第4話 生まれてこなければよかったから死を選ぶ

 自分を育ててくれたサタンの処刑。その一部始終を見てしまったアダムは、死んだような瞳で町を彷徨い歩いていた。


どんっ


「おい」


「……」


「おい! このクソガキ!」


 アダムがぶつかった男は怒り、無視して進もうとするアダムの肩を掴んで無理矢理振り向かせ、その顔面に拳を叩き込んだ。地面に叩きつけられても反応を示さないアダムを何度も男は蹴った。


「ぶつかって来たんだから一言くらい謝ったらどうだ!? おう!?」


 何度蹴っても反応を示さないアダムに男は「けっ」と毒づくと去っていった。道にまるでごみのように横たわるアダムを、人々はチラチラと見ながらも足早に去っていくだけだった。やがて冷たい雨が降り出し、アダムの傷だらけの頬を濡らしていった。それはまるで泣いているかのようだった。そしてアダムは思った。


 どうして生まれてきてしまったのか


 かつてアダムを幸せにしてくれたサタンのぬくもりすらも苦痛に感じた。サタンの与えてくれた幸せが大きいほど、彼を永遠に喪った苦痛もまた大きくなった。

 アダムはゆっくりと目を閉じた。このまま地面に横たわっていれば、彼はいずれ死ぬだろう。しかし彼はそれでもよかった。これ以上生きることは、彼には辛すぎた。

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