第9話 1つの物語の終焉へ

 アダムとイヴの旅も終わりが近づいていた。アダム派たちに守られてイヴは双子の男の子カインとアベルを出産したものの、その後の回復は思わしくなく、とても逃げ続けられそうもなかったからだ。そして悪い知らせは続き、彼らの隠れ家にアダンの軍勢が近づいていた。アダムは選択を迫られていた。このまま全員で滅びを迎えるか、降伏するか、それとも……。


「皆、聞いてくれ」



◇◇◇



 アダン率いる騎士団の大隊が、アダム教の隠れ家に乗り込んできた。乱暴に開かれた扉の先では、アダムとイヴが寄り添って座っていた。


「アダムとイヴだな」


「……」


アダンの問いに、アダムもイヴも答えなかった。


「降伏する意思はあるか」


「僕たちは、自分たちの思いを否定したりしない。……父さんのように」


「父? 父とは誰だ」


「父さんは、サタンはあなたたちに殺された。ただ考えが違うというだけで」


「サタンが父親だと? それは違う」


「なぜだ」


「お前の父親はこの私だ」


「……!?」


 アダンの言葉に、アダムは目を見開き、イヴはアダムとアダンの顔を見比べた。確かに2人の顔立ちは似ていた。


「私も驚いた。まさかリリスが子どもを産み、その子どもをあのサタンが育てていたとは。だから息子よ。こちらに戻ってこい。今ならまだ間に合う。父と子2人で力を合わせて苦しみのない世界を作ろうではないか」


「……それはできない。僕は僕の信じる道をいく。父さんのように」


 アダムはその言葉と共に、手に隠し持っていたスイッチを押した。するとアダンたち騎士団とアダムたちの間に透明な壁が下りた。アダンが透明な壁を拳で叩く中、アダムはイヴに話しかけた。


「ごめんね。イヴ。こんなことに巻き込んで」


「いいえ。あなたといられて、わたしは幸せでした」


 2人は抱きしめあい、ある薬を飲んだ。それはエデンでは広く用いられているもので、通称〝安楽薬〟といった。通常はあまりにも苦痛の増大した末期患者に用いられるものであるが、同時に自殺にも用いられる薬だった。2人はお互いを見つめて微笑み合うと、静かに息を引き取った。その姿を見届けたアダンは再び透明な壁を殴ると、そのまま震えながら地面に膝をついた。


「なぜだアダム! なぜだサタン! なぜおまえたちはこの苦しみの世界に希望を見出す! 妻も! 親友も! 我が子さえも喪う苦しみを与えるこの世界を!」


 そしてアダンは思った。


 ああ、生まれてこなければよかったのに。

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