華くらべ【AM 11:00】side:ヒバナ
ぴろん。
間の抜けた音と共に、端末が
五社学園に所属する、全ての生徒教師たちが最も聞き分けるべき、その音だ。
毎日聞くものだから、常々胡蝶花はこの通知音をもっとマシなものに変更しようと思っていたのだが、この通り変えないままで、もうすぐ二年が経つ。
右手は失ってしまったが、どうということはない。
手慣れた様子でアプリを起動すれば、先刻
「どうだった」
「もう討伐されたってよ、……思ったよりも早かったな」
それぞれの神の位は松の
声を潜めながら隣を歩く
人の少ない廊下はやけに声と足音が響いてしまう気がしたからだ。
今日は卒業式当日。本来
そんな日に神を
数年前失踪した兄はおろか、昨日の儀式に出席した三年生たちも同じく未だ帰らない。
スマートフォンを触ったついで、今朝方に送ったSNSの既読を確認する。
(
儀式前夜、胡蝶花がようやっとの思いで一本を奪ったその相手から代わりに、とばかり与えられた十数発の打ち据えは、彼の服の下でまだ痛んでいるというのに、その張本人は忽然と姿を消してしまった。
❖
「……どうする、
腕時計を確認しながら日之が口を開く。
五社には地下施設がない。
が、それらしき扉も道も見つけられない。足跡は辿れず、焦りと苛立ちだけが募っていく。
「大型討伐が終わったなら学校にも人が戻ってくる、切り上げるしかねえか」
吐き捨てるように返して、もう一度端末に目を落とした。
今まで気づいていなかった
一体なんだと開いてみれば『帰りに卵買ってきて』なんていうメッセージが表示されて、思わず一瞬毒気を抜かれる。
「何だ、そんな気の抜けた顔して」
眉間の皺が緩んだのを目敏く見つけた日之が、背中から覗き込むように声をかけた。
「いや、
ふ、と日之が口の端をあげた。
日之の態度が軟化したことだけが原因ではない、
そのことを胡蝶花自身も自覚している。
(……夕飯、一度は誘ってもいいか)
濫と日之は
脳内でそう言い訳付けながら、胡蝶花は『わかった』とだけ打ち込んで、濫へと返信した。
ぴろん。
「あ?」
突然新たな通知が入った。
『討伐済神消滅せず』
画面に現れた文字列を睨みつける。日之も怪訝そうに顔を
討伐した神が、消えていない?一体どういうことなのか。
その疑問を口にするよりも次の通知が早かった。
ぴろん。
ぴろん。ぴろん。ぴろん。ぴろん。
ぴろんぴろんぴろんぴろん。ぴろんぴろんぴろんぴろんぴろん。
ぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろん
ぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろんぴろん。
背筋が凍る。ここまで多くの通知が押し寄せたのは初めてだった。
間抜けと称した音が、人のいない廊下に
『死亡舞手生徒、多数の神化を確認』
未だ通知は鳴りやまず、怒涛の勢いで洪水のように液晶を情報が流れていく。
表示された情報が正しいのならば、この通知音は今日死んだ舞手の数。
そして今から
「日之」
「ああ」
足を速めて廊下を抜ける。そのまま昇降口を二人は飛び出した。
『神の形態変化を確認』
『名称を
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