第5話 生まれてきてくれて、ありがとう

 アダムが目を覚ましたとき、視界には茶色い天井が広がり、身体は温かく清潔な布団に包まれていた。全身の傷は丁寧に手当てをされており、包帯が巻かれていた。なぜ生きているのかと考えていると、部屋のドアが開き、1人の少女が入ってきた。少女はクリーム色の髪とアメジストのように輝く瞳、透けるような白い肌をしていた。少女はアダムが目を覚ましていることに気づくと、優しく微笑んだ。


「よかった。目が覚めたのね」


「……」


「大丈夫? 自分が誰かわかる?」


「……ぼくは、どうして」


「わたしが、あなたを見つけてここに連れてきたの。あなた、ひどいケガをした状態で倒れていたのよ」


「どうして助けたんだ……。ぼくは、死にたかったのに」


 その言葉を聞いた少女は、瞬間的に動いていた。次の瞬間、アダムは少女に右頬を打たれていた。


「バカ! あんたは生きてるんだからそんなことを言うな!」


 そう怒鳴られたアダムは、呆然とした表情で少女を見た。


「……あなたの大切な人も、あなたに生きていてほしいと思っているんじゃないの?」


「……!」


 その言葉にアダムはハッとして、サタンが言っていた言葉を思い出した。


『アダム。私はお前が生まれてきて嬉しい。確かにこの世界は楽しいことばかりではない。辛いことも多いかもしれない。だが、それでもなお、私はお前が生まれてきてくれて嬉しい。だって、お前に会えたから。私はお前に会えて嬉しいよ。アダム。生まれてきてくれて、ありがとう』


 サタンの愛情を思い出したアダムは、少女の言うようにサタンが自分が生きることを望んでいるのではないかと気づき、思わず涙を流した。そんな彼の頭を、少女は優しくなでた。

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