帰る所

 私は、ただ座っていた。あなたも、それがいいと言うように、ただそこにいた。静かな、静かな時間が、ゆったりと流れた。


 あなたと出会った場所は、小径のそばだったことを、私は一瞬忘れていた。

「暗くなってきたわ、そろそろ帰りましょ」

ギギ?

あなたは首をかしげた。


 ギッ ギッ ギッ ギッ


「っあ……」

 必死に首を振るあなた。違う!私はそんなつもりなかった!

「違う!」


 ギッ


 藍色の地平線が、窓越しに広がっている。


「私ね、忘れていたの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る