第3話 サタンの処刑
アダムが10歳となったある日、サタンは町にいた。フードで顔を隠し、食料の買い出しを行っていると、背後が騒がしくなった。サタンが振り返ったのとほぼ同時に、統一議会の〝騎士団〟数人が店に押し入ってきた。最後に入ってきたリーダー格らしき男が、他の騎士たちの前に出た。
「失礼。そこの方、フードを取っていただけるかな」
「……」
サタンは男の顔をじっと見た。長くつややかな黒髪と端正な顔立ちは、誰かとよく似ていた。サタンは運命を感じながら、フードを脱いだ。
「サタン、だな」
「……」
サタンは目の前の男をよく知っていた。サタンが反出生主義法に反対する運動を始めるまでは、親友だったからだ。
「国家反逆罪により逮捕する」
アダンの言葉にサタンは目を閉じた。それを同意と受け取ったのか5名ほどの騎士が彼を取り囲みを電子枷で彼の両腕を後ろ手に拘束した。そのまま首輪をはめられた彼はゆっくりと連行されていった。
その日サタンは自分の命を諦めた。
◇◇◇
あまりにも帰りの遅いサタンの身を案じたアダムは、行ってはいけないと言われている町に行くことを決心した。森を抜け初めて町に入った彼は、その人の多さに少しだけ息をのんだ。
それでもありったけの勇気を振り絞って町を歩いていくと、1人の男が紙を配っていた。男は「号外! 号外!」と叫びながら、アダムにも紙を渡してきた。紙に書かれた内容を見て、アダムは走り出した。紙にはこう書かれていたのだ。
苦しみを蔓延させる大犯罪者サタン処刑!
本日サントベルク広場にて
闇雲に走っていたアダムは人だかりを見つけた。まさかと思い、群衆の1人に声をかけた。
「す、すみません。この人だかりって……」
「ああ? 知らねえのか坊主。サタンの奴が死ぬんだってよ」
「……!」
アダムは声にならない声を上げると群衆に飛び込んでいった。そして小さな身体を活かして前に進むと、騎士たちが身体でバリケードをしているその先に、ギロチン台に拘束されたサタンがいた。その横には「安楽死」を執行するために立ち会っているアダンもいたが、アダムは彼が何者か知らなかった。
「サタン……!」
アダムはどうにか声を絞り出すと、サタンに近づこうと騎士たちが築くバリケードに突進する。しかし屈強な騎士たちの身体は幼い少年を通すことはなかった。
「サタン! サターーン!」
自身を呼ぶ声に、拘束されたサタンはアダムに目を向け、小さく微笑んでみせた。それを見届けたアダンは無表情で右手を上げた。
「それでは罪人に安楽なる死を」
その言葉を合図に、ギロチンの刃が落ちた。
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