってもらいたいなんて、自分勝手な期待を子供にかけたりする。

 自分が何者でもないくせに、自分の子供はきっと何者かになれるなんていうイカレた妄想を、当然の様に、愛する息子や娘に押し付けてくる。

 きっと、脳味噌が腐っちゃってるんだろうから、仕方の無い事なのだろうけれど。

 それに、学校の中には、勉強や部活や恋愛や青春に本気で心を傾けている様に見える奴等もいる。

 でも、僕の目から見えるのは、一部の本物の天才を除いては、周りの学友達の評価に操られる、自分なんていうものを全く持っていない、量産型の操り人形であふれかえった不気味な教室と、なんの要領も得ず、的外れな事ばかりを繰り返す、脳味噌の腐った、ただ僕らよりも先に生まれたというだけの、くその役にも立たない、文字通りの先生でくのぼうだけなのである。

 だから、やっぱり僕は、大多数の学生が大事だと思っている事は、仲間達からの評価であって、本物の力ではないと思っている。

 この世界で自由に生きていく為には、誰にも操られずにすむ程の圧倒的な力が必要であるのに。

 その為には、目に見える者全てをぶち殺さなきゃ(もちろん、物理的、実際的にではなくて、あくまで資本主義的にではあるけれど)ならないのに、蹴散らすべきゴミ屑共の評判を気にするなんて心理が、僕には全くもって理解出来ない。

 かといって、その心理を誰かに問おうものならば、僕の立場がとんでもなくヤバくなるという事は、流石に僕のノミみたいに小さな脳味噌でも何とか想像する事が出来るので、僕も、他の学友達に負けず劣らずのマリオネットになって、宗教にどっぷりハマった振りをしているのである。

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