最高神へのリベンジ
2007年7月。世界中に俺こと佐島靖の本名をばらまき、まるでその原因の一端が俺であるかのようにダンジョンを至る所に登場させ、
2011年3月。そいつは、世界を滅ぼしかねないほどの大厄災をもたらした。
そいつの名前は知らない。そいつは、最高神を自称する少女である。
忌々しい。
そいつが俺の名前を出したせいで、俺は必要以上に目立ち不必要なトラブルに幾度となく巻き込まれた。
一発殴ってやらねば気が済まない!
そう思って開かれた神の世界への扉をくぐると、そこはポセイドンにとっての海のように最高神にとてつもなく有利な土俵で、鍛え上げていたスキルもレベルも全てを奪われ、俺は為す術もなく敗北した。
屈辱だった。
俺が弱く敗北したが故に、そいつはいちかちゃんの処へ赴き剰え俺を人質にとってはいちかちゃんからすらもスキルとレベルを奪い、他の世界中の全ての人たちにステータスや経験値を配りまくったらしい。
世界中の人たちはこれを機に100倍以上強くなり、俺たちは一時的に弱体化した。相対的にとても弱くなった。
とは言え、今となっては過ぎた話である。
結果として力は失ってなかったし、寧ろいちかちゃんと『従魔』『使い魔』の相互の繋がりが出来たり、学校を辞めてダンジョンの最下層で一日中いちゃいちゃしたり出来る分結果としては大いにプラス。
故にさして恨んでいるわけではないが、しかし許してやろうと言う気になるかと問われれば微妙だった。
ここ一年、確かにあの最高神は約束通り魔物や神を送ってきたりなんてしてないがそれがどれくらい続くかは謎だし、あのクラスの厄災は事前に予知していなければ、あれほどまでの対応は不可能だとも思っている。
いや、違うな。それはあくまでただの大義名分に過ぎない。
結局俺は、以前負けたからリベンジしたい。ただそれだけなのだ。
今回は勝算はある。それに、前回もなんとかなったから今回もなんとかなるだろうと楽観視している自覚もある。
それでも、最近は同じような毎日の繰り返しで。それは楽しいんだけど、それでも俺は刺激と娯楽を求めていた。
最高神が以前、俺に大いに迷惑を掛け延いてはいちかちゃんにまで実害を及ぼしたのにどんな理由があるのかは解らない。
面白半分かもしれないし、なにか理由があったのかもしれない。
ただ、今回俺は特に切羽詰まった理由があるわけでもなく。ただ、以前より莫大になったという自覚がある力試しを兼ねた、面白半分で最高神に挑もうとしている。
残り半分は、大義名分とか今までの仕返しがしたいとかそんなのだ。
そんなこんなで、今日最高神と決着を付ける――いちかちゃんを伴って。
◇
ところで最高神は神の世界とやらにいるけれど、かの少女にリベンジを果たすには大きく二つの方法がある。
簡潔に言ってしまえば『俺たちが神の世界へ行く』あるいは、『新たに創ったダンジョンの三十二階層に呼び出す』の二択である。
前者の利点は挑むだけなら、割と簡単にできると言うことだ。
具体的な方法としては俺がかつて踏み入れたあの感覚や記憶をいちかちゃんの『魔法』や『従魔』『使い魔』としての繋がり、絆をもって、あの場所に転移する。
問題点はその方法故にそれなりの魔力と気力を消費する上に、最高神の有利フィールドで戦わなければならないことだ。
スキルを封じるだけなら兎も角、他にもあるかもしれない。
有利なフィールドとはポセイドンにとっての海、俺にとってのカナヘビの迷宮――ステータスの差さえもひっくり返すほどに大きいのである。
逆に後者の問題点は、呼び出すのに尋常じゃない魔力と気力を必要とすることだ。
方法は、やはりこれも魔法や従魔・使い魔の繋がりと記憶でいちかちゃんと一体化して、最高神を召喚するのだが、相手は最高神である。
召喚魔法を拒絶されるかもしれない。しかし、呼び出した後はこっちが有利なフィールドで戦える。
いちかちゃんも一緒に居るし、殺戮機械人形も10万体以上いる。
負けるなんて事はないだろう。
だから、俺たちは後者の方法を活用することにした。
呼び出しに失敗したらその時はその時だ。俺たちの力が及ばなかったと言うことで次、また頑張って挑めば良い。
どうせ、そんなに焦る理由も無いのだから。
尤も、最悪のケースとして呼び出しに失敗した挙げ句に最高神の怒りを買って、魔力と気力を大量に消費した上で挑む嵌めになる可能性はあるけど、そんなことを言い出したら挑めない。
俺は、リベンジを果たしたかった。
……きっかけが欲しいのだ。
だから……
「行くよ、靖くん」
「うん」
いちかちゃんは目を瞑り、俺の額にこつんといちかちゃんの額を合わせてくる。
二人の感覚が曖昧になる。境界線がぼやけていく。
俺といちかちゃんを隔てる皮膚が骨が溶けていくように、いちかちゃんと一つになっていく。いちかちゃんの記憶が流れ込んでくる。
前の人生の記憶。――何度も話に聞いてきた。何度も愛を囁かれた。何度も言葉を交わしてきた。
それでも……
恥ずかしいくらいに、照れくさいくらいにいちかちゃんが俺のことを好きだって思ってくれる思いが、記憶が俺の中に流れ込んでくる。
……って、あれ、これが流れてくるって事は逆に俺の気持ちもいちかちゃんの方に流れてるって事だよね?
いやいやいや、待って!! 俺の記憶が流れたら……恥ずかしいような、照れくさいような嬉しいような。なんとも複雑で幸せな気持ちになる。
俺といちかちゃんの魔力が、全てが混ざり合っていく。俺は全てを受け入れられたような安心感を感じた。とてつもない安心感を。
そうか。それはもっともっといちかちゃんを愛して良いんだ。
これからもずっと、いちかちゃんは俺を愛してくれるんだ。
いちかちゃんの記憶が感情が、俺の感情と混ざり合ったときその瞬間は訪れた。
静謐で荘厳で、壮大な雰囲気。何か世界の絶対普遍の法則のようなものが改変されひっくり返るような感覚。
これはこの人生と前の人生の境目?
いや、違う……似ているけど、大きく違う。
「な、な……何ですか、ここは!?」
聞き覚えのある声が響いた。最後に聞いたのは一年前で、でも一年前と違って脳内には響かないその声。その少女の姿は、まさしく最高神そのものだった。
最高神は戸惑い、焦るようにキョロキョロと周りを見渡している。
俺といちかちゃんと、十万体の――以前よりもずっとパワーアップした殺戮機械人形。最高神はいちかちゃんと手を繋いでいる俺を見て、戦慄する。
「貴方、もしかして佐島靖くん……それに、その隣の小林いちかさん。ステータスもスキルもレベルも失った貴方たちが、今更、最高神たる私に何のようですか?」
そう呆れたように、言いつつも最高神は冷や汗を流している。
それもそうだろう。何せ、本当に俺たちが最高神に力を奪われたのだとしたら、俺たちは最高神をこの場に呼び出すことなんて出来ないのだから。
「とりあえず、去年のリベンジをさせて貰おうと思ってね」
「なるほど。神の世界でなければ勝てると思ったのですか。神を畏れぬその態度、全くもって愚かですね。生命としての格の違いを教えて差し上げますよ」
いちかちゃんが俺の手をギュッと握り返してくる。
そうして、最高神へのリベンジは始まった――
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