厄災の真相
一年前、神の世界に乗り込んだとき。最高神は新潟のダンジョンを持って人類に危機意識と多少の力を与えたかったと言った。
そして、それを俺が阻害したとしてステータスを奪った。
しかし、その先の理由は「人間である貴方には関係ない」と一蹴された。
思い返せば腹立たしい話である。
思いっきり俺を巻き込み、俺の名前を出したり俺への負担を大きくしたくせに。スタータスまで奪ったくせに「貴方には関係ない」なのだから。
しかしあの時は、最高神の力に及ばずついぞ聞くことが出来なかった。
……あれだけ巻き込まれていたら、力の有無に関わらず話を聞く権利くらいはあると思うけど。まぁ、さっきボコボコにしたのに免じて水に流そう。
最高神はポツポツと、あの時この世界に大量の魔物と神々を送った真相を語り始めた。
◇
「結論から言ってしまえば、今から約十年後に訪れる――高度に発展したこの世界の人類をも滅ぼすとても大きな厄災に備えるためです」
「ほう」
胡散臭い。
正直「遊び半分でした」とか「人類なんて滅んで然るべきゴキブリなので」とか、そんな理由かと思った。
いや、或いはそれを正直に言うのはさっきボコボコにされた手前言うのを躊躇っているのかもしれない。
そう思っていちかちゃんに聞いてみると、ウソは吐いていないっぽかった。
「それで、お前はその災厄から人類を守るために人類に力を付けて貰おうとダンジョンを送り込んだり、俺の名前を公表したり、世界を滅ぼしかねないほどの魔物や神々を送り込んだりした、と?」
「はい、そうです」
正座でぽつりと答える最高神は神の面影などなく、反省している一回の少女に視か見えなかった。
そんな彼女の言葉をいちかちゃんは「嘘ね」と一蹴する。
「嘘か。……いちかちゃんがいる限りバレるけど、時間が長引くし……三時間経ったら機械人形に話を聞いて貰うことになるぞ」
「ひっ、そ、それだけは……」
最高神は顔を青ざめさせて、話し始める。
「そ、その……そもそも、10年後の厄災って言うのが異世界から神の世界に向けて魔人が反逆を起こす事件で……魔人は神々の天敵です。
一応、神の世界が滅べば魔人は人類を滅ぼすし……人類に試練を与えて、強くなって貰って魔人の侵略を対処して貰おうかと思いまして……」
なるほど。だから人類をも、と。くだらない引っかけである。
「なるほど。新潟のダンジョンやその後に無数のダンジョンが出現した理由は解った――でも、じゃあなんで俺の名前を出したんだ?」
「いや、それは……人類で協力して倒して貰うはずだったのに一人で全部片付けられてちょっとムカついたからその意趣返しに、と……」
ほぅ。つまり、俺の名前を出したのはただの嫌がらせ、と。
「で、あの大量の魔物と神々は?」
「それは……冷静に考えたら70億人とか多すぎるし、でも経験値とかは有限だから運があって強そうな人間を一億人くらいに選別しようと思って。
わ、私も必死だったんです!! 魔人の侵略を対処しないといけないですし。でも彼ら全員が『固有スキル』を持っていて、しかもスキルもステータスもないから、私の力も全然通用しなくて……」
なるほど。実に自分勝手な理由ではあるけど、納得はした。
それに、少し面白い話も聞けた。
魔人は全員『固有スキル』を持っていて、スキルもステータスもない。そして、俺といちかちゃんは一年前の一件で『人魔』になった。
魔人との関係がないと言うことはないだろう。
或いは、固有スキルの存在とスキル&ステータスの剥奪が魔人たらしめ或いは人魔になるための条件なのかもしれない。
そしてもっと言えば、この最高神が俺にしたみたいにスキルやステータスを剥奪した固有スキル持ちのなれの果てが魔人なのかもしれない。
だとすれば、彼らが侵略しに来る理由も自ずと見えてくる。
要するにこの最高神――多方面から恨みを買っているのだろう。
俺だって、もし最高神へのリベンジが敵わず。『魔人』を名乗る集団に「これからみんなで最高神をボコすつもりなんだけど、一緒にどう?」と聞かれたら軽いノリで同行する自信があった。
要するに最高神の日頃の行いから出た錆び。それが俺たちにも大いに影響するという非常にはた迷惑な話だった。
いっそカナヘビの餌にでもしてやろうかと軽く思う。
とは言え、だ。
話を聞いた時点で割と魔人側に賛同したいところだが、それでも結果として地球が滅びるのはゴメンだ。
この世界にはインフラも美味しい御飯も愉快な娯楽も揃っている。
俺的には筋トレといちかちゃんがいれば割と十分だけど、やはり故郷が滅べばいちかちゃんが悲しむかもしれない。
それに、前の人生でも今の人生でこんなになっても見捨てないでいてくれた家族の生活とかも守りたいとも思う。
だからこそ、十年後俺はきっとこの世界に侵略してくる魔人と戦うことになるのだろう。
そのためにはやらないといけないことがいくつかある。
そして、その為には何よりもいちかちゃんが必要だった。
もし、いちかちゃんがいなければ俺はきっとどこかで世界を滅ぼしていただろう。
もし、いちかちゃんがいなくなれば俺はきっと世界を滅ぼしてしまうだろう。
いちかちゃんとは俺にとって生きる意味であり、モチベーションであり、癒やしであり、大好きな彼女で、そして俺の全てと言っても過言ではない。
最高神を神の世界に送還した後に、俺はいちかちゃんの手を取って跪く。
「いちかちゃん……」
言葉が出る前に、喉の奥がつっかえる。
どう言えば良いのだろうか。これは一生記憶に残る言葉になる。半端なものだとあまりにも格好が悪い。
そもそも、シチュエーションはムードは大丈夫だろうか。
最高神へのリベンジが終わった後って思ってたけど、でも……やっぱり別の機会にした方がいい気がする。
「や、やっぱり何でも……」
「靖くん……頑張って」
ない。そう言おうとして、いちかちゃんは真摯な視線で俺を応援してくれた。
あぁ、もの凄く格好悪い。
相手に応援されながらする男がどこにいるのだろうか。でも、いちかちゃんはそんな格好悪い俺の言葉を待ってくれていた。
告白の時はどうだったっけ?
あの時はヘタれて、いちかちゃんから告白されて――それ以来かなり手玉に取られていた気がする。
だからか、今回はいちかちゃんは俺の言葉を待ってくれていた。
或いは告白と違って、こっちはいちかちゃんも「される側に回りたい」と思っているのかもしれない。
俺も、こう言うのは男から言うべきだとも思うし。
俺はいちかちゃんの手を取って、真摯にいちかちゃんの目を見た。
「いちかちゃん。俺と、結婚してください」
「もちろんです」
この日、二度目の人生――もうすぐ18歳になる俺は、いちかちゃんにプロポーズしてOKされた。
つまり、俺といちかちゃんは結婚した!
いちかちゃんが名実共に俺のお嫁さんになった!!!!!
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