厄災への備え
2011年3月11日金曜日、15時より少し前。宮城県の沖合で発生したマグニチュード9を観測した地震の揺れ。それに伴う津波によって他数の犠牲者を出した、未曾有の災害、東日本大震災。
前の人生、俺が住んでた地域でも震度5の揺れを観測して「そう言えば中越地震以来だなぁ」なんて暢気なことを考えた記憶がある。
今度の人生、中越地震の日に震源地に発生したダンジョンを攻略してから俺は、少なからず2011年3月11日を警戒していた。
今度の人生でも東日本大震災が起こるのか、あるいは中越地震のダンジョンのような大規模なダンジョン――いや、それ以外の何かしらの厄災が起こるんじゃないかと俺は予想している。
予想していて、俺は別にただ惚けていたわけではない。
ダンジョン、三十一階層の更に下層に敷設された第三十二階層。そこに並ぶのは、数にして一万の、全身に禍々しい武器が取り付けられた機械人形。
二年前、俺が中学二年生になった頃に思いついて以来ずっと準備してきた俺の従魔であり兵隊である。
これらは元々、俺の魔力の多くをダンジョンポイントに変換して生み出したモンスター『失われし殺戮機械人形Lv999』である。
鑑定によると、古代文明とやらで生み出されその文明を滅ぼした機械人形が永い時を経て魔物になったとかいう……
このダンジョンで生み出せる機械兵シリーズの中で最もステータスが高くスキルの数が多い……つまり最高グレードの機械兵である。
そんな最強の機械兵を、そのまま従魔に……したわけではなく。今度は生み出した一万の機械兵をいちかちゃんと協力して改造した。
と言っても、改造作業をしたのは殆どいちかちゃんであるが……。
『失われし殺戮機械人形』に施した改造は大きく三つ。
一つはいちかちゃんの魔女スキル『錬金術』によって『失われし殺戮機械人形』を構成する金属をオリハルコンから、宇宙飛行用のセラミックに大量の魔力を込めて変質させた別の物質にグレードアップした。
セラミックは、俺が宇宙基地に忍び込んでこっそりと拝借してきたアメリカの国家機密級の最新鋭のものをいちかちゃんが解析し量産した奴である。
それに俺が大量の魔力(100兆くらい?)を込めて変質させたその物質の耐久は地球を壊せるかもしれない俺の全力パンチを5回も耐える程である。
二つはこれまたいちかちゃんの魔女スキル『魔法付与』によって様々な魔法を付与して貰った。
ダメージを受けたら回復する『回復魔法』
受けたダメージを反射する『報復の呪い』
魔力が使えない空間でも使えるようにするための『時空間魔法』を応用した、魔力入りのアイテムボックスの三つは全ての機体に付与した上で、
役割によって頑丈さを更に底上げする魔法や、遠距離攻撃の威力を上げる魔法、やられそうになったら魔力が続く限り相手諸共自分の時間を停止させる魔法など、様々な魔法を二つから三つほど付与して貰った。
そして俺は、暇なときに余った魔力をこの機械兵たちに注ぎ込んでいった。
そして最後の三つ目は、改造と言うよりその結果なんだけど……散々強化しまくった『失われし殺戮機械人形』は、俺が従魔術で従魔にして、強化を施した瞬間。
俺の称号『数値の暴力』や、魔物のステータスを高める効果は貯蔵していた魔力にまで影響し、その強さは従魔にする前の千倍に膨れあがる。
その影響で、この機械兵は種族進化を起こしたこの従魔のステータスはこんな感じである。
種族名 靖といちかの殺戮機械人形
名前 0000~9999
耐久 10京/10京
馬力 10京
魔力 100京
速度 10京 ▲
Lv 1000
職業 なし
スキル
『鑑定Lv10』『ダメージ軽減Lv10』『アイテムボックスLv10』
特殊スキル
『耐久自動回復』『魔力完全耐性』『魔法完全耐性』『物理攻撃完全耐性』『共同体』『ダメージ分散』『共有解除』『学習』
被付与魔法
『回復魔法』『報復の呪い』『空間魔法(魔力保有)』『時間魔法(緊急時時間停止)』『支援魔法(ステータス強化)』『聖魔法(防御結界)』『付与魔法(四属性魔法付与)』『味方召喚』
10京って……魔力以外全部が俺より遙かに高い。
元は、100兆くらいのステータスだったんだけど、俺の数値の暴力や従魔師の強化スキルの影響で100倍くらいに強くなって、その影響で種族進化したら更に10倍くらい強くなってしまった。
数値がぴったりなのは、機械兵が増強系のスキルを取得してないのと、俺といちかちゃんが鑑定で調整しながら作ったからである。
ただ、この人形――俺の想像以上に強く出来すぎてしまった。
まず特殊スキルの『共同体』は、あの一万体が一つの個体として繋がっているために情報を常に共有出来るのである。
それだけじゃなく、ダメージ分散によって一個体に与えられたダメージは残りの一万体に分散されるのである。
これは一見デメリットのように見えるかもしれないが、一万体で分散されると言うことは耐久性能が単純に一万倍になると言うことである。
つまり、10京という――今の俺の10倍に及ぶあのステータスを一万体同時に壊せる火力で殴らなければ倒せないのである。
おまけに些細なダメージは『耐久自動回復』や付与された回復魔法によって即座に回復される。その上で、どれか一体でも受けた攻撃は全個体で共有され『学習』されるから、二回目は同じ攻撃がまず通用しないし、本格的に全滅しそうな攻撃が来そうなときは、トカゲの尻尾切りのように『共有解除』のスキルによって、損害を最小限に抑えることも出来る。
味方召喚によって、増援を一瞬でどこからでも呼ぶことも出来る。
従魔師が、自分より強い従魔を従えて戦うのはそうおかしな話でもないと思うけど――それでも、これはいくら何でもやり過ぎたとは思ってる。
一体一体が太陽系を滅ぼせそうなパワーを秘めているのに、それが一万体いて、おまけにそれぞれが繋がることでシナジーが生まれているのだ。
二年間。俺は、来たるべき2011年3月11に備えて、これを用意していた。
そして、今日がその日である。俺の記憶が正しければ、数時間後この世界に未曾有の厄災が訪れる。
故に俺は東北地方を中心に俺自身と俺の分身10体その周りに100体の機械人形を設置する。
ただ、それだけだと東日本以外の場所で厄災が出たときにも不安なので、俺の分身を日本の至る所――否、世界中の至る所に派遣しては、それぞれに平均10体ずつの機械兵を付けた。
分身の数は全部で1000体。機械兵は1万体。
俺はあまり他人を思いやれる人間ではないし、例えその力があったとしても、見ず知らずの人を助けようとするほどお人好しという訳でもない。
故に、人々のためになると言われてもダンジョンの攻略は月一だったし。
例え、善良なる市民が不安に思ったとしても、俺は俺の気分で逮捕依頼が出ていた人たちを警察に突き出さなかった。
俺はどこまでも、自分の都合で自分のためだけにこの力を使いたいと考えている。
そして俺は、今の生活がそう嫌いじゃなかった。
学校には友人がいて。俺の人生には最高に可愛くて天使な彼女がいる。その生活を支える街があって、それなりに治安の良い国がある。
便利に使える電気があって、美味しく食べられる食べ物があって、温かく過ごせる服がある。未曾有の厄災はそれを脅かすかもしれない。
世界中で甚大な被害が出て、日々の幸せな日常が壊れるのは避けたかった。
それも魔物の、ダンジョンの――前の世界では存在しなかった、理不尽で不条理な厄災に壊されるのは。
だから俺は、俺のために戦う。
明日、気持ちの良い朝を迎えるために。いつも通りの平穏で幸せな日常を謳歌するために。今の人類じゃ太刀打ちできない魔物が来ても、それだけは俺が始末せねばならない。
それは、初めてダンジョンに潜ったあの日から変わらぬ俺のモットーだ。
そして、時が来る。
今までにない未曾有の災害が、この地球に訪れる――
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