従魔化と使い魔契約
最高神の試練によってスキルもステータスもレベルも職業も。最高神に没収され、大きく弱体化したかと思いきや、あの最高神には『固有スキル』が検知できなかったのか、お情けなのか『反復試行』は没収されなかった。
そして、その反復試行の真価は繰り返し反復して身につけたものは決して忘れないと言うことだった。
体感だと、スキルレベルがMAXになっていたスキルは大体全部使えるっぽいし、(鑑定がLv80辺りで止まっていたから、そこは残念だけど)
素のステータスも、筋トレのお陰でかなり高そうな雰囲気だった。
それに、俺が最高神に破れ寝ている間ずっとダンジョン内に居たみたいだから気付かなかったけど、職業は失っても変わらずカナヘビは俺の従魔だった。
カナヘビ曰く、従魔契約の前提に主の職業が何であるかは特に関係がないらしい。なんでも、魂レベルの契約だからつまり従魔という職業ではなく俺自身と契約しているから、俺が死なない限り無効にならないのだと。
それと同じ理屈で、俺の家族を護っているヘルメスピジョンも健在だろう。
あと、こっちの世界に残してきた100体ほどの殺戮機械人形も。
そして、ダンジョンマスターの権限は元々カナヘビが持っていた権限を主人である俺にそのまま渡した形だから未だに健在。
何なら、スキルもアイテムボックスはLvMAXだったから多少は狭くなるけど(アイテムボックス拡張を失っているため)ダンジョンを出し入れすることは出来るし。
実質的に失ったものと言えばレベルMAXじゃなかった増強、強化系に伴う多少のステータスと鑑定くらいのものだった。
まぁ、増強強化の喪失は100倍近く俺のステータスが下がったから痛いっちゃ痛いんだけど、それでも残ったスキル――と言うより、反復試行の真価によって身についたそれらは最高神の支配下にないから、恐らく無効化されない。
つまり、次は最高神のフィールド下であってもいちかちゃんを守り抜けると言うことだ。
収支で言えば寧ろプラスである。
◇
翌朝、起きてみると靖の力が昨日よりも大きくなっていることをいちかは『慧眼』によって察知した。
何で……いや、恐らく『反復試行』の影響だろう。
いちかの『慧眼』は多くのものを見ることが出来るけど、自分以外の固有スキルの真価までは覗くことが出来なかった。
だからこそ、反復試行の真価の力だと確信したのだが。
「(うそ……じゃあ、また靖くんは私を抱きしめてくれなくなるってこと!?)」
今のいちかは以前のいちかに比べても遙かにステータスが低く、スキルも所持していない。それこそ、最高神が靖といちかのステータスを全て奪い、それを全人類に分配した現状じゃ並以下の強さである。
だからこそ、抱きしめられたら。それ以上のことをしたら、いちかちゃんは物理的に壊れてしまう。
……そんな事実に靖は気付いて、昔のように靖から積極的に触れてこなくなるだろう。高校生になって、そろそろ大人の階段を上りたいと思っているのに、全てがお預けになってしまう。
「(それは嫌だ!!!)」
いちかは慧眼とその試行をフルに活用して、靖といちゃついても壊れないで済む方法を模索した。
……そして、見出した結論は
「靖くん、唐突だけど……私を従魔にして!」
◇
「え?」
「いや、その……私を靖くんの従魔にして欲しいなって」
朝、俺の顔を見るなり何か考え込んでいる様子だったいちかちゃんは、唐突にそんなことを言い出した。
聞き間違いかと思って聞き流したけど、どうやらそうではないらしい。
じゃあ、なんで?
「えっと、その……いちかちゃんの真意が掴めないんだけど」
「それはね――」
なんでも、要約すれば俺がいちかちゃんを従魔にすれば俺がかつて持っていた『従魔強化』や今も持っているらしい『数値の暴力』などの恩恵を受けることが出来て、俺が抱きしめても壊れない程度には頑丈になれる可能性があるらしい。
称号も健在なんだ、とか。人間も従魔に出来たの? とか、色々とツッコみたいことはあるけど、いちかちゃんを従魔に……か。
う~ん。力を取り戻して「これでいちかちゃんを護れる!」と安堵したのも束の間――いちかちゃんも最高神のせいで弱体化しているし、俺といちゃつこうものなら壊れてしまうくらいに脆い。
だからこそ、抱きしめても壊れないようになるのは嬉しいけど
「いちかちゃんは良いの? 俺の従魔になって……」
俺といちかちゃんは対等な関係でありたいと思っている。だからこそ、形式上でも主従の契約を結ぶのに抵抗があった。
でも、それ以外のことを考えるとメリットは多いんだよなぁ。
「……私は、良いよ。従魔の関係になればもっと靖くんと繋がれるし。それに。もし靖くんが主従の契約に抵抗を持っているって言うなら……一応、靖くんの従魔になった後の力なら私も『使い魔契約』が使えるようになるから」
つまり、いちかちゃんは俺の従魔になり、俺はいちかちゃんの使い魔になると。
いちかちゃんが俺のご主人様で、従。うん。なんかこう背徳的というか、倒錯的と言うか……。でも、なんかこう良い。その関係。
使い魔契約は解らないけど、従魔契約は結べばお互いの居場所が解るようになったり、遠隔でも会話できたりするようになるから便利なのだ。
それに、俺もいちかちゃんの主で僕になる訳だから関係としても対等と言えるだろうし。提示されるメリットが多い分、最早断る理由は無かった。
「じゃあ、いちかちゃんを従魔にするね」
本当はいちかちゃんに受け入れる気持ちがあって、俺が従魔にしたいと念じるだけで契約は完了するけど。俺がしたいからと言う理由で、キスをして契約した。
「んっ……!?」
いちかちゃんは驚いたような顔をしてから、俺の方にもたれかかるようにして倒れ込んだ。俺はいちかちゃんを受け止める。
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
「だい、じょうぶ……」
種族 人魔
名前 小林いちか
Lv 1
固有スキル『慧眼』
ん? 何これ。初めて自分を鑑定したときのような。それでいて種族:人魔って。人間じゃなくなっているんだけど。
もしかしてこれ、俺の従魔になったせいで人間じゃなくなっちゃった?
……いや、まぁいちかちゃんが例え人間じゃなくなっても俺の愛する彼女であると言うことには変わらないんだけど。
種族が変わったって言っても、見た目は変わってないし。
「でも、本当に大丈夫? 種族人魔ってなってるけど……。そもそもいちかちゃんのプロパティが覗けるのも気になるし」
「靖くんが見えるようになったのは、私が従魔になった影響で『慧眼』の力をほんの少しだけ使えるようになったからだよ」
なるほど。って、人魔の説明にはなってないよね!?
そう抗議しようとした俺の口は、いちかちゃんのキスによって塞がれた。これって使い魔契約……。慧眼を少しだけ使えるようになったせいで、この契約にキスが必要ないことが解ってしまう。
故にいちかちゃんがキスしてくれたのが嬉しい反面、さっき俺がキスしたのも俺がしたかっただけってのが伝わってそうで気恥ずかしい気持ちが入り交じった。
そんなこんなで、俺はいちかちゃんの使い魔になった。
その刹那、身体中に細胞が丸ごと作り替えられるような。魂が全く別のものになるような。苦痛と、成長の高揚感が入り混じるような。不思議な感覚を感じた。
これが、さっきいちかちゃんが俺にもたれかかった原因! 人魔になった理由!
そして……
種族 人魔
名前 佐島 靖
Lv 1
固有スキル『反復試行』
俺もいちかちゃん同様、人魔になった。
レベルこそ1ではあるものの、恐らく最高神と戦う直前の――増強、強化スキル込みの俺よりもやや強い。
ステータスを失った今、具体的な数値は解らないがそれだけは解った。
この日、俺といちかちゃんは二人で人間を辞めた。
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