(10話の続き)刺青+α

「やってくれたな、二人揃いも揃って。久我は新米だが、後藤さん。アンタはベテランだろう。百も承知だろうが今回は始末書だけじゃ済まんだろうな」


瀬尾は深く静かに怒っていたが、まあ、普段の後藤を知る者は皆一様にまたかと言う表情だった。

瀬尾の前で項垂れる二人の様相は悲惨なものだった。

あちこちに服は破れ、髪はぐちゃぐちゃで青痣、擦り傷のオンパレードだ。

瀬尾がその場を離れると、反省したふりの得意な後藤が、自分のしでかしたことに茫然自失の久我の肩に、己の肩を意味ありげにぶつけて来た。


「へへっ、上手くいったな」

「何がですか!オレ達とんでもない事を、」


いつも規律正しく生きて来たと言うのに、全く歯止めが効かなかった自分に久我はただ驚愕だった。


「馬鹿か、見てみろよ」


そう後藤に促されて辺りを見渡すと、負傷したヤクザと警官が入り乱れ、物々しい様相を呈していたが、その中にたたんだ段ボールを持った捜査員達がヤクザ事務所に入っていくのが見えた。


「手順なんざ踏んでたら、いつ倉庫を拝めるか分かったモンじゃねえ。救急車と消防車は早いうちにってな」

「…後藤さんこれ、パトカーですが」

「んな細けぇ事は良いんだよ!これですぐに倉庫が拝めるじゃねえか」


そう言う後藤の顔は随分と愉快そうだった。

後藤は確信犯だった。

ヤクザと派手に揉めれば警察が大挙してやってくる。応援だの令状だの一々打診を待つ必要もない。

こうしてあっという間に捜査令状を持った警察官達が来たのだから効果は絶大だ。

その時だった。

鹿島を乗せた車がごった返しているビルの前へと停まった。中からはガウン姿の鹿島がこの有様を険しい顔で眺めながらゆっくりと降りてきた。

こんな場にあって、こんな格好でも様になる男はそうはいない。


「どう言うことだ!」


そう言う鹿島に捜査員が令状を見せながら近づいた。


「連続刺青殺人事件、並びに矢立カオルの殺人事件に関して倉庫の中に怪しげな物があると言う話を聞いたんが、ちょっと話を聞かせて貰いたい」

「こんなのは違法捜査だ!もし何にも出てこなかったらオタクら、」


そう鹿島が静かに凄んだ時だった。鹿島興業の中から別の捜査員が走り出してきた。


「刺青です!倉庫の中に大量の刺青が…!」


後藤と久我が行くぞと顔を見合わせた。

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