特に有望な学生の職業報告
今、日本に五つ実験的に敷設された職業養成学校。その中でも特に有用そうな職業やスキルを持つ人間が集められた特別クラス。
その中でも特にダンジョンの探索、攻略において役立ちそうな職業の中学一年生~高校三年生までの学生を実習として比較的安全性の高いダンジョンに潜らせてみた。
「ふむ。ホビットラビットが特別クラス前衛職に匹敵する強さに、か……」
ホビットラビットはモンスターの中でも、特に弱いという認識があった。
確かに嘗めてかかれば怪我をする相手ではあるが、身体能力自体は中学一年生に等しい。職業補正があれば優に圧倒できる弱さである。
それが、特別クラスの前衛職程度に強化されるのは驚異だ。
それこそ、高難易度ダンジョンに出てくるゴブリンやオーク――それもレベル15クラスの奴を強化したら一体どれほどまでに強くなるのか……。
そして
「それは何体強化できるんだ?」
「……解りません。ただ、あれ一匹だけと考えるのは浅はかでしょう」
それに、報告には武装した警察官を15人纏めて恐慌状態に陥れ気絶させる『威圧』のスキルまで持っているらしい。
やはり世界で最初のスキル持ち。その実力は解っている段階だけでも別格だった。
「……ぬぅ。後は参謀軍師と忍者は――まぁ期待以上って感じだが、この魔女はなんだ? 1haほどもある訓練場を瞬く間に凍り漬けにした?
それに、一度かけただけでダンジョン探索最後の瞬間まで発動し続ける回復魔法。両方を扱える魔法職なんて存在したのか?」
魔法使いなんて、ただでさえ希少な職業である。
その中で攻撃ではなく、回復の魔法を使える人間は更に稀少だし。それに、ダンジョン探索最後の瞬間までって……三時間ほど持続する回復魔法なんて聞いたことがない。
「はい。しかし、小林いちかが今回の探索で見せたのは最初の最初に使った回復魔法一回きりでした。本人は、佐島靖共々著しく緊張感に欠けている印象はありましたが力自体はまだ隠し持っているように思われます」
「これでまだ実力は未知数か。今回のダンジョンじゃ彼らの実力は測れなんだな。報告を信じる限り、強さだけなら自衛隊の精鋭にも匹敵しそうだが……」
いや、武装警官を気絶させた。あるいは1haを氷漬けにしたと言うだけで十分自衛隊の精鋭を越えているが。
「ここは一つ、試しに我々でも探索に手こずっているダンジョンの探索に協力して貰うのも面白いかもしれんな」
「手こずっている、ってあのダンジョンですか!? 彼らはまだ中学生ですよ!?」
「中学生。そう侮った結果が、警官十五人の気絶だと思うんだがね。こうしてダンジョンが出現し、人類に職業やスキルが与えられた昨今じゃ最早年齢も性別も体格も、なんの関係もない。報告を見た限りだと彼らは強い。
こちらもダンジョンの探索に手こずっている現状猫の手も借りたいのだ」
「で、ですが……。彼らはやる気がないと思いますよ」
そう。そこがネックだった。報告を見る限りだと、探索の最中佐島靖と小林いちかはずっといちゃついていたらしい。
それは圧倒的な力を持つが故の自信か、慢心か。傾向としてよろしくないのは確かである。
「それでも、ダメ元で頼んでみる価値がある。もし彼らが私の想定通りの働きを見せてくれるのであれば、それは大きな躍進に繋がる。
とりあえず百万円――いや、佐島靖と小林いちかにそれぞれ100万円ずつで、ダンジョンの探索を依頼してみたい」
「中学生に……に、二百万!?」
一回の仕事で一人頭百万円。二人合わせて二百万。それも中学生相手になんて聞いたことがない。
「だが、ダンジョン探索のための最小単位である一個小隊を動かすには一千万は掛る――それでめぼしい成果はなし。もし彼らが成果を上げられるなら、以来は大幅なコストカットに繋がる。
場合によっては彼らへの依頼報酬を上げることも視野に入れたい。最早佐島靖はただの子供だと侮るな」
防衛大臣、佐藤信宏はあの声を聞いたときから佐島靖を警戒すると同時に。どうにか国に取り込めないかとも考えていた。
そのためにお金を惜しんではいけない。
何よりも最悪なのは、佐島靖が他の国に行って戦争に参加するようになってしまうこと。尋常じゃない強さの従魔。警官を一睨みで無力化する威圧。
この力が外国に渡るようなことがあれば、国の防衛が危うくなる。
だから、佐島靖が望むものならできる限り与える必要がある。
それは財でも、名誉でも、女でも。
そのためには、ちゃんと予算を組んで――いや、寧ろポケットマネーで試験運用してその結果を基に資金を調達するのもありか?
これは先行投資である。
靖といちかはこれ以上ないって程手を抜いてダンジョン探索に臨んだのに彼らの知らないところで、事態は目まぐるしく動いていた。
◇
退屈なダンジョン攻略実習から二週間ほど、特になにかあるわけでもなく。いつものように体育と探求を全サボりして早めに家に帰っては、いちかちゃんといちゃついたり戦闘訓練に勤しんだり。
何も変わらない、いつも通りの日常を過ごしていた。
「……俺たちに、ダンジョンの探索依頼?」
「うん。防衛大臣からの個人的な依頼ってことになっているみたいだけど」
そんな折りにいちかちゃんは、先生に渡されたと言って書類を取りだした。
なるほど。現状自衛隊でも詳しくは調べられていないダンジョンの探索依頼。
……前回の実習、結局かなり手を抜いた――と言うか、これ以上できないってくらいに弱く見せたはずなんだけど、こう言った依頼が来るのか。
いや、まぁ隅田さんには一応ダンジョンのボスと会ったことがあることまでは話したし、それに俺は警官を15人気絶させた、いちかちゃんは氷漬けにしたこともあるし、そこから判断したのだろうか?
どちらにせよ、俺もいちかちゃんも今まで外では全力の百万分の一も発揮していないし力を隠すのは無理だっただろう。
「って言うか、依頼料100万!? しかも、俺といちかちゃんにそれぞれ100万ずつ出るんだって! 結構良くない?」
「100万……それは、スゴいわね」
100万円って、クイズ番組の賞金と同じくらいである。
ダンジョンの場所は埼玉県だから、走って15秒くらいか。俺といちかちゃんだけなら、カナヘビクラスのダンジョンでも1時間程度。
自衛隊の人とかが付いてくるとか言い出したら、俺が初めて潜った程度のダンジョンで5時間程度か。
時給二十万。悪くない。
「いちかちゃん、折角だしこの依頼受けてみない?」
ステータスが何兆何京とある俺といちかちゃんに身の危険が及ぶとは思わないし、それに威圧や氷漬けである程度力を見せてしまっている以上、隠しすぎるよりかは、多少人の役に立って友好的なアピールをした方が良いとも思う。
それに依頼料100万円。断る理由も特に思いつかない。
「私も賛成ね!」
いちかちゃんの同意も得られたので、この探索以来を受けることにした。
因みに受けるって言ったら、先生が死ぬほど喜んでいたらしい。まぁここの先生は防衛省の関係者が多いし、防衛大臣の依頼と言うことで色々と大変だったのだろう。
先生も大変なんだなぁと少し同情した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます