未曾有の厄災

 2011年3月11日金曜日。午後14時半頃。


 宮城県は仙台市にて、気配を消して座ってた。

 自らのステータスを完全に解放し、世界中に範囲を広げてもなお余るほどの濃密で膨大な魔力を地球上全てに張り巡らせて、災害の予兆を探っていた。

 来るのがただの地震なら、俺は関与しない。


 地震の原因も、それが起こるメカニズムも全くと言って良いほど理解していない俺にはそもそもどうしようもないからだ。

 だが、ダンジョンや魔物による災害なら俺は全力で叩き潰す。

 それが、俺が今世で鍛え莫大な力を得た意味だと思っているからだ。


 そして数分探っていると、沖合に魔力の歪みを感じ取った。


 もの凄く強大な脅威が近くに来ている。そんな予感がする。


 バンッ!!!!


 何かが――魔力なのか、空間なのか。前の人生では観測し得なかったなにがしかが爆ぜる音がした。

 地面が揺れる。縦に。並の人間では立ってられない程の大きな地震が来る。


「地震だ!! これはデカいぞ!! 避難しろ!!!」


 誰かがそんな言葉を放つと同時に、あちらこちらからサイレンのような耳に触る音声が鳴り響いた。皆が持つ携帯電話の地震警報の音だ。

 人々が逃げ惑う。そのずっと先。仙台よりも100kmほど離れた場所に、不気味な魔力の気配を感じ取った。


 俺は世界中に張り巡らせていた自らの魔力を、自分の身体の周辺300kmほどまでに狭め、練り上げる。

 0.1秒も掛らず辿り着いたその場所には10万は超えそうな程の魔物の群れが犇めいていた。


種族名 バーサク・オーガ

名前 なし

体力 12億3500万7255/1億35万7452

筋力 550億2225万8990

魔力 500

敏捷 2720     ▲

Lv 305

職業 狂戦士

スキル

『体力増強LvMAX』『体力強化Lv8』『筋力増強LvMAX』『筋力強化Lv55』

職業スキル

『狂戦士化』

特殊スキル

『体力自動回復』『筋力硬化』『金剛力』『物理攻撃完全耐性』


 レベル305!?

 レベルの割にはステータスが低いように思えるけど、それは増強系が少ないから。俺がレベル305の時に比べればどのステータスをとっても非常に低いけど、それでも魔力と敏捷が輪をかけて低い。

 なんとも極端な配分のステータスをしている。


 でも、あのなんちゃらくんが持っていて俺の頭を僅かに悩ませた職業スキル『狂戦士化』を所持しているから、そのステータスは更に膨れあがるだろう。


 とは言っても所詮は5倍とか10倍だから、京単位のステータスがある俺の前には蟻と同然だ。だが、数が多い。このバーサク・オーガだけで5万匹。

 ……って、待てよ。確か狂戦士化って魔力を0にする欠陥技だった気がする。

 だから、魔力が籠もるデコピンでも死ぬんじゃないかってあの時頭を悩ませた訳だし……


 俺は、一も二もなく展開した魔力を固めそのまま纏めてプレスした。


 魔物の集団の半分が一瞬で肉塊へと変貌し、残りの半数が膝をついた。

 膝をついたモンスターは


種族名 トロール・ワイズ

名前 なし

体力 12億1312万7255/12万7452

筋力 8990

魔力 550億2350万

敏捷 2720     ▲

Lv 305

職業 賢者

スキル

『体力増強LvMAX』『体力強化Lv8』『魔力増強LvMAX』『魔力強化Lv55』

職業スキル

『魔力完全耐性』『魔法完全耐性』『四元素魔法』『邪神官魔法』

特殊スキル

『体力自動回復』『魔力完全耐性』『魔法完全耐性』


 こちらもまた、バーサク・オーガ同様なんとも極端なステータスをしたモンスターだった。こっちは魔力特化か。

 魔力のゴリ押しの補正もあって、全力でやれば潰せるだろうけど……魔力プレスの効き目が薄いのは面倒だな。

 ……なるほど。物理特化のバーサク・オーガと互いの苦手を補完し合う組み合わせって訳か。


 ステータスがカツカツだったら、苦戦していた相手かもしれない。


 そんなことを思いながら、放たれた四元素魔法を全て魔力で消滅させつつ、五万匹にも及ぶトロール・ワイズを一匹一匹殴り殺した。

 魔力プレスよりも効率が良さそうだと思ったけど、全部かたづけるのに3秒も掛ってしまった。魔力でゴリ押したほうが楽だった説はある。


「う~ん。ただ、思っていたよりは敵が弱いなぁ。カナヘビクラスが100万や200万は押し寄せてくる想定で準備したんだけど……」


「……これでも我、亜神の中では最も下級神に近いと言われるくらいには強かったんじゃが……」


 少し不機嫌そうに、我クラスが何百万もいて溜まるか! と憤るカナヘビを宥めながら、俺は周辺1000kmの魔物の気配を探る。

 ……!? なるほど。そう言うパターンか。


 福島、青森、岩手、秋田、山形の東北から、北海道の南部あたりまで――およそ百カ所以上も!?

 ……今戦った魔物の群れクラスの魔力反応を感じる。

 それに……宮城県沖合に、馬鹿でかい魔力反応がもの凄い速度でこっちに迫ってきている。多分、俺の予感だとカナヘビよりも遙かに強い相手だ。


 厄介なパターンだ。レベル305以上のモンスターの大群。


 俺にとっては一匹一匹は途轍もなく弱いけど、それでも、一匹でも野放しにすれば街一つ――国一つが簡単に滅んでしまうほどの脅威。

 決して撃ち漏らしてはならない。一秒足りとて対応が遅れてはならない。


 どこか一つでも、どこか一手でも瓦解してしまえばその瞬間に何十、何百万人という犠牲がいとも容易く出てしまう。

 想定していた中でも、俺が最も面倒だと思っていた災厄だ。


 創作だとスタンピードと呼ばれることが多い、ダンジョンからか次元の歪みからか異世界からかは様々だが、共通して言えるのは魔物の大奔流。

 大量の魔物が街を国を襲い、その上特に強いボスまで用意されている。


 俺にとってレベル三桁程度の魔物を相手にするのは、例え相手が何万匹いようとも苦にもならない。体力自動回復と、超再生のスキルでダメージ収支を0に抑える自信もある。

 でも、俺のようにステータスが高いわけではない。

 全ステータスが100を下回る一般人――流れ弾で、剣戟の風圧で死に兼ねない人間を護りながらとなると難易度は更に跳ね上がる。


 魔物同士の距離が離れていたら、分身を使いたいところだが、俺の分身は出せる限度まで世界中に配置していて――それでいて、確認するとどの分身の個体も少なからず魔物と戦闘していて呼べそうにもない。


 ただ、一つ一つ潰してその都度走って次のポイントに向かっていれば、無駄も多くなり、あの一秒でも放置すれば何十万人と殺しそうなあの魔物からこの国を世界を護るのは非常に難しいだろう。

 正に、絶望的な状況だ。


 俺一人ならな。


 俺には、可愛くて頼れて信頼できる最高の彼女――いちかちゃんがいる。


 いちかちゃんと一緒に作った頼れる仲間『靖といちかの殺戮機械人形Lv999』がいる。

 特にこの東北には、一番厄介な敵が来そうだと思っていたから分身ではない俺が来ているし、それに……殺戮人形も100体も連れてきている。


 100カ所? 寧ろ少ないくらいだ。


 殺戮機械人形たちは、既にポイントに散らばって各々が魔物との戦闘を始めている。

 そして俺も、宮城県沖合に生じた大きな魔力の歪みの元へ辿り着いていた。


 目の前に立つのは、ただでさえ大きいシロナガスクジラを更に大きくしたような下半身と、筋骨隆々と言った表現が相応しい――素晴らしい筋トレの成果が見える美しい状態をした人魚のナイスガイだった。


「ふむ、なるほど。貴様が神々の試練を乱す不届き者か――」


 そのステータスは……


種族名 ???

名前 ポセ???

体力 ???/???垓

筋力 ??垓

魔力 ???垓

敏捷 ?兆     ▲

Lv 4???

職業 ???

スキル

???

特殊スキル

???

固有スキル

???

称号

『上級神』


 全く鑑定で見えないのに。意味不明なほどに高くて、レベルが四桁を越える4千台にに突入していることだけは理解できた。

 狂っている。間違いなくこいつは、俺なんかとは次元が違う


 ――化け物……否、神だ。


 俺は、神と戦う――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る