世界の終焉。或いは支配か
実家の目の前で大々的に行われているデモ。国からの軟禁。国内外問わず、俺を排除しようと動く世論。
……強すぎる力は核や毒ガスのように人間を本能的に恐怖させる。
だからこそ、多少は自重していたのに。
解っていた上で、それでも魔物に世界が荒らされるのが嫌だったから戦ったけど。でも、ここまで酷いとは――愚かだとは思わなかった。
あれだけの力を見せたら、抗議やデモなんか意味がないと。世界なんて軽く滅ぼせる俺への迫害なんて逆効果でしかないと理解してくれると思ったんだけど。
とりあえず俺は、一通り考えた後にとりあえず騒がしい外のデモからなんとかすることにした。
◇
デモ隊は、とりあえず威圧で沈静化した。
人魔になって、スキルによって得た技能の全ては反復試行による記憶になった。それによって威圧など一部制御不能だったスキルは、反復試行の補正が掛ることによってほぼ完璧に制御が出来るようになっていた。
具体的には、デモ隊以外の人が巻き添えで気絶しなかったと言うことだ。
「あ、相変わらずとてつもないね。佐島くん」
「まあね。って言うか、なんで孔明くんが?」
「……まぁ、それに関しては色々とこっちにも事情があるんだけど。……僕がこの人たちと一緒に居るのも、デモ隊を相手取っていたのも」
暗に、どっちから聞きたい? と孔明くんは聞いてくる。
正直、孔明くんが寵愛の星とかの人たちと一緒に居る理由はなんとなく察せられる――と言うか、俺といちかちゃんを覗けば孔明くんは職業・スキルの持ち主としてトップクラスの実力者だから、彼らが孔明くんに従うのはなんとなく解るから……
「デモ隊から、俺の実家を守ってくれた理由から聞きたい。それと、ありがとう」
「どういたしまして。まぁ、僕たちが守らなくても靖くんの従魔が守っているだろうしそんなに意味はなかったかもしれないけどね」
まぁ、それでも守ってくれてたのは嬉しかったのである。
「これは、僕がここに理由にも繋がるから先に言っておくと、このデモ隊の人たちの動きや佐島くんに対する迫害は決して世界の、人類の総意ではないってことだよ。
むしろこう言った過激派はごく一部。佐島くんを批判している人もいないことはないけど、逆に魔物から守ってくれたことや、今までダンジョンを沢山攻略したり、なんにんか職業による凶悪犯罪者を逮捕する協力をしてきたことに感謝している人たちだって少なくない。むしろ、こっちの方が多数派なんだ」
尤も、批判のために人は立ち上がるけど。「魔物を倒してくれてありがとう!」と大きな行動を起こす人は少ないから、批判の声ばかりが目立つけどね、と孔明くんは付け加えた。
言っていることはなんとなく解った。
要するに、あれだ。大抵の人たちは俺への批判もしていないし。感謝はしていても批判する過激派とは危なっかしくて関わり合いになりたくないから知らんぷりを決め込んでいると。
まぁ、俺も逆の立場なら知らんぷりを決め込むし傍観している人たちを批判する気にはならないけど。
それでも、俺が大きく失望しているという事実は変わらなかった。
ただ、孔明くんが態々この家の前に居た理由もなんとなく解った。
「正直僕は、佐島くんに対する世界の反応はあまりにも最低なものだと思う。失望もしたと思う。でも、それでも佐島くんを傷つけようとするのはごく一部だから。どうか、世界を滅ぼさないで欲しい」
孔明くんはそう言って、俺に頭を下げる。
もう、三年以上の付き合いになる孔明くんだ。
……これがこの現状を見て、世界を滅ぼそうかと思うのも。そして、こうして孔明くんに頭を下げられれば考え直すと言うのもきっと解っているのだろう。
孔明くんはなにも悪いことはしていない。それでも頭を下げるなんて容易に出来ることじゃない。
ただ、それでも俺の大切な人たちに世界が手を出した事実は変わらないというのも解っているはずだ。
それでも孔明くんは俺よりもずっと賢く、それでいて打算的だ。
だから、この続きがある。俺は沈黙をもって回答し、孔明くんに続きを促した。
「……ただ、この状況になった以上。今後佐島くんやその家族が悪意に脅かされるとも限らない。だから、それに対抗するために……佐島くんの王国を創らないか?」
「へぇ……」
思わず頬が吊り上がる。
王国か。思いつかなかったけど、ちょっと面白そうだと思った。
「佐島くんと、あの機械兵があれば軍事力は十全だ。そして佐島くんが一国の主ならば如何に外国とは言えども容易に手を出せなくなる」
「それで、どこにその王国を建てるの?」
「アメリカ……が良いと思う。豊富な資源と広大な土地がある。それも、ロシアやカナダと違って凍土じゃない、殆どが有効な土地だ。
それに、建国の歴史から一度も外国との戦争の戦場になったことがない好立地でもある。しかもアメリカは現状世界で唯一の超大国と言っても言い最強の国だ。
乗っ取ることが出来れば、世界は佐島くんの力に黙るしかなくなる」
なるほど。アメリカは地理的には類を見ないほど資源に溢れ有り余る土地を持つ国である。それ故にあの国は最強と呼べるまでに発展してきた。
それも2011年の今なら、中国に迫られているなんてこともないから、世界中を見ても頭一つ抜けていると言える。
そんな国を俺が制圧し国王になったら、世界は黙らざるを得ないだろう。
そして俺にはそれが出来るだけの力がある。
やるなら世界を全て滅ぼすか、世界を全て支配するかの二択だと思っていたけど、国を創ると言うのも結構面白いかもしれない。
「なるほど。面白そうだけど……いちかちゃんとも相談したいし、一晩考える時間をくれない?」
「うん! もちろんだよ!!」
俺の言葉に少しほっとしたように、安心したように。孔明くんは俺の手を取った。
◇
夜、俺といちかちゃんはいつものカナヘビのダンジョンの最奥に居た。
両親、祖父母、それにいちかちゃんの両親も居たため俺といちかちゃんの部屋がなかったためである。
そんなこんなで俺は、昼間、世界を滅ぼそうかと思っていたこと。
その矢先に孔明くんに国を創らないか? と提案されたことを話した。
いちかちゃんはぎゅっと俺を抱きしめながら、
「私は、世界が滅んでも。全てを支配しても。国を創っても――靖くんが側に居るならそれで良いわ。
もし、優しい靖くんが滅ぼすのに躊躇するなら私が時間を戻して3月11日のあの襲来を再現しても良いし。支配するなら、私も全力で協力するし。
あ、でも……靖くんが王様になるなら、私はお妃様になるわね。靖くんが王様になってもお妾さんは取らないで欲しいけど」
そんな風に、言ってくれる。
耳に馴染む、安心するような声。いつだっていちかちゃんはこんな俺を受け入れてくれる。俺にはもったいないくらいの可愛くて優しい女の子だ。
「例え、世界がどうなっても俺はいちかちゃん一人だけを愛すと誓うよ。前世からずっと。来世までずっと」
「私も……」
いちかちゃんは、俺に口づけをしてから微笑んだ。
いちかちゃんがお姫様になる国か。いちかちゃんは俺にとってのお姫様だし、実現するのは悪くないように思う。寧ろ良い!!
俺の心は国を創る方向に傾いていた。
でもそれ以上に、俺はいちかちゃんのかわいさに夢中になっていた。
「いちかちゃん……」
「良いよ、来て……」
前世では一回も経験しなかった。俺は二回目の人生を経て初めて、世界で一番大好きな女の子と愛を交し合った。
結局、朝まで一睡もしなかったことは言うまでもない。
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