第4話 運河巡り1
フューレアの交友関係は狭い。非常に狭い。
その数少ない交友を持つ人間でもあるギルフォードはフューレアの前に座り、ふわりと微笑んだ。
「帰国をして一週間以上も放っておかれるから、フューは私のことなんて忘れてしまったのかと思ったよ」
「まあ。大げさね。あなたはわたしの大切な人よ。忘れるなんてないわ」
「本当?」
ギルフォードの顔がぱあっと輝いた。
「ええ。大切な友人だもの。わたし、友だちが少ないからギルフォードには何でも話しせるし、とっても貴重」
フューレアはころころと笑った。
屋敷に引き籠っていることが多かったためフューレアには同世代の友人があまりいないのだ。幼少時から大人に囲まれて育ってきたため特に不自由を感じたことはなかったし、この国に来てからはギルフォードも親身になってくれた。旅に出るときにエルセと出会って、沢山のことを話して、旅先で友達もできて。最近になってフューレアの世界は広がった。
「そうそう、ギルフォードは初めて会うわよね。わたしの友人兼付添人のエルセ。ナフテハール商会の役員であるクライフ氏の娘でもあるのよ。旅行中もずっと一緒だったの」
フューレアは傍らに座るエルセをギルフォードに紹介した。
「初めまして」
エルセは少し硬い顔のまま自己紹介をした。
ギルフォードは小さく頷いた。
「ずっとフューに付き添ってくれていたんだって。私からも礼を言わせてもらうよ」
「いえ、そんな」
公爵家の嫡男相手ということであまり物怖じしないエルセでも少しは緊張をしているらしい。フューレアの友人同士が仲良くなってくれたら嬉しいと思ったのだが、打ち解けるには時間がかかるらしい。
「フュー、今日は私がきみを独り占めしてもいい?」
「え?」
「せっかく帰国をしたんだ。運河巡りをしながら旅の話を聞かせて」
「まあ、運河巡りだなんて久しぶりね」
フューレアは目を輝かせた。王都ロームには無数の運河が敷かれている。北側のハレ湖から無数の運河が放射状に延びていて、縦の線を繋ぐように横にも水路が張り巡らされている。
水路が発達をしているため、道路と同じように運河も市民の足の一つになっている。
「じゃあ決まり。この時間なら観光用の運河巡りができるから」
「早朝は荷物運搬が優先だものね」
ロームの運河はハレ湖に到着をした荷物を各方面へ輸送するためにつくられたもの。そのため時間によって利用に制限がかかるのだ。
フューレアはてっきりエルセとギルフォードと三人で運河巡りをするものだと思っていたのに、エルセは留守番をするという。
せっかく三人で仲良くしたいと思ったのに、とフューレアは無邪気なことを考えた。
ナフテハール男爵家から一番近くの運河へとやってきた二人は観光用のボートに乗り込んだ。大きな船ではないけれど、船頭は伝統衣装を身にまとっている。近年ではこのように運河巡りの観光事業にも力を入れているらしい。北の国だけあって夏は南の方面から避暑に訪れるお金持ちが増えるのだ。
いつもよりも低い場所から眺めるロームの街並みが懐かしい。
「やっぱり素敵ねえ。水の上から眺めるロームが一番素敵だと思うの」
隣に座るギルフォードにそう伝えると彼はふわりと微笑んだ。
大きく育った街路樹に、濃灰色をした煉瓦造りの建物。
上を見上げると緑の隙間から青い空が覗いている。水辺を踊る心地の良い春風。
「フューはロームが好き?」
「ええ。もちろん。この街並み好きよ。建物と街路樹と、それから橋の上に飾られた花。倉庫街の方へ行くと滑車が備え付けられているじゃない。それもロームらしいわよね」
初めてボートに乗せてくれたのは養父となったナフテハール男爵だった。
口数が少なく、周囲に慣れることもできずに、心を押し殺して過ごしていたフューレアを外へと連れ出してくれて、「ここがきみがこれから暮らす街だよ」と詳しく案内をしてくれた。
「旅行ももちろん楽しかったわ」
「話を聞かせてくれる?」
「もちろん! その話をしたくてうずうずしていたのよ」
フューレアは勢いよく頷いた。
「二年前、わたしたちはまず
アルメート共和国は通称西大陸、ディルディーア大陸から移民が入植をして誕生した移民国家だ。彼の地にロルテーム人が入植をして約百五十年ほど。彼の大陸には先住民族の王国もあるのだが大陸は広く、未開拓の土地も多い。荒れた土地を開墾して移民たちは入植地を広げていき、やがて独立をした。
海運業を生業にするナフテハール男爵家はダガスランドに支店を持っている。支店を取り仕切るのは男爵の弟なのだが、そこの視察を兼ねてまずは海を渡ったのだ。ちなみに現在ダガスランド支店では男爵の次男が籍を置いている。いずれ本帰国する男爵の弟に代わる人材というわけだ。
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