レイン

 玄関の方に目を向ける。傘がたたんで置いてある。

「ううん、これはあなたのものよ」

 あれが、初めてあなたがくれた笑顔だった。初めての、温もりだった。

 温もり?


 あなたの胸に手を当てた。

 あなたを、強く、強く、強く抱きしめた。


 ギッ……

 ギギギギギギギギ……




「ねえ、もっとあなたと一緒にいたいわ」


 ……私だって!

  



 私は、鋼の身体を呪った。

 こんな金属塊じゃ、あなたをあたためることはできやしない!こんなガラクタじゃ、涙なんて一滴も流れやしない!

 関節が歪む、乾いた嗚咽のイミテーションが、雨の音にかき消される。

 せめて、涙のかわりに、わたしのかわりに、あなたにあたたかさを届けられるものがあったならば……


 あなたを抱きかかえ、外に出た。

 穴の空いた傘を掲げて。


 ガシンッ ガシンッ ガシンッ


 背中が濡れてつめたい。でも、あの日の思い出はあたたかい。私は精一杯のスピードで、雨の中を進んだ。

 小径に沿って。あの場所へ。


 進め!止まるな、立ち止まるな!後百歩……五十歩……十歩……五……


 ガシン ガシン ガシン ガシン ガ……


 二つのライトが一度だけ強く光って、それから消えた。錆びた鉄塊は、小径のそばで二度と動かなかった。

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レイン 模-i @moaiofmoai

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