第8話 アダムの目覚め
アダムとイヴが恐れていたとおり、すぐに騎士団がアダムとイヴの家に押し入ってきた。
「アダム。お前を第一級思想犯として逮捕、尋問する」
「……なぜですか」
「お前の罪状は3つだ。1つ違法薬物所持、2つ子を持つべきか悩んだ反出生主義法違反の疑い、そして3つ目。お前がエデン最大の思想犯、サタンの遺志を引き継いでいる可能性があるためだ。以上、連行しろ」
若い騎士たちは無表情でアダムの腕を後ろ手に拘束しようとした。そのときだった。黙っていたイヴが騎士の1人にタックルを食らわせた。
「逃げて! アダム!」
その叫びにアダムは逃げた。走って走って、気づけば彼は自身の誕生の地である「死の森」にたどり着いていた。アダムはかつて母も腰かけた大木に背中を預けて考えた。
なぜエデンでは生まれてくることは悪とされるのだろう。
なぜ子どもを持ちたいと思ってはいけないんだろう。
なぜ僕たちは滅びなければならないんだろう。
もちろんその答えもわかっていた。生きることが苦しいからだ。でもそうであるならば、生きることが苦しくないようにしていけばよいのではないか。皆で力を合わせれば、僕たちの子どもたちが、そのまた子どもたちが幸せになる未来だって作れるのではないか。なぜ、そう考えてはいけないのだろうか。
アダムは目を閉じ、サタンの顔を思い浮かべた。記憶のなかのサタンは優しく微笑むと言った。
『お前の信じる道を歩め。息子よ。私はお前を愛している』
アダムは決心すると目を開き、つぶやいた。
「わかったよ。父さん」
アダムの進む道はそのとき、決まった。
◇◇◇
それからアダムは町々を巡り、自分の思想を説いた。
「反出生主義法は間違っている! 確かに生きることは辛い。だけど、だからといって諦めるべきじゃない! 少しでも子どもたちが幸せになれるよう、皆で頑張るべきなんだ! 僕たちは子どもをもったっていい。もたなくたっていい。自由であるべきだ!」
しかしアダムの思想が人々に受け入れられることはなかった。人々は彼を異端と考え、迫害した。騎士団にも追われ、彼の身は常に危険にさらされた。しかし彼は辛くなかった。自分やサタンは正しいと信じていたし、なにより、イヴが途中で合流し、彼の旅に付き従ってくれたからだ。
そして2人の宣教は決して無駄ではなかった。少しずつではあったが、彼らに同意してくれる人々も現れたのだ。また地下に潜っていた旧サタン派の面々も合流し、アダム派は一大勢力になろうとしていた。
当然そのことを統一議会は危険視した。やがてアダム及びイヴの抹殺命令が下された。その指揮官に任命されたのは、あのアダンだった。
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