第3話 亜海

「次はフリーフォールに乗る約束だったな、亜海」

「うん。そうなの~」

 のんびりとした口調で、そう言う。

「摩耶はどうする?」

「私は見守っているわ。そうでなくては釣り合いがとれないもの」

 その精神は好きだが、もう少し自分をかえりみてもいいかもしれない。

「分かった。いってくる」「なの~」

「いってらっしゃい」

 俺と亜海はフリーフォールに向かう。

 そこで俺は同じ質問をぶつけることにしたのだ。

「亜海は、なんで俺のことを好きになったんだ?」

「え~。それを今聞くの~」

 不満そうに口を尖らせる亜海。

「そこをなんとか」

「しょうがないな~。わたしが好きになったのは購買で助けてもらったからなの」

「購買?」

「うん。お弁当を忘れて、ひとりで購買で立ち往生しているときに菓子パンを分けてくれたの」

 確かにうちの高校の購買は競争が激しく、なかなかたどりつけない。初心者であればなおのこと無理だろう。集団に押し返され、立ち往生している姿を思い出す。

「確かに、のんびりした亜海には無理だろう」

「そうなの。無理は禁物って言ってくれたのはあなたなの」

「そういえばそうだった気がする」

 会話しながら、フリーフォールの列に並ぶ。

 フリーフォールを体験すると、俺は頭の中がぐらぐらしたような気分になる。

「なぜ人類は恐怖を売り物にしているんだ?」

 なぜか魔王みたいなセリフを言う俺に対して、クスクスと笑う亜海。

「わたしは分かるの。胸がドキドキして、一緒にいられて嬉しいの」

「そ、そうか」

 照れくさくなり、頭をガシガシと掻く。

「俺はジェットコースターの方が好きだな、うん」

「そうなの。そうだ、君はどうして二人とも大切にしようとしているの?」

「え」

「だって、恋人がほしいだけなら片方と付き合えばいいじゃない」

「それは、俺がいやなんだ。真剣に告白してくれたのに、それを無碍にしていいわけがない」

「そっか……」

「そうだ」

 二人は笑いあい、集合場所へと向かう。

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