特に有望な学生の職業報告2

 資料を貰った三日後、土曜日を利用して報酬百万円の依頼をこなすために件の埼玉にあると言うダンジョンに向かった。

 案の定、俺たちの安全の保証のためと言う建前を付けて自衛隊が同行することになった。まぁ、本音は俺たちの力を見たいのだろうけど。


 1%でも出したら騒ぎになるだろうし、面倒ではある。

 しかし、結論から言ってしまえば今回のダンジョンは完全攻略――つまり、ボスの討伐に至るまでそう時間は掛らなかった。


 理由は大きく分けて二つ。


 まず、この迷宮に出てくるモンスターの大半がゴブリンやオーク――それも、レベルが高くて20と言うもの凄く弱いモンスターしか出てこなかったこと。

 いや、まぁ。俺的にはレベル999のモンスターでもそんなに強くないと思うのだが、そう言う話は考えなくてもレベル20のモンスターは弱い。


 そりゃ、レベル20だからレベル1の孔明くんの10倍くらいは強いけど所詮は十倍だ。重火器を持った自衛隊の人たちでも軽くひねり潰せるだろう。知らんけど。


 そしてもう一つは


「え、エターナルフォースブリザード……」


 耳を赤くしながら、魔法を放ついちかちゃんの存在である。

 いちかちゃんは以前、探求の授業で魔力の操作を誤って訓練場一面を凍り漬けにしたことがある。

 まぁ、その気になれば魔力量的に地球上全てを凍り漬けに出来るだろうしあれでもかなり上手に制御出来ていたと思うが……


 それは兎も角、いちかちゃんはあの校庭くらいなら氷漬けに出来る魔法が。俺は警官を纏めて気絶させることが出来る威圧が。

 それぞれ既に、自衛隊の人たちにも知られているっぽかったのでその程度までなら最早隠す意味もなくなったことにあった。


 ぶっちゃけ、このダンジョンのモンスターなんてステータスを解放するだけで勝手に威圧の余波で気絶するし、いちかちゃんがかなり弱めに打った氷魔法で三階層ごと氷漬けになる。

 まぁ、俺がステータス解放すれば自衛隊の人たちも巻き添えになるから控えたけど。


 その代わりいちかちゃんが氷魔法を打って敵を全滅させて、あたかも大魔法を使って魔力が減ったから回復してます見たいな雰囲気で休憩しつつモンスターが落としたアイテムをホビットラビットが回収していた。


 いちかちゃんが恥ずかしそうにしていた詠唱も、あの魔法が大魔法ですよアピールのためである。

 果たしてそれに意味があるかは解らないけど、もし「地球上を凍り漬けにする力がある」と言おうものなら全世界がいちかちゃんを殺そうと動くかもしれない。


 体力が一京もあるいちかちゃんをどうやって殺すのかは不明だけど。


 そんなこんなで、ボスも精々レベル30しかなく。いちかちゃんが氷漬けにして、エクストラボスが出ることもなく攻略が完了した。

 ダンジョンは攻略しても消滅しなかった。……エクストラボスを倒していないからだろうか?




                   ◇




「それで、件の佐島靖に依頼したダンジョン探索の件。どこまで探索出来たのかね?」


「ボスまで討伐して、完全攻略致しました」


「か、完全攻略だと!?」


 防衛大臣である佐藤信宏は思わず身を乗り出す。

 それもそうだ。あそこのダンジョンのモンスターはどれも来れも硬すぎて銃弾を弾く。あるいは、あの硬い皮膚を貫通する威力の高い銃弾は一発撃つのにも相当な費用が消耗するし、その上上手く眉間をぶち抜いても即死せずに一回は動いて斬りかかってくるのだ。それが厄介でけが人も出た。

 それ故に、自衛隊の精鋭でもまともに対応できず困っていたのだ。


「ど、どうやってだ……」


「小林いちかが、全てを凍り漬けにして……」


 氷漬け……あぁ。あの探求の時間に1haを凍らせたという。


「ほ、他は?」


「それだけです。……強いて言えばあの魔法を使った後、消費した魔力を回復すると言って、佐島靖といちゃついていました。

 その間佐島靖は、ホビットラビットにアイテムを回収させていました」


「そうか……そうか……」


 うわごとのようにそうか、と呟きながら佐藤は部下からの報告を必死に理解しようとしていた。話には聞いていた。なんとなく解っていた。

 警官十五人を気絶させる佐島靖は勿論、小林いちかも自衛隊が束になっても苦戦していた魔物を鎧袖一触で凍り漬けに出来る強力な魔法が使える。それに、三時間以上持続すると思われる回復魔法も使える。


「それで、彼らのダンジョンでの様子は」


「それが、相変わらず緊張感に欠けていて……と言うか、入り口で全て凍らしていしまうので、警戒する必要がそもそもなさそうな感じでした」


 彼らにとっては階層丸ごと凍らせるだけの力があるのだ。緊張感を持てという方が無理な話だ。しかし、やはり彼らは


「まだ、全力は見せていなさそうだな」


「はい。恐らく実力の半分……いや、三割程度しか見せていないと思われます」


 報告する部下も末恐ろしいものを思う表情をしている。

 佐藤はその部下に激しく同感だった。だって


「(あれで三割……。となれば最悪、彼ら一人一人が武装した軍人100人分の戦力を持っている可能性があるのか)」


 思春期で不安定な精神状態の中学生が、戦闘機に匹敵しそうな力を持っている。


 凄く恐ろしかった。

 昨今では戦闘向きの職業持ちやスキル持ちの犯罪も増加の傾向にあり、社会はそう言う面にかなり敏感になっている。


 もし、靖やいちかが力を暴走させれば何十――下手すれば何百という犠牲が出てもおかしくない。そうなれば、力を持たない……現状人口の八割を占める職業『村人』の国民たちは不安に駆られ、それ以外の職業を排除しようと思うだろう。

 いや、現状でもその傾向が薄らと見え始めている。


 故に、何かあったら『村人』とそれ以外の職業の人間の対立が戦争が起こる。


 そして、靖やいちかの驚異的な強さを見ると間違いなく村人以外の人が村人を支配する世界になってしまうだろう。

 佐藤は、そんな悪夢のような未来を想像し戦々恐々とした。


 実際は、靖もいちかも佐藤の想像の、誇張じゃなく一億倍の力を持っているのでそう言う話にはなりえないのだが……


「ポジティブキャンペーンから始めよう! 戦闘に向いた職業の人間でも、犯罪を犯すのはごく僅かだ! むしろ、村人以外の彼らが積極的にダンジョンを討伐したり、スキルや職業を用いた犯罪を取り締まるように動いて貰うんだ!!

 そして特に優秀な人間をメディアで大々的に宣伝して、スキルや職業は味方だと印象づけるんだ!!」


 そのためには、報酬も名誉も賛頌も惜しんではならない。


 先日までとは違って、佐島靖に依頼を出したことであの夏以来この国で初めてダンジョンのボスが倒され、攻略されたという実績もある。

 そして、ゴブリンやホビットラビットなどダンジョンにいる魔物が落とす魔石というアイテムがエネルギーとして利用できる研究も進んでいる。

 ダンジョンは石油も石炭も取れない日本にとっての、貴重な資源となる。


 故に。予算を引っ張ってくるのもそう難しくない!!


 そう確信して、佐藤信宏は後日佐島靖に「是非、人類の希望としてテレビに出てくれないか?」と頼んでみたけど、頑なに断られた。


 大金が手に入ると言っても、有名人になれると言っても、女にもてると言っても、「絶対にやりません!」の一点張りだった。

 と言うか、女にもてる云々の話をしたときは背筋が凍るかと思うくらい怖い思いをした。


 本当は、誰よりも名前が知れ渡っている佐島靖にお願いするのが一番だったけど、あまりしつこくして嫌われるのも嫌だし。なにより怖いので諦めることにした。

 代わりに、別の職業持ちに声をかけるのだがそれはまた別の話である。


 ただ、「日本で初めてダンジョンボスの討伐!!」と言う見出しで、新聞に載せられて晴れて全国に『佐島靖』の素顔が知れ渡ったのはご愛敬である。

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